表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/130

49.ミゥ、ありがとう

 翌日


 平日は長い。早く休みが来て欲しい。そう願いながら今日も仕事。

 フユユさんはベンチで座って観察モード。仕事は週2の契約なので暫くお休みです。


 彼女は膝の上にスライム乗せて抱き枕にしてます。

 スライムよ、その位置代わって欲しい……、いや何を考えているんだ、私は。


 最近自分でもおかしいと思う時があります。フユユさんの声を聞いてると頭がフワフワすると言うか……。これが恋なのでしょうか。今までそんな気持ちになったこともないので全く分かりません。仮にそうだったとしてこの子に手を出していい道理はあるでしょうか。


 いや違う。そもそもの論、フユユさんが変なことをして来るのが悪いんですよ。昨日の海でもそうでしたし、この前のお茶会でもあーんごっこしたり、その前だって……。


 待てよ。もしかすれば全部仕組まれていたのではないでしょうか。そういう状況に追い込むことによって私の選択肢を奪う。そして自分に好意を抱かせる巧妙な作戦。昔読んだ漫画でヤンデレという属性の子がまさしくそうでした。あの時はヒロインが殺害されていましたが。


 そもそも今までの出来事だって私が断れない状況を作られていた。やはり全て計算されていたのでは? これは確認する必要があります。上司として、フユユさんの今後の為にも。


「フユユさん。少しこちらに来てください」


「ふえ……?」


 彼女の手を引っ張り路地裏の方へと歩いて行きます。


「大事な話があるのでそのスライムは一旦閉まってください」


「う、うん」


 視界の隅でチョロチョロされると気が散るので。スライムが消えたのでフユユさんを壁際へと追い込みました。所謂壁ドンをしてやります。


「ミゥ……?」


 驚いた顔をしてますがもう騙されません。


「私の質問に正直に答えてください。もし嘘を言ったらバイトをクビにします」


 こんな手を使ってはいけないし、上司に知られたら私のクビの方が危うい。けれど確認しなくてはいけない。これは私達の為なんです。


「え、えっと……?」


 戸惑った顔もかわいい……。ダメダメ、もう惑わされません。

 私は理性ある大人なんです。


「本当は全部お遊びなんでしょう?」


「お遊び……?」


「とぼけても無駄です。私をからかってそういう気にさせて楽しんでいるのでしょう?」


 ここは仮想世界。現実とは違う。だからどんな不条理も不合理もリアルではない。

 だったら現実では得られない何かをここで満たす人だっているかもしれない。

 たとえば……恋とか……。


 でも現実でお遊びの恋なんてしたら浮気や不倫となって断罪されます。けれどここなら明確な裁きは下せない。だったら相手を落とすという楽しみ方もまた、MMOの遊び方とも言える。


「遊びなんて……違うよ……私は、ほんとに……」


 っ……。


 心が痛い……。


 でもこういう風に言ったら私が喜ぶって知ってわざとしてるんでしょう?

 もう騙されませんよ。


「だったら私を本気で愛してるって言えますか?」


「え……」


 ほら言葉を詰まらせた。本気じゃないから、遊びだから言えないんですよ。


「あんまり大人をからかってはいけません。フユユさんだって警察のお世話になりたくないでしょう?」


 ここはゲームだからギリギリセーフでも現実でもしそんなことしたらどうなるか分からない。この子の未来の為にも心を無にしないと。


「い……言えるよ……?」


 顔を赤くして目を逸らします。


「そう、ですか? じゃあ……言ってください、よ」


 あれ、なんで私も恥ずかしくなってるんだろう……。

 また頭がフワフワ……。

 いやそれ以上に胸の中が熱い……。

 ここはゲーム世界じゃなかったの……?


「あい、して……るよ……」


 ~~~~~~っ!!!


 なんですか、この胸の高鳴りは……。


 いや、違う。これも全部罠。全部フユユさんに仕組まれてるんです。

 この子がそうしてるだけ……。絶対そう。そうでなかったら私がこんな……。


「そ……そうですか……。なら……いいんです……」


 なんて情けない声を出してるんだ。もっと疑いなさい。


 いや無理……。

 疑えなんて無理……。


 おかしかったのは私だ……。

 この子が嘘言うような子じゃないって知ってたじゃない……。


 やっぱりこれが私の気持ちだったのかな……。


「言った、よ……?」


「は、はい。その……すみません。変なこと、聞いて……」


 ……気まずい。目を合わせられない。


 そもそも変なことをしてたけど、こうやって面と向かって気持ちを聞き出したのは今までなかったような。


「ミゥは……言える……?」


 わ、わたし?


 そんなのどうしろと……。


「ミゥも私と遊びじゃないって……言える……?」


 まずい、墓穴掘ってる。どうしよう……。

 ご、誤魔化す……?


 いやでも私が疑うようにフユユさんだって私を疑う気持ちがあるはず……。

 でもこの熱を伝えたら、きっと……。


 言うしか、ない。自分でやった行いだ。

 自分の責任くらい自分で取りなさい。


「ぁぃ……して……ます……」


 もう何も考えられない……。

 理性も思考もどこかへ置き去りにした……。


 湯冷めしたみたいに頭がボーッとする……。

 今更になって自分の気持ちが分かった……。


 もうこの子なしでは生きていけないのでしょう、私。


 フユユさんの顔は真っ赤だ……。

 私もこんな顔してるのかな……。


 どうでもいいや……。

 ただ、手を絡ませる……。

 その小さな手の熱を私にも分けて……。


 もういい……。

 社会が私達を許さなくてもここでならきっと許される……。

 だから今だけは……。


 フユユさんと目が合う……。

 そっと目を閉じた……。


 いいよ……。

 私もしたいって思ったから……。


 だから……。


 _______。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ