46.私が頑張る理由をくれたのは……
翌日
広場に降り立つ。ログイン完了っと。今日からまたお仕事頑張らないと。
周囲を見渡します。あれ、いつもならフユユさんがベンチに座っているのですが今日は見当たりません。
「ミゥ~」
すると聞きなれた声がしたので振り返ります。すると門の向こうからフユユさんに……それに隣に時計ウサギとワーウルフを連れていました。テイムモンスター!?
「ごめん、遅くなっちゃった。ワンダーのダンジョンボス周回してたら時間忘れて」
ワンダーのですか。あそこのダンジョンはお城になっていて多くのトランプ兵がいます。何よりボスがジャヴァウォックというドラゴンのように大きなモンスターですからHPも高くかなり強敵だったはずです。それを周回していたのですか。いや、それよりも。
「テイム、したんですね」
ずっとソロ縛りをしてるように見えましたが。
「うん。ミゥと果てを見るって約束したから。今までのマップのモンスターはレアも含めてテイムしてきたよ」
たったこの短い間で? 確かに昨日は決意に満ちた顔をしてましたがまさかここまで本気になるなんて思ってもいませんでした。というかこの短期間で全部テイムしてくるなんてとんでもないですね。
「私、一番を目指す。絶対ミゥを連れて行く」
どうやら本当のほんとに本気になったようです。まるで自分のように嬉しいです。
「あーあ。宝石獣逃がしたの馬鹿だったなぁ。図鑑コンプできないし復刻待ちかなぁ」
あの頃は病んでるように見えましたし仕方ないというか。
でもそれは杞憂でしょう。
「フユユさんだからこっそり教えますけど、実はあれ限定でもなんでもなく後半に出現するモンスターなんですよ」
小声で教えます。リリースして間もなく限定モンスターなんて開発する余裕もなかったので後半のモンスターを前倒しに使っただけなんですよね。
「そうなんだ。よかった~。でもミゥだめだよ。私もプレイヤーなんだから教えたらダメ」
ちょっとだけ頬を膨らませてます。本気になったからネタバレされて不機嫌になったのでしょうか。なら今度から気を付けませんとね。
「しかしどうしてその2匹なんですか?」
レベルが10を超えたので2匹連れるようになったのでしょう。
「ワーウルフは攻撃高くてボスを速攻撃破するのに強いんだよね。でも少し被弾したらやられちゃうから、時計ウサギにヘイト向けさせて攻撃する感じ」
なるほど。時計ウサギは足も速いので敵からの攻撃も当たりにくいです。フユユさんは本当に慣れてますね。
それでその2体をボックスに預けました。普段は連れない感じなのでしょうか。
「全部捕まえたなら連れてはどうですか?」
「ミゥがいるのに余所見してる暇はない」
こういう所は相変わらずですか。
「それとミゥが前に話してくれたデバッグの件、応募してもいいかな?」
まさかそこまでやる気に満ち溢れているなんて本当にフユユさんですか?
いえ。きっとそれだけ彼女の中で心境に変化があったんでしょうね。
「もちろんです」
「でも履歴書の書き方分からないし……」
「私が教えますよ。課長に連絡するので少々お待ちください」
メールだと返信が遅いので直接連絡しましょう。
※通話後※
「了承を頂きました。なのであちらのベンチで早速記入してみましょうか」
ベンチに座って運営のデータから、更に自分のフォルダへアクセスして、履歴書を出現させます。いつかフユユさんが応募してくれるかもと思ってフォルダに入れてあったんですよね。
早速記入開始なんですが……。
フユユさん、どうしてそんなにくっつくんですか。
「あの」
「ごめん。目が悪くて……」
嘘か本当か分かりづらい言い方はやめて。
「少しだけ離れられないでしょうか。その……私も意識してしまうので……」
言ってて恥ずかしくなる。
するとフユユさんが更に抱き付いて来ました。うぅ、本当にやめて……。
「ミゥ……教えて……?」
甘い声で耳元で囁かないでください。
絶対わざとでしょ。もういいです。仕事中に遊んでるわけにはいかないのでさっさと教えましょう。
「個人情報や写真はあとで自分で記入し……て……」
ダメだ、意識するな。たかだかアバターが密着してるだけじゃないですか。
だってこんな腕に絡んで……胸を当ててきて……上目遣いで画面見て……はぁかわいい……。
無理……もう無理……私の理性が終わる……。
「ごめん……。やりすぎた……」
あ……。フユユさん離れちゃった……。
でももう少しだけそうして欲しかった……。私、天邪鬼だ……。
※共同作業で履歴書完成※
「これで大丈夫だと思います。これをフユユさんのメールへ送付しますので、個人情報等はあとで記入してそれを人事へ送ってください。人事の宛先も一緒に添付しておきます」
人手が足りないので落ちることはないでしょう。
正社員ならともかく、ただのバイトですからね。
「週2だけど大丈夫そう……?」
フユユさんが恐る恐る聞きます。
「大丈夫だと思います。それに後で私の方からもフユユさんがこのゲームに慣れてる旨を説明しておきます。もしかしたら既に耳に入ってるかもしれませんし」
以前協力して頂いたのでその時の報告書があれば、ほぼほぼ採用は決まってるでしょう。
「そっか……。ミゥ、ありがとう。私、ゲームも仕事も頑張ってみる」
最初会った時は病んだ目をしてたのに、今は生き生きして私も嬉しいです。
これまたログインする楽しみが増えました。