44.テイム失敗……でもいいや(チラ)
休日。
「ミゥー、来てくれたー」
ログインして広場に来たらフユユさんが一目散に胸に飛び込んできます。
人目をもう少し気にして欲しいものです。
「今日も攻略ですよね?」
「お願いー」
フユユさんが離れてメニュー画面を開いてマップを表示させてました。
「いやー。本当広くなったかな。次行けるのは北の機械の街、南の水の都、東のワンダーワールド、西のモンスターパーク、更に北東はモノクロワールド、北西がジュラシックワールド、南西がクリスタル迷宮、南東がホットアイス山脈。名前を見ただけでもどこも楽しそう」
「基本的にマップ間は連動してるのでたとえばモノクロへ行きたいなら機械の街かワンダーを攻略する必要がありますよ」
なので最初は東西南北のどこからか攻略する感じになりますね。
「昨日ミゥが出したモンスター、絶対ジュラシックワールドの奴でしょ」
真実を知りたければその目で確かめよ、なんてね。
「どこへ行きますか?」
「んー。前に海行ったから水の都はいいかな。機械の街もちょっと面倒そうだし後にしよう。よし決めた。ワンダーワールドへ行こう」
では出発です。
※お菓子の街※
ワンダーワールドはキャンディエリアの更に東となるのでお菓子の街を経由します。フユユさんは地図のサポートAIを使用して次の行先を表示させています。地面には赤い矢印が表示されて行先を教えてくれています。
「今日は着替えないの?」
そういえば制服のままでした。今回はどうしましょうか。何か考えるのも面倒ですね。
これにしましょう。
「女Tシャツさんだ。元気にしてた?」
あの、私の本体はその『女』の文字ではないですが。あとどさくさに紛れて胸をポンポン触らないでください。
「じゃあ私もこれにしようか」
フユユさんもお着換えのようです。そしたら何と……。
「銀髪猫耳メイドさんじゃないですか。お久しぶりです」
メイド服はたまに来てくれましたけど猫耳はすごく久しぶり。これは思わず撫でてしまいます。
「にゃおん」
猫の手ポーズかわいい……。尊死……。
「そだ。今イベントしてるから一緒に写真撮ろうよ」
否応なく抱き付いてきます。フユユさんがダブルピースするものですから、私も片手だけ。
パシャッとな。
「いい絵撮れた~。これスマホのホーム画面にしよ」
それならこの服じゃなくてもっと可愛いの着ればよかった……。
さてさて、次へと進みます。
その先はお菓子の街には似合わない教会でした。中へ入ると大聖堂のようになっていて、一番奥に大きな絵画が1つ飾られています。それはまるで絵本のような淡いタッチで描かれた絵でした。矢印はその絵画を指しています。
「まさかこれに入ると?」
ワンダーというならお察しですよね?
さぁ絵の世界へ飛び込みましょう。
※ワンダーワールド※
画面が白く暗転してすぐに景色が変わります。まず視界に入ったのは大きなティーカップ。私の身長の何倍もの大きさがあります。周囲を見渡すとそこは女の子の部屋のようでベッドや机、棚には可愛らしいぬいぐるみが飾られています。問題はそのどれもがあまりに大きいということ。私達は机の上に立っていますが床までの距離もすごく離れています。
「まさか小さくなった系?」
周りの物が大きいのでそう考えるのが自然ですね。
「攻略しよっかー。まずは机から下りないとかな?」
他に行けそうな所もないのでそうなりますね。
フユユさんは床を見下ろします。
「この高さから飛んだらさすがに即死でしょ?」
ゆるいゲームですが一応はリアル風な物理演算を採用されてます。なのでフユユさんの勘は正しい。
「あそこに椅子がある。あそこから下りられそう」
フユユさんが迷いなく飛び降りました。床と半分くらいの高さだったのでダメージは受けてません。私も行こう。
……ぐえ。足挫いたー。
やば、床に落ちる。死んじゃうー。
こうなったらあれだ。デバッグモード!
床に着地。ノーダメージ。セーフ。
「チートに頼るからプレイヤースキルが落ちるんだよ」
返す言葉もございません。
ピンクのカーペットの上を歩いていると敵さん出現。2足歩行の白いウサギ。手には懐中電灯を持っています。ただこちらに気付くとパタパタと逃げてしまいました。
フユユさんはディレイを駆使して相手の動きに合わせて手を動かしてます。
そしてマジックアローを放った。時計ウサギの背中に命中して消滅。スナイパーもびっくりの狙撃力。
本来であれば壁際まで追い込んで攻撃するのが普通なんですけどね。
「ここってやっぱり不思議の国のアリスがモチーフ?」
「そうですね」
体が小さくなったり敵もそんな感じです。
それからフユユさんと仲良く探索しますが彼女は困った様子でした。何せ先へ進む道がなく、部屋の扉はしまっていて、小さな穴すらありません。
「これは別の道があるのかな。あそこ、登れるかな?」
指さした方向に本が階段みたいに積んであります。それはベッドへと続いていました。
ふかふかのベッドの上へと来るとそこに小さなポッドの上でスヤスヤと眠ってるネズミがいます。特に攻撃してくる様子はありませんが一応は敵です。
フユユさんが軽く拳で叩いてます。けれど減ったHPはすぐに回復してしまいました。
「なるほどー。リジェネ持ちかー」
不思議の世界なので登場するモンスターも変わった個性を持ったのが多いです。戦いにおいても意外な活躍が見込めるかもしれません。
フユユさんは眠りネズミさんを見逃して先へ進みます。
それから小物などを伝って勉強机まで来れました。机の一番上には紫色の縞猫がちょこんと座っています。
「お~、チェシャ猫さんじゃないか~」
『ニシシ。迷える者が来たみたいだね』
「喋った!」
チェシャ猫さんはNPC扱いなので敵ではないんですよね。体力ゲージもありません。
『もしお困りならヒントをあげてもいいよ』
チェシャ猫さんが喋っていますがフユユさんがファイアーボールで攻撃しました。
何してるの? チェシャ猫さんは体を半透明にさせて攻撃を無効にします。
『僕に攻撃しても無駄だよ。ニシシ』
「敵対はしないかー。こういうのって実は固有ボスだったりするんだよね」
たとえそうだったとしても会話中に攻撃するのは悪逆すぎる……。
「そうだ。テイムできないかな」
フユユさんがスキルを使います。魔法陣が光ましたが……。
『僕は誰にも囚われない。悪いけど君には付いていけないよ』
専用の台詞が用意されてるみたいです。けれどフユユさんは諦めずテイムを連打してます。
『何度お願いされても無理さ。僕はここから離れられない』
台詞が変わった。でもフユユさんはまだテイムしてます。
『君、本当懲りないね。僕は君の仲間にはなれないよ?』
それでもまだ続けてます。
『早く攻略したらどうだい? それとも僕と遊びたいのかな?』
すごい。台詞一杯。
『君は僕をからかうのが好きなようだ。SPが勿体ないからそれくらいにしておきな』
それでも続けてる。
『もしかして僕の台詞が変わるから楽しんでる? 君はゲームが好きなんだね』
メタ発言までしてます。
『……』
黙った。さすがに終わり?
『えっと。本当に何もないんだけど』
ついにチェシャ猫さんが引いてる。
でもフユユさんはやめない。
『はぁ。分かった。君の粘り強い努力に免じてこれをあげるよ』
まさかの隠しアイテム。フユユさん、これを知ってたの?
「猫の指輪だって。落下ダメージを減らせるみたい」
「よく気付きましたね」
「台詞が変わる系は大体何かある」
メタの裏読みですか。
「あ。まだ何かないか確認しておこう」
またテイムしようとしてる……。
『アイテムあげたからそれで許してくれないかい? 君は僕以上に変わり者だよ』
それからチェシャ猫さんの台詞が変わり続けたせいでフユユさんのテイムは終わらなかった。これもうデバッグじゃないですか。