41.この気持ち、抑えきれない
ログイン。
始まりの街に着くとそこは華やかに飾られていて通りには多くの出店が並んでいる。西洋の建物には連続旗やお花が添えられていて、いつもとは違った景観になっています。
しかも普段は真昼のような明るさなのに今日は仄暗い茜色の空で、花火のような光が空をパチパチと照らしている。
まるでお祭りのような雰囲気でプレイヤーも多く賑わっている。こんな派手にしてるので当然イベントですね。
ログイン場の広場も今日に限っては人でごった煮。それで見回しているとベンチの上で寝そべってお亡くなり寸前のホームレスを発見します。
「生きてますか?」
「死んじゃう……」
よし生きてますね。とりあえず手を引っ張って起こします。
「すごい人が多い……。このゲームってそんなにプレイヤー人口多かったの……?」
微妙に貶されてる気もしますが今回ばかりは特殊かもしれません。
「お知らせは見てますよね」
「うん。なんかSNSにアップしたら報酬もらえるみたいな?」
今回のイベントはゲーム内で写真を撮ってそれをアップしてくれた人に報酬を与えるという簡素なイベントです。1日1枚で報酬は毎日リセットされる仕組み。出店では今回でしか食べられない料理なども売ってたりします。
「このゲームのイベントって毎回斜め上なんだよね。来月にサ終しても驚かないよ」
縁起でもないことは言わない。
ただまぁフユユさんの言いたいことは分からなくもない。本来であればやり込み要素なりを追加してプレイヤーに長くゲームをしてもらうのが本来のMMOだと思います。
ただ課長曰く、このゲームのプレイヤーは攻略をするにしても軽くプレイする程度の人が圧倒的に多い。そんな中で時間のかかるイベントはおそらく不評になる、とのこと。
だからログインして手軽にイベントに参加できるくらいが丁度いい。それでVRならではの美しい景観を利用してSNSにアップしてもらおうという算段。それなら広告効果にもなるし新規で入ってくる人もいる。始まりの街でイベントが起こるのも新規を意識してのこと。それなら初心者も手軽にイベントに参加できます。
とりあえず街を歩いていきます。
やはりお祭りのような雰囲気はいいですね。それにテイムしたモンスターも沢山いてわちゃわちゃしてます。レベルの高い人は変わったモンスターを連れてますね。
「ミゥ、デバッグしないの?」
「今日は街の警護に回ろうと思ってます」
デバッグも大事ですがこうもプレイヤーが多いと変な気を起こす人がいるかもしれません。そういった行為はプレイヤー人口の上下に大きく左右するので注意が必要です。それに初日はランカーさん達も羽休めでここにいるでしょうし、マップの方は放置しても大丈夫でしょう。
「つまり……ミゥとデートってこと……?」
そのポジティブ思考は見習いたい。
出店のある方へと歩きます。色んな料理が売っていて、中にはバザーのように物を売ってる所もあります。色んなプレイヤーさんが集まって、中にはプレイヤー同士で交流してるのも見受けられますね。
「ミゥー、クレープー」
私はクレープではありません。フユユさんはいつの間にかクレープを買って戻ってきました。
「はい」
フルーツとクリームが沢山入ってとても美味しそう。
「一応仕事中なんですけどね」
「大丈夫。変なプレイヤーがいたら私が倒す」
何が大丈夫なのか。どの道受け取るまで騒ぐのですからさっさと食べてしまいましょう。
ん、甘くて美味しい。
「美味しい?」
「はい」
「私のも食べる? こっちも美味しいよ」
そう言って自分のチョコクレープを差し出してきます。
「食べかけてあるじゃないですか」
「うん。美味しかった」
いつも通り無視される。それでフユユさんが私のフルーツ様に食らいつきおったー。
イチゴ楽しみにしてたのに……。
フユユさんはクレープを差し出してきます。お返しに食べろと言いたいらしい。
そうですか。そんな悪い子の手には乗りません。
私が食べるのは……。
フユユさんの唇に指を走らせます。生クリームが付いたのでそれをペロッと舐めました。
さっきより甘い……。
「~~~!?!」
フユユさんが声にならない気持ちが爆発したのか顔が真っ赤になってます。
「大人をからかうとダメですよ?」
フユユさんがフリーズしてしまったので、手を繋いで歩いていきます。
頬が赤いまま俯いてます。少し刺激が強かったでしょうか。
プレイヤーを観察してますが不祥事を起こす人はいなさそうです。わりと民度はいいのでしょうか。
「腕に自信のある人はここに集まれ! 素材を賭けて勝負しよう!」
イベントとは関係なくプレイヤーが盛り上げる為に勝負を挑んでるみたいですね。結構人が集まってるようです。
「フユユさんならああいうのが好きなんじゃないですか?」
このゲームにPVP要素はありませんがこんな風にプレイヤー間で戦うのは問題ありません。
しかしフユユさんはずっと俯いたまま喋りません。足を止めます。
屈んで顔を覗きました。まだ顔が赤いままです。
「大丈夫ですか?」
「ミゥの……馬鹿……」
なぜか馬鹿呼ばわりされます。
「謝りますから機嫌を直してください」
するとフユユさん食べてなかったチョコクレープを突き出してきます。
「じゃあ私もお返しするから食べて……」
仕方ありませんね。
もぐ……こっちも美味しい。
フユユさんは私をジッと見てます。
クリームが付いてなかったでしょうか。全然動きませんね。
するとフユユさんが顔を近づけてきます。
えっ……。
ちょっと。
まさか……。
……ん。