4.
ログイン完了。
広場に降り立つ。
即座に警戒。周囲を見渡すも敵影なし。
今日も会いに来るって言ってたから出待ちされてると思いましたが大丈夫だったようです。
とりあえず昨日の続きからスライム投げを再開しましょう。
……。
誰かベンチに座ってます。でもなぜか寝てる。
なぜいるのか。ずっと待っていたのですか。
「んー? おはよぉ」
変な声を出しながらフユユさんが目覚めます。
「ずっとここにいたんですか」
「明日来るって言ってたから待ってたのにー。遅いよー」
「まだ間もないですが」
「もう8時間は過ぎてるよー」
ええっと。もしかして明日って0時を過ぎた瞬間の明日だと勘違いしたのでしょうか。どうやら私とは時間の考え方が違うようです。
ともあれ仕事です。スライムを壁にぺちぺち。
フユユさんは欠伸をしながら眺めてます。
今日も一日私を観察するのでしょうか。最近のプレイヤーの価値観が分かりません。
「ミゥさー。平日の朝から張り付くとかこいつ暇だろって思ったでしょ」
さすがにそこまでは思ってません。朝だからといっても、大学生だったり、夜勤だったり、平日が休みの会社だってあるでしょう。別に驚きもしません。
「私学校行ってないんだよね。だから時間だけはあるんだ」
いや重い。そんなの私に言われてどうしろと。
「別にフユユさんのリアルにどうこう言いませんよ。私はプレイヤーにすばらしいサービスを提供する。それだけです」
「やっぱりミゥって運営さんだったり?」
やば。思わず口走ってしまいました。
「ずっと変な事してるからそうかなーってちょっと思ってたけど。そっかー」
「あのー、えーっと。今のは是非とも内密にお願いします」
「別に言わないよー。全然興味ないし」
とりあえず安心。ほっ。
それでスライムを投げていましたが、やはり彼女は私を眺めているだけです。
いくら暇だからってこんなの楽しいのでしょうか。
「私が遊び方に口出しするのもあれですけど、私を見てるより攻略でもしてた方が楽しいと思いますよ。時間があるならトップにでもなれるでしょうし」
今なら攻略してる人も少ないので世界の果ての景色も独り占めできます。なのにこんな街の隅っこでスライム投げてる変人を観察するだけなんて時間がもったいないような。
「なんか頑張るって疲れるんだよね。ミゥを眺めてると癒される」
「はぁ」
なんと反応していいのやら。癒しを求めるならモンスターでもテイムした方が癒されると思いますよ。
スライムぺちぺち。地面にもぺちぺち。単純作業さいこー。
「私って邪魔だったりする?」
「仕事の邪魔をしないなら別に構いませんよ」
「ありがとー」
なんかこの子無気力というかやる気がないというか。やる気がないって言うなら私もそうですけど。
「このゲーム作るのってやっぱり大変だった?」
「それはもう。最近まで残業続きで死にそうでしたよ」
「お疲れ様だねー」
これも全て納期の悪魔が悪い。そこまで彼女に愚痴るつもりはありませんけど。
「でもあんなに必死に作ったのに皆がこの街から出てないのは中々あれだなーって思いますね」
一応探索したら別の街があった気がします。サイバーワールドだったり、お菓子の国だったり、空中庭園だったり。同僚の努力の結晶が知られぬまま終われば私も涙するでしょう。
「きっと皆疲れてるんだよ。使命とか目的とか。最初からミゥみたいに強かったら別だろうけど」
やっぱり草原の件見られてたんですかい。
「だから使命なんて忘れて日常を満喫してる方が楽しいんだよ」
「人間観察が趣味の人が言うと重みがありますね」
男性プレイヤーが多かったらまた違ったのでしょう。
「それ、私も手伝ってあげるよ?」
「お構いなく。こんな苦行を一般プレイヤーにさせるわけにはいきません」
お金も貰えないのにこんなのずっとしてたら発狂します。それに万一上司に知られたら私の首が危うい。
「そっかぁ。ふわ」
「寝てないんですか?」
「んー。元々夜行性だからこの時間は寝てるんだー」
やはり若いっていいですね。私が夜更かししたらその日に響きます。
※数時間経過※
黙々とぺちぺち作業を続けてます。さすがに飽きてきました。いやもう最初から飽きてるんですけどね。
そういえばフユユさん全然喋りませんね。また観察モードでしょうか。
振り返ってみたらベンチですやすやと眠ってます。
「こんな所で寝たら風邪引きますよ」
ゲームだからないでしょうけど。起きる気配は全くありません。夜更かしもほどほどにしないと不健康ですよ。本当に。
このまま放置はちょっと可哀想なのでアイテムメニューを開きます。ピンク色のマフラーをくるくると、これでよし。この前のポーションのお礼です。皆には内緒ですよ?