36.ミゥはお酒に弱いらしい。メモ
※平日・20時※
私は今、無になろうとしている。無の境地。剣豪も驚くくらいの心眼を出せるでしょう。
それくらい虚無ってます。祝日の後は残業がほぼ確定しているのだ。今日は結構残らないといけないかもしれない……。
夕食は済ませたし、帰宅もした。パパッと片付けよう。
「ミゥだー。お疲れ様~」
私の癒しのアイドルちゃんが手を振ってくれました。
「ミゥ、ネクロマンサーにでもジョブチェンジしたの?」
よほど酷い顔をしていたのでしょうか。気分は深淵より深いです。
「フユユちゃん聞いてください」
「フユユちゃん……?」
首を傾げてますがなぜでしょう。
まぁいいや。
「次のアプデで新エリアを実装するそうです。そのデバッグもお願いされたんです。私を慰めてください」
ただでさえまだ序盤のマップしかデバッグできてないのにこんな早くに実装なんて聞いてません。
「よしよし。ミゥは頑張ってるよ」
銀髪様が撫でてくれる……。
神だ……。
「じゃあ今日はその作業する感じ?」
「行きたくないよー。フユユちゃーん」
抱きしめちゃう……。
「ミゥ今日はなんか変だよ……?」
おかしい、のかな?
「もしかしたらさっきお酒飲んだからそのせいかもしれません……」
半分ヤケになって一杯いってしまいました……。
今もあんまり頭回ってないんですよね……。
「だからフユユちゃんかー。ふぅ……いい……」
「ミゥちゃんって呼んでもいいですよ……?」
「ミゥちゃん……」
やっぱりこの子はかわいい……。
もう仕事しない。やめよ……。
残業なんて知らなーい……。
「ミゥ……本当にいいの? 私は嬉しいけど……」
「私疲れた……。こうしていたい……」
「ミゥだめだよ。いつものミゥに戻って」
いつもの私ってなんだっけ?
仕事ばっかりで死んでる記憶しかない……。
「私にはフユユちゃんしかいないの……。新マップなんて行ったら離れちゃう……。死んじゃう……」
「ミゥ……」
この子の温もりが生きる糧なんです。もうここで住もうかな……。
「離れない……本当にこのままでいいの……?」
「まだ1分くらいでしょう?」
「10分は経ってるよ……?」
だったらまだ大丈夫。もういいんだ……。私はここで死ぬ……。
美少女に看取られながら死ぬんだ……。
「ミゥしっかりして」
ほっぺ叩かれてる……。きもちいい……。
「ダメ……ミゥ壊れちゃった……」
「フユユちゃん、あそこの旅館行こ。私疲れちゃった……」
もうどうなってもいいや。私はこの子と最後の時間を過ごす。
「ミゥはそんなこと言わない。そんなのミゥじゃない!」
「フユユちゃん……」
「あんなに真面目に仕事してたのに諦めるなんてミゥじゃない。私の知ってるミゥはどんな誘惑にも抗って仕事を全うする人だった。こんな所で倒れる人じゃない……!」
フユユちゃんが私から離れる……。
「プレイヤーにいいサービスを届けるんでしょ? だったらこんな所で立ち止まらないで……。ミゥはそんな弱い人じゃない」
フユユちゃん……いや、フユユさんが泣いている……?
ああ。私はなんて愚かなことを。そして同時に目が覚めてきた。
ほおを思い切り叩く。痛くはないけどきつけにはなった。
「ありがとうございます、フユユさん。おかげで目が覚めました」
「ミゥ……!」
「そうでしたね。ここで折れてはあなたと果ての景色すらも拝めなくなってしまいます。私は大馬鹿者でした」
一緒に頂点へ行くと決めたのだからここで挫けてはいけない。何が残業だ! この程度いくらでも乗り越えてきたでしょう!
「それでこそミゥ」
頭を撫でてくれます。まさかこの子に救われるとはね。
「あっ……でももう行っちゃうんだよね?」
「そうですね。新エリアなので今のフユユさんでは行けないでしょう」
「行かないで……」
掌返しー。
「いや……見送らないと……。いつかミゥの奥さんになったら毎日笑顔で見送るって決めてるんだから」
なんか危ない妄想してませんか?
「最後にハグだけ……!」
「今フユユさんとハグしたら……気が変わりそうで……」
正直自信ある。絶対やる気なくなると思う。
「そ……そう、だよね。うん。じゃ、じゃあミゥ……やだ……」
物凄く葛藤してるようで。
「そう長くは時間がかからないと思いますよ。軽くマップを下見してボスなどの挙動を調べるだけですから」
それが大変ではあるんですけども。
「分かった。私待ってる。ずっと待ってる」
映画のラストシーンみたいな台詞はなんですかね。
それで手を振って別れようと思ったら、何やら周囲からパチパチと拍手が。
……忘れてました。ここログインした所の広場でした。