32.あのプレイヤーの行き先は……
今日からイベント開始。私の予想通り討伐系のイベントで、各地にブラックスライムという経験値が多くもらえる敵が出現するようになっている。貰える経験値はプレイヤーのレベルによって変動する。なのでレベルが高い方が若干お得。この機会に攻略勢をさらに増やす運営の意図でしょう。
ログインして最初の街の広場へ。
多くのプレイヤーが街の外へ出向いている中、ベンチで灰になってる人を発見します。
「フユユさんの大好きなイベントですよ」
「私が好きなのはミゥだけ……」
死んでるのか生きてるのか……。
「お知らせ見てると思いますが経験値イベントですよ。レベル上げですよ」
「数字だけで世の中決まるならこんな社会捨ててやる……」
休日の時とテンションの差が激しすぎる。
気持ちはすごく分かりますけど。
「別になんでもいいですが。私はデバッグでマッドナイトへ行きますがフユユさんは……」
「行くー」
ベンチからゆっくり立ち上がってフラフラした足取りです。初心者みたいな動きなのに本気出すとすごいのだからモチベの落差でしょうか。
ともあれ出発。
行き先はマッドナイトのダンジョンである魔女の館。今日のデバッグはここ。館に入ると早速黒スライムが待ってくれてます。黒くて強そうには見えますが普通のスライム同様に攻撃手段を持ちません。なのでカモです。
「ほら出て来ましたよ。経験値ですよ」
せっかく忠告してあげてるのに館のオブジェクトの壺やら絵画を眺めてる。
「いいんですか? 私が倒しますよ?」
パーティを組んでないので当然経験値は分散されません。
フユユさんはボケーっとしててまるで聞いてません。
仕方ない。彼女の腕を掴みます。そしてブンブンします。
「ほら、魔法使って。マジックアローでいいですから」
貴重な経験値を失うには惜しい。魔法でない。もういいや、素手で殴れ。ぽこぽこー。よし倒せた。これでよし。
「ミゥさ。仕事いいの?」
あなたの為にしてあげたのにこの仕打ちよ。
もういいです。デバッグします。
ダンジョンなので魔法が使えるので壁に向かって魔法を撃ちこみます。ドカーンと派手に。
「別にレベルあげなくても大丈夫じゃない? 私、低レベル攻略も経験あるし」
本当にやり込んでますね……。このゲームはレベル一桁のうちはそこそこ上がりやすいですが、二桁になると結構上がりにくくなってきます。フユユさんの実力は分かってはいますがレベルが低いと火力もでないですし、後半の敵一体倒すのに何時間もかかってたらさすがに私でも疲れる。
「私はただフユユさんと楽しく攻略したかっただけなんですよ。そう言うならこれ以上は言いません」
「準備運動は終いだ。ちょっと神になってくる」
神速の如しの移動……。
最近この子の扱いが分かってきた気がする。
とりあえず私はデバッグ。
すると珍しくダンジョン攻略に来たプレイヤーさんが登場します。隣には宝石獣を連れてます。部屋に入って作業しようと思いましたが一旦やめましょう。
「えっと、先いいですか?」
遠慮がちに聞いてくれます。マナーいいですね。私は運営なので当然譲ります。
お気をつけてー。
それからそのプレイヤーさんは部屋からではなく玄関の扉から戻ってきます。負けましたか。
「やっぱりあのモンスター強いなぁ。どうしよう」
ワーウルフは動きも早くて攻撃も強いですからね。
「回復アイテムを多めに持っていくといいですよ」
困った時は回復しながらごり押しです。後半のマップになると難しいですが序盤なら大体それでなんとかなります。
「実はポーション尽きちゃって……」
それは大変だ。
「なら先にキャンディエリアを攻略するのをオススメしますよ。あそこはそこまで難しくないですし回復アイテムも採取できます。草原から東へ進んだ先にありますよ」
「そうなんだ! じゃあ先にそっちへ行ってみます!」
そう言ってプレイヤーさんが手を振って出て行きました。お気をつけて~。
久しぶりに運営らしいことが出来た気がします。さぁ仕事を続けよう。
※数時間経過※
ダンジョンのデバッグも終わってようやく一息。でもまだまだ終わらない。
次へ行こうか……。
そういえばフユユさん全然帰ってきませんね。帰るついでに様子を見ていきましょうか。
あの子なら効率のいい場所へ行きそうですし、マップの広い草原かな。
行ってみよう。
草原へ来ました。のどかで小動物がたむろする癒しのマップ。
そんな癒しの中で死体を発見してしまう。事件か。
「雑草美味しいですか」
「味がしない……」
食べたのか……。
「レベル上げは順調ですか?」
「そこそこ」
一応サボってはいなかったようです。
「ミゥー、起こしてー」
とりあえず腕を引っ張って起こします。そして勢いのままに抱き付かれました。
が、何か急に表情が黒くなってます。
「メスの匂いがする……」
この子まさかNPCか何かじゃないですよね? 怖いよう。
「困ってたようなので助言しただけです」
「私を追い出したのは浮気するためか」
まるで聞いてくれない。
「困ったプレイヤーがいたら助けるのは当然でしょう?」
「むしろ蹴落とすチャンス」
競争からドロップアウトしたんじゃないんですか。
「ミゥお願い。浮気しないで」
「してないですから。運営としての責務を果たしただけです」
「じゃあ今から好きって10回言って」
「はぁ。好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き……。これで満足ですか」
「心がこもってない。やり直し」
酷い……。
結局納得してくれるまで5分くらい抱き付かれたままでした……。