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27.夢だと思っても本気にしていい?

 朝か……眠い……。あれ、ここどこ……。

 寝室じゃない……? いやでもベッドあるし……。


 あれなんか柔らかいものが……。


 んー……?


 銀髪……?


 ガールズオンライン……?


 おかしいな。仕事終わって帰って、それからどうしたんだっけ。

 晩御飯に焼き鳥摘まみにしてお酒飲んでネトフリ見て……。


 そこから記憶がないな……。多分寝たんだと思う。じゃあ夢か。

 はー、最近本当多い。デバッグで同じ光景を何度も見るせいか脳がその一部を記憶してるんだと思う。前にデバッグしてる同僚が発狂して誰か代わって欲しいって懇願してたな……。


 ていうか夢覚めないな。ついに私は明晰夢まで手にしたか。はは、疲れてる証拠かも。


「んー。ミゥー、おはよー……」


 これは……夢のフユユさんか。声までリアルに再現するなんて私の脳みそやるじゃない。


「起きれた……ありがと……むにゃ……」


 私の上に乗らないの。ふー、どうせ夢の中だしいつもの仕返しをしてあげよう。


「おはよう」


「おはよ……」


 まだ寝ぼけてる? まぁ夢だしこんなものか。


「フユユ。おはようのキスしてあげる」


「ふ、え……?」


 フリーズしたな。やっぱり夢だから解像度低い。


 それにしても綺麗な顔。夢の中でも綺麗だなんてやっぱり銀髪は罪だね。


「えっと……ミゥ……?」


「いつもしてるでしょ。ほらこっちおいで」


 なんで逃げるの……?

 やっぱり偽物だ。本物なら喜んでくる。


 でも逃がさないから。今の私は無敵だから。


 はい、捕まえた。


 やっぱり柔らかくていい……。

 手を絡ませちゃう……。

 強く握って……。


 そんなに顔赤くしてどうしたの?

 私の理想のフユユさんだから純粋なんだ。

 やっぱり悪い子だ。悪い子にはおしおきがいる。


「ミゥ……おかしいよ……」


「おかしいのはフユユ。フユユはそんなの言わない」


「ぁぅぅ……ミゥゥ……」


 抵抗しないの……?

 されるがままなんだ。

 でも、偽物の癖に結構可愛い。それだけは褒めてあげる。

 だからご褒美にキスだけはしてあげる。


 じれったく……。

 ゆっくり……。

 目と目が合う……。


 熟れたトマトみたい……

 かわいい……。

 さぁ観念して……?


「……ん……ぅ……」


 唇が重なる……。

 自然と手に力が入る……。

 強く、強く握りしめて……。


 君はそんなに震えてかわいいね……。

 ゆっくり顔を離す……。

 フユユさんの呼吸が荒い……。


 そんなに恥ずかしい……?

 そう……。

 だったら今日はこれくらいで許してあげる。


 ……。


 いつになったらこの夢覚めるの?


 ♪♪♪


 メール?

 なんで夢の中に。


 チェック。


 課長からか。夢の中まで邪魔しに来るとは良い度胸だ。

 なになに、田中が体調不良で休むからプログラミング交代して欲しい、と。


 夢の癖にやけに具体的だ……。

 

 ほっぺを叩いてみる。痛みとは言えない何かを感じる……。夢だから当然か……。ログアウト画面……。


『ログアウトしますか?』


 はい……。


 ……。


 目の前に見慣れた天井が出現……。


「マジか……」


 え……じゃあさっきまでの全部現実?

 いや現実ではない。だってVRだったから。


 冷静に突っ込んでる場合じゃない。

 私は何をした? 何をしてた?


 ……。


 ……。


 やばい……変な汗が大量に出て来た……。



 ※正午※



 ログイン、してしまった……。


 課長……もういっそ一日交代にしてくださいよ。なんでこういう時に限って気を遣ってデバッグに戻っていいなんて言うんですか。死にたい……。


 広場……周囲……。


 あ……。


 フユユさんがベンチに居て目が合う……


 逸らされた……。

 でも顔真っ赤……。

 かわいい……。


 なんて考えてる場合じゃない。すぐに弁明しないと。


「フユユさん!」


 思わず声が大きくなってしまった。ヤバい注目浴びてる。

 こ、こんな所では言えない。


「い、行きましょう!」


 手を引っ張って無理矢理連れていきます。


 それで何か路地裏に来てしまった……。


 フユユさんがすごいもじもじしてる……。

 違います……。続きでも何でもありません。


「ほんっとうにすみませんでした!」


 こんなに頭下げたのは大事なデータをふっ飛ばして以来です。


「あ……えと……怒って……ない……よ……?」


 明らかに挙動不審な声です。あーもう私の馬鹿。

 夢だと思って油断するからそうなるのよ。そんなだから普段もミスが減らないのよ。


「本当にごめんなさい。私寝ぼけててまた夢だと勘違いして……」


 たとえ勘違いだったとしてもあんなことした言い訳まで思いつかない……。

 馬鹿だ。私は馬鹿なんだ。


「本当に……大丈夫……ただ、ちょっとびっくりしただけ……」


 そりゃあ驚くよ。今まで親しかった人が急に豹変して襲ってきたんだもん。

 さぞかし怖かったでしょう。


「このお詫びは何でもします。フユユさんのお願いは何でも聞きますから」


 課金アイテムだろうと、チート授与だろうとこの際なんでもいいです。

 それくらいしないと許されない行為をしてしまった……。


「あ……フユユさん……」


「すみません。調子乗って呼び捨ててました……」


「ううん。寧ろ嬉しかった、かな……?」


 この子が寛大でよかった。って安堵してる場合じゃない。

 本当にきちんと謝罪しないと。


「あのぅ。本当にごめんなさいね? 怖かったですよね?」


 フユユさんが首を振ります。


「ミゥはよかったの……?」


「よかった、というのは?」


「私に、して……」


「……嫌いな人には……できませんよ……」


 ヤバい。なんか熱を思い出してきた……。


「そっか……。じゃあいいよ。許してあげる」


「ありがと、ございます」


 もう一生頭上がらないかも……。


「ねぇミゥ」


「はい……」


 そしたら頬に何やら温かい感触が……。


 今のって……。


 フユユさんを見たら口元に人差し指を当てていじわるそうな顔をしてます。


「これでお相子」


 ~~~っ!


 熱が、収まらない……。

 私の体はどうなってしまったのでしょう……。

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