26.
※23時30分※
まさかこんな時間にログインすることになろうとは。最初の街の広場に来たけど結構プレイヤーさんいるんだ。フユユさんはどこにいるのか、とりあえず連絡を……。
「ミゥ」
真後ろから声をかけられて一瞬心臓止まるかと思った。この子本当怖い。
「本当に来てくれたんだ。嬉しい……」
「約束を反故にはしませんよ」
さっさと目的を済ませて終わらせよう。
睡眠導入となったら寝泊まりできる所かな。この街にも旅館はあったと思うけど他のプレイヤーも使う可能性あるしなぁ。なるべく人の少ない所がいいかな。
……だったらあそこになるか。
※マッドナイト夜の街※
『ヒッヒッヒ。良い夜を』
おい、婆さん。その意味深なセリフはなんですか。この婆さんの台詞考えた奴誰だ。いや多分、悪い意味での台詞なんだろうけどこの場になるとまた意味が変わると言うか。
ほらー、フユユさん顔真っ赤にしてもじもじしてるじゃないー。
可愛いからいっか……。
部屋に入ったら簡素な作りで大きなベッドが1つ置いてあるだけだった。一応は休む目的だからね。でも1つか……。
「とりあえず横になってください」
「ミゥは上がいいってこと……?」
なんでゲームばっかりしてた人がそんな知識まで豊富なの?
有無を言わさずベッドに押し込みます。
「ミゥ大胆ー。そういうのが好き?」
この状況では何言っても弁明できんな……。
さっさと終わらせよう……。
あれ、でも寝させるって何すればいいんだろう。
子守歌……? そんな幼稚園児じゃあるまいし。
……。
やば、本当に分からないんだけど。
「ミゥー、立ってないでおいでー」
手招きされます。
……まぁ、満足すればその内寝るでしょうか。
とりあえず横にはならずベッドの端に腰を下ろします。
「えー添い寝してくれないの?」
「何度も言いますけどそういう目的は本当にないので」
ここで流されてしまうくらいならとうの昔に結婚してる。
「私、ミゥと一緒に寝たいな。ミゥだってお疲れでしょ?」
「一応ベッドでログインしてますが……」
「じゃあ一緒に寝よー」
こら、腕引っ張らない。
あー……。
このベッドふわふわ……。
VRなのに結構気持ちいいかも……。
枕、柔らかい……。
眠たく……。
「ミゥ寝ないで。待って待って」
はっ。そうだった。私が寝てはいけない。
「フユユさんは眠くないんですか?」
朝から私に付き合ってるのに今も元気そうですし。私なんかクタクタで10秒以内に寝落ちできそうです。
「いつも起きてるからかなー。やっぱり眠くないかも」
どうしたものか。
「お話でもしましょうか」
ベタだけどそれくらいしか思いつかない。
「うん……」
ベッドに潜り込んで、私の隣に……。
近い。近すぎる……。視線をすごい感じます。
「フユユさんは抱き枕ないと寝れないタイプですか」
「寝れるよー。でも今は欲しいかも……」
なんとまぁ……。
「ねぇミゥ」
「なんですか」
「やっぱりミゥってさ、私に興味なかったりする……?」
「ずっと疑問だったんですけど、どうしてそんなに私を気にかけるんですか。今までそんな人はいなかったんですか?」
仮想世界をいくつも渡り歩いていたなら色んな人と出会ったはずでしょう。時には研鑽を重ねる仲間もいたでしょうし、競い合うライバルもいたでしょう。或いはイベントを語り合うだけの友達だっていたかもしれない。なのに彼女はただスライム投げてるだけの私に付き纏う。
「あの頃は……毎日が目まぐるしかったから何も考えてなかったな……。ただ楽しかったらそれでいいって感じだった。でも、ドロップアウトしてふと考えてたら私何もないなって思って」
ただ単に疲れただけなのかと思ったら結構切実だったのでしょうか。
「でも何もない私でもミゥは話しかけてくれるし心配してくれるでしょ? 今だってリアルを気にしてここに来てくれてるし……。明日も仕事あるのに私を優先してくれてる」
自分で言ったことなので責任もありますけど、私も自分で思ってる以上に彼女が心配なのかもしれません。
「そういうの、本当に嬉しいんだ……。私をちゃんと見てくれた人、今までいなかったから」
そんなに引っ付いてあなたは甘えん坊ですよ。
こんな話を聞かされては無理に離せませんね。
「もっとそばに来ていいですよ。狭いでしょう?」
「ありがと……手繋いでいい……?」
「……これでいいですか?」
「うん……」
そんなに強く握られたら……。
最近、なんか私もおかしいんですよ……。
本当なんででしょう。ここってゲーム世界、ですよね。
体が熱く感じる……。
晩ご飯でお酒飲んだのが原因かな……。
「お休み、ミゥ……」
「お休みなさい、フユユさん」
眠った、のですか。
私も寝よう……。
……。
寝れない……。
私は一体何を意識してるんだ……。
ダメだ、変に意識するな……。
手の柔らかさと体の感触が……。
違う、ここはゲーム世界。ただ脳に刺激が与えられてるだけ。
そう、きっとそう。
……。
私……もしかしたら……。
……かもね……。