25.
「ミゥ……この前の料理コンテスト落ちた……」
あんなゲテモノ料理が選ばれる可能性はどれくらいか。宝くじを買った方が当たるのでは。
「後少しで入選できそうだったのに……」
マジか……。これはあれか、皆が真面目に料理をアップしてる中で突如ダークマターが出現したから面白がっていいね押した人が多かったのか。最近の若者の感性が分からぬ。
ともかく私はデバッグを続けます。街が変わったというのにすることはスライムを投げるだけ。未だに理性があるのに自分でも驚く。
そしてフユユさんもまたベンチに座ってボケーっとしてる。
この子本当に無気力ですね……。
「やはりまだ攻略する気にはなれませんか?」
そろそろやる気が出てもいいように思えます。
「ミゥとの攻略が脳裏を離れないの……。あんなの知ったらもう前には戻れない……」
前も何もずっと座ってるだけじゃないですか。
「このゲームをする前はやる気があったのでしょう?」
「そうだねー。1000時間くらいはしてたかな」
1000時間……私からすると途方もない数字です。作ったゲームをそこまでやり込んでくれたら嬉しくもありますが飽きないのが不思議ですね。
「ランカーさんはもっとやり込んでるよ。私は飽き性だからゲームを転々としてたけど」
それだけやり込んで飽き性なのか……。つまり他のゲームもそれくらいやり込んでいたと。とんでもないですね……。
「じゃあこのゲームもその内飽きますか」
態度的には最初から飽きてるように思えますが。
「それはない」
言い切った。
「だったらこのゲームもやり込んで色々教えてくださいよ。きっと我々も想定してないような不具合やテイムモンスターとスキルの組み合わせなどあると思います」
「プロゲーマーに金払って……」
空白の1000時間だったか……。
「こんな所で寄り道してたら攻略してる人とどんどん離されていきますよ」
一応はトップを目指してるらしいですし。
「人生には寄り道も必要なんだ。与えられたレールだけを進むって疲れる……」
齢十数年の若者が何を言ってるのか。言いたい事は分かりますけど。
「それはそうと、フユユさんちゃんと眠れてますか?」
「うん。寝てるよ」
「それならいいんですけど何かずっとここにいるのでログアウトしてないのかなって時々思うんです」
残業があった時も普通にいたし、ゲームをやり込む気概がありそうですし。
「今日も早く寝たよ。3時くらいだったかな……」
昨日ではなく今日なのか……。
私に会う為に早くからログインしてるとなると睡眠時間は4時間未満……。
「フユユさん。私生活にはあまり口出ししたくはありませんがもう少し寝るべきだと思います」
いくら若いからといってその睡眠時間は絶対体を潰します。それにやる気ないのも睡眠が足りてない可能性もありそうですし。
「でもミゥが残業でログインしに来るかもしれないし……」
どれだけ私に会いたいのよ。残業あってもこっちでの仕事じゃない場合が多いのよ。
「万一体壊して入院になったらそれこそゲーム所ではなくなりますよ」
お節介なのは分かってるのですがやはり心配です。
「うん……。でも中々寝付けなくて。それでついログインしちゃう」
生活習慣というのは簡単には変えられませんからね……。
「でもね、前はもっと遅かったんだよ。これでも早くなった」
そういえば私が8時にログインするから早く寝るようになったと言ってましたね。まさか日が変わってからとは思ってもいませんでしたが。
「ねぇミゥ」
「なんですか?」
言い過ぎたかな……。
「家教えて」
個人情報ー。
「毎日ミゥが耳元で囁いてくれたらすぐに寝れると思う」
しかも一緒に寝る前提ですか。
「未成年を家に招いていたら私が捕まります」
「ミゥは冷たい……」
そして話を聞いてくれない。
「そもそも家に来なくてもここでなら出来るのでは?」
よく考えなくてもVR世界で寝落ちすれば現実でも寝たことになります。ログイン前にベッドで横になっていれば何も問題はありません。
「え……会いに来てくれる……?」
あ。また失言したな、私。
どうしよう、こんな期待の眼差しでキラキラ見られたら……。
断れない……!
「……今回だけですよ」
「ミゥ大好き……!」
私の人生がどんどんこの子中心になっていってる……。