24.反応が見たかっただけなんて言えない
デバッグが終わると何が起きるのか。そうデバッグが始まるのである。
何とか最初の街のデバッグが終わってようやく次の街へ。
どこでもよかったからマッドナイトの夜の街で作業中。前にフユユさんと一緒に攻略したとはいえ、攻略しただけでデバッグは一切終わってない。だから道中の竹林道も街も館も何ならボスもまたチェックしないといけない。デバッグに終わりはないのだ……。
そしてなぜか隣に銀髪制服少女が立っていて、私の左手をずっと握ってる。
「何してるんですか」
「報酬」
ボスを倒したらいくらでも握っていいと言ったあれか。こんな平日の朝から実行されるとは思ってもいなかった。
「仕事に支障がでるので、あの……」
「じゃあ私の手を使っていいから……」
どこから突っ込めばいいのやら。何かもう面倒くさいから借りよ……。
この子の手、けっこう小さいんだ。綺麗だな……。
手……やわらかい……。
「ミゥ……そんなに触ったら恥ずかしい……」
「じゃあ私の触ります……?」
「うん……」
手をふにふにされる……。
私ら何やってるんだろう……。
疲れてるな……。
とりあえず仕事。フユユさんの手にー、スライム乗せてー、投げるー。意外と難しい……。
「今思い出しましたが今日からイベントらしいですよ」
今度のイベントは料理開発。このゲームでは自分で料理を作ることも可能です。採取などで素材を集める必要もありますが現実のようにリアルな料理を再現できます。しかもゲームなので面倒な過程や大きな失敗というのも殆どおきません。
さらに料理スキルのレベルをあげると料理の効果がアップします。レベルが高くないと特別な料理を作れないというわけでなくあくまで効果のみ。なので誰でも手軽に料理を楽しめます。
そして今回のイベントではこの料理スキルレベルが上がりやすくなってます。攻略でも意外と馬鹿にならない料理。普通であればスキル上げを努めるでしょうが……。
チラッ。
「燃え尽きた……」
休みの時のやる気はどこへやら。
素材の入手量も増えてるというのに……。
「優秀な作品はお店で販売されるそうですよ?」
SNSでアップしていいねが沢山付いた料理はゲーム内のお店で販売されるようになるらしい。画像は自身のアバターと料理が映ってるという条件。不正が発生しますからね。まぁ優秀作になったからって報酬があるわけでもありませんが。
「ここに美味しい料理がある……」
なぜ抱き付く。
「はぁ……美味しい……」
共食いはやめなさい。
「仕事があるのでそろそろ離れてください」
一向にデバッグが進まぬ。
フユユさんはトボトボ歩きながら近くのベンチに座りました。たまに分かってくれる時がある。本当たまに。
「なんかこのゲームのイベントってちょっと変わってるよね。宝石獣だったり、ジュエルツリーだったり、今回の料理だったり。まるでサ終前に迷走してるゲームみたい」
それは言わないで欲しい……。今の所はそこまで不評もないから……。
「もうMMOである必要がないというか」
それは私も思ってるけど黙っておいて。だってこんな風に遊ばれてるって思わないじゃん。
やっぱり世に出ないとどう転ぶかなんて分からない。
「その様子ですと今回のイベントは見送る感じですか」
いつもやる気なさそうですが……。
「だねー。別に攻略に必須ってわけでもないだろうし」
その辺の考え方はそれぞれなので強制はしません。
「料理できないよりは料理できた方がいいとは思いますが」
「やっぱりミゥは料理できる人が好きな感じ?」
なぜリアルの話になるのか。
「もちろん出来た方が嬉しいですよ。家に帰って温かい料理を用意してくれてある。しかも美味しい。そんなの喜ばない方がおかしいですよ」
残業がある日なんてコンビニで適当に買って済ませますし。
「ふー。これは久しぶりに本気出すか……」
フユユさんが消えた……。
一体どっちの話をしてるんですか?
※時間経過※
「ミゥ。愛妻弁当作ってきたよ」
なんか勝手に妻になってる……。
それで私の前に来て画面をポチッてると見た目可愛らしい小さな弁当箱が出てきます。
こういうのいいですね。現実だと会社のお昼は大体片手で食べられる手軽なのが多いです。だからこういう弁当というのはちょっと憧れたりもします。
「えっと。もらっていいんですか?」
「うん!」
満面の笑み。なにやら本気出してくれたみたいなので頂きましょう。
何が入ってるかなー。個人的には卵焼きがあると嬉しいなー。
パカッ。
それは料理と呼ぶにはあまりに禍々しかった。
鈍く、黒く、塊だった。異形だった。
落ち着け私。一旦蓋を閉じよう。きっと仕事で疲れて幻覚を見たのでしょう。
そーっ。
うん。ゲテモノだ。まごうことなき黒塊だ。
「あの。お聞きしますが食材は何を使いましたか?」
現実ならともかくこの世界でこんなゲテモノを作るのは相当難しいはず。というか作れるのか? 調理の工程もAI補佐でサポートできますし、仮に失敗してもそこまで酷くはならなかったはず。こんなダークマターは作れません。
「うん……素材集める時間がなかったから手持ちのを使って……この前手に入れた素材を一杯使った」
つまりあの攻略の時か……。
お化けの布切れ。
蝙蝠の翼。
ワーウルフの毛皮。
竹林道に生えた雑草。
……。
すごい。想像だけで吐き気を催せる。この子には料理の才能があるかもしれない。
「因みに味見はしましたか?」
「してない……」
だと思いました。
「フユユさん。誰しも初めは赤子です。無理せず自分のペースで頑張りましょう。世の中料理だけで全てが決まりません」
肩を叩いてあげます。
「ごめん。本当はおかしいって分かってた。リアルでも料理作ったことなくて……」
「前向きに考えましょう。むしろゲームだったからよかったと。リアルでこれを提供したら絶縁されかねません」
「ありがとう。ミゥってやっぱり優しいね……」
最初から何でもできる人はいませんからね。失敗から学んでいくものです。
「一応これも今回のコンテストに応募できるんだよね?」
「ま、まぁ。一応」
「アップしとこー」
これで万一バズったらこれが店で提供されるのか……。
世も末です……。