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21.可愛く戦ったつもりなのに……

 休日。


 平日のデバッグ地獄を抜けた先に待つのは何か。そうゲーム世界である。

 最近年々ゲームするのがキツくなってる気がする。特にVR。これ、現実世界だと椅子に座ったままだったり、ベッドとかに寝転がったままでプレイするのだけどログアウトすると本当体がヤバいのよ……。少し前まではVR機器を装着しないとダメでその時は首や目の負担も大変だった。今はボタン1つで手軽に行けるようになって有難い……。


 とはいえそれでも運動不足は解消しないので通勤の1駅分を徒歩にするという選択を余儀なくされました。私、まだ若い方だと思うんだけどな……。やっぱり生活習慣って大変です。


 ダメダメ。今日は大事な約束があるのにこんな気持ちで行くと迷惑になる。気を引き締めよう。


「ミゥー!」


 そしたら聞きなれた声が。もう待っていてくれたんですか。

 振り返ったらそこには銀髪メイド様が。


 マジですか……。

 猫耳はないけど神だ……。

 ログインして正解だった……。これを見れるなら私の体なんて安すぎる。


「休みに付き合ってもらうから少しでも喜んでもらおうと思ってこっちにしてみたよ」


 なんて健気……! こんな気遣いができるなら、あなたは良い大人になれます。


「ログインボーナスありがとうございます」


「運営がそれ言うっておかしくない?」


 運営もボーナス欲しいのよ。尽くすだけは疲れるの。


「今日はレベル上げでしたね。前のダンジョンへ行きますか?」


「あの程度我が敵にあらず。我は強者を求む」


 急に口調を変えない。


「つまり次のマップへと?」


 フユユさんが頷きます。


「いいんですか? まだレベル3くらいでしょう? さすがに敵が強くなってきますよ」


 確か次の適正レベルは5くらいだったように思えます。たった2の差ですが、レベルで習得する魔法もあるのでその魔法が使えるかどうかで攻略難易度が大幅に変わったりもします。


「我は魔王。拳で宵闇を支配するもの」


 いい加減口調戻してください。通訳に時間かかります。


「さすがに素手は難しいのでは?」


「我は縛りの猛者。無問題」


 縛りプレイですか。ゲームの仕様や一部の戦法を使わないなど自分にルールを課して遊ぶスタイル。普通の遊び方では満足できなくなった人が最後に陥る極地だとか。


「それならいいですけど。次はどこを目指しますか」


 地図を開いてマップを確認します。探索範囲が広くなったので次は東西南北で更にフィールドが分岐します。北のサイバーエリア、南のウォーターエリア、東のキャンディエリア、西のマッドナイトエリア。


 そのどれもが個性的な場所となっていて、草原エリアとは似ても似つかない。むしろここはチュートリアル的な存在でここからが本番とも言えます。


「マッドナイト。そこに我が宿敵がいるでござる」


 そのキャラ安定してませんね……。即興で思い付いたならやめたらいいのに。



 ※マッドナイトエリア※



 草原エリアから西へと進むとそこはおどろおどろしいホラーなマップとなっています。雰囲気は竹林にある墓場のような場所で肝試し的な感じですね。そのせいか空はずっと満月の夜。


「これ使おー」


 フユユさんはあっさりと課金アイテムを使ってしまいました。


「そんな簡単に使ってよかったんですか?」


 こういうのは一度下見して慣れてから使うものだと思いますが。


「なんとかなる、はず」


 微妙に自信がないのはなんですか。

 まぁ使ってしまったのは仕方ないので後は彼女の頑張り次第。私は見学させてもらいましょうか。


 早速敵出現。


 こんなホラーなマップなので出て来るのはおぞましいゾンビ……ではなく、なんともポップで可愛らしいお化けです。白いシーツみたいのを被って目の所だけ黒くなってて手みたいのをちんまりと垂らしてます。ふよふよ浮いててあまりに恐怖感もない。


「うりゃー」


 フユユさんが拳で立ち向かう。本当に素手縛りしてるのか……。


 でも透けて当たりません。一応は幽霊なので物理は効かない。


「私がこの縛りをすると知っていた……?」


 知りませんけど。


「私は最初からマジックアロー縛りだった。何も関係ない」


 1人で何言ってるんですかね。


 ともかく彼女はマジックアローを連打して何とか倒してます。やはりレベルが低いせいもあって結構打ち込む必要がありますね。


「そういえばテイムしないんですか?」


 フユユさん、ずっと1人で戦ってるんですよね。私はチート使ってるので関係ないですが普通なら相棒は1匹欲しい所です。


「マジックアロー縛りだから……」


 プライドですか。


「そのお化け確かマジックアロー使いますよ。大丈夫なのでは?」


「ソロ、マジックアロー縛り」


 抜け道すら許しませんか。一種の執念を感じます。好きにプレイしてくれていいんですけどね。


 それから彼女の攻略を保護者の如く見守っています。最初でこそ馬鹿してましたが、敵の動きに慣れて来たのか段々機敏になっています。引きこもりのゲーマーなのにどうしてここまで動けるのか。やはり若さか……。


 蝙蝠やらポップな死神も難なく撃破してます。採取できそうな所にも無駄なく足を運んでます。


「あ……ミゥ楽しい……?」


 メイドさんは私の気遣いが本当上手なようで。


「お構いなく。銀髪メイドを眺めてるだけで至福です」


「ならよかった……」


 これではいつもと逆ですね。でもフユユさんの気持ちが少し分かった気がします。確かにこれはずっと見ていられる。


 ご覧ください。このメイドの華麗な動き。派手な動作はせず、踊るように敵を倒しては進んでます。全ての動作に無駄がありません。


 無駄がない……。

 なさすぎる……。

 なんだこれは。


 一流のアスリートは無駄がなく、その動きは洗練されてて美しいと称されます。

 しかしゲーム世界の住人はどうでしょうか。なんか機敏に動いてて、うん……。

 昔RTAという如何に早くクリアできるかのゲーム配信を見たことがあります。その時見たキャラクターの動きに似てます。なんというか……。


「キモいですね……」


 思わず口に出てしまった……。

 するとメイドが突然バターンと倒れてしまった……。


「すみません。言葉のあやです」


 褒め言葉のつもりだったのだ……。


「私、キモい……。死んじゃう……」


 どんな敵の攻撃よりも致命傷を与えてしまった……。


 それからフユユさんの動きが何世代も前のゲームのようにもっさりしてしまったのだ……。

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