20.私のゴールはゲームクリアじゃない
翌日。
ここは……ガールズオンラインであってる、よね。うん。
最近夢の中でもスライム投げてる時ある。疲れてるのかな……。
そしていつものようにベンチで座ってる子を見つけてしまう。この子もたまに夢に出て来る。夢まで支配されてる。怖い……。
「ミゥ、お疲れー」
その挨拶はバイトか何か?
ていうか手に何か持ってる。ポッキーだ。そんなのも売ってるんだ。
「これあげるから元気出して」
顔に出てたのかな……。
でも仕事中だから……。
「仕事中なので大丈夫です」
「1つくらいいいと思うよ?」
多分これくらいはいいのかもしれませんけど、自分を甘やかすと堕落していきそうなので。
「私が食べさせてあげよっか?」
そしてポッキー咥える。正気か。
「何してるんですか」
「ほっひぃーへーむ」
それは見て分かります。私が聞きたいのはなぜそういう思考になったかです。
「しません」
ポッキーを口から抜き取ります。
「えー何で?」
何でって理由いるんですか。
「こんな誰が見てるか分からない所でしません」
「えっと。じゃああっち行く……?」
照れながら路地裏指ささないの。
かわいいけど……!
「あんなにキスを恥ずかしがってたのにポッキーゲームはいいんですか」
「え……キスまでするの……? ミゥって大胆……」
私が馬鹿でした。
「朝から頭を痛くさせないでください」
「ごめん。お詫びにそのポッキーあげるから」
「いや、これさっきフユユさんが咥えてたじゃないですか」
「うん。だから」
最近この子の変態度が日に日に増してる気がします。
「いらないですから」
「そっか……私のポッキーなんてゴミだもんね。ゴミ箱に捨てて来る……」
また病みスイッチ入りましたよ。
「食べますからそんな顔しないでください」
甘い……。
糖分も摂取したのでスライム投げ。
「ずっとしてるけどまだ終わらない感じ?」
「この街は後少しで終わりそうです」
「そっかー。大変だねー」
物凄く他人事のように言ってます。
「今更なのですがフユユさんってずっとここにいるじゃないですか」
「うん。それがどしたの?」
「いえ。私はデバッグでこの街にいるだけなので終わったら次の街へ移動するんですよ。今のままでいいのかなと思いまして」
先日にダンジョンの方も終わったのでここが終われば次へ行く。それが仕事。
フユユさんがポッキー落としました。考えてなかったのですか……。
「そんなの聞いてない……」
「ま、まぁボスは倒してますから次の街は一緒に行けると思いますけど」
それでもいずれは先へ先へとなるのでレベルも上げずにダラダラしているだけならいつかは置いていかざるを得なくなる。
「これを使う時が来たか……」
画面開いてぶつぶつ言ってます。前に私があげた課金アイテムでしょうか。
彼女の腕ならダンジョンボスを周回すれば結構レベルを上げれそうですけれど。
「無理……時間制限は強制されてるみたいで辛い……」
日本人のもったいない精神が裏目に……。
「ミゥー、今度の休み手伝ってー」
私、攻略やレベル上げって本当に興味ないんですが。
「そこにいるだけでいいから……。ミゥと離れ離れは辛い……」
その気持ちは分かりますけれど。仕方ありませんね。
「本当に何もできませんよ?」
運営側なのに個人を手助けしては見つかれば炎上まったなし。
「いい……! なにもしなくていい……! そこにいてくれる。それだけでリジェネされる……!」
私は回復のオブジェクトか何か?
「はー、楽しみ……。ミゥと攻略……」
ルンルン気分で物思いにふけってますね……。
ちょっとかわいい。
「私が居たらやる気になるんですか」
「うん。ミゥが居てくれたらこの世界の頂点だって取れる」
言い切りましたよ。めちゃくちゃ出遅れてるのにどこからその自信が出て来るのか。私の記憶では今のトップってすごくレベル高かった気がしますが……。
でもこの子ならやりそうという妙な期待感もあります。やっぱり甘いですね、私。
「私は頂点なんて気にしてないのでフユユさんのペースでいいですよ。フユユさんが楽しんでくれたならそれでいいんです」
開発者としてそれだけで冥利尽きるというものです。
「ずっと楽しんでるよ。このゲームを誰よりも」
そうですか。それなら何も言いません。
「サービスが終わるその瞬間まで居ると思う」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ。まだ始まったばかりですよ」
栄枯盛衰、いつかは終わりが来ますけれどそれは遠い未来であって欲しいものです。
「たとえ何年先であってもここにいるよ」
「私に会うためですか」
ニッコリ笑みを向けられます。
少しだけドキッとしてしまう。何に対してかは分からないけれど……。
だったら私もそれまで続けてみましょうか。どんな理不尽があったとしても、ここで仕事を続けます。