2.プロローグ②
ログイン……。
『ガールズオンラインへようこそ』
AI音声っぽいのが聞こえる。
大事なログイン場面なんだからそこは有名声優さんを起用して欲しかった。
そんな金はなかったか……。
アバター制作……。
当たり前だけど女性のアバターしか作れない。
見た目は色々弄れる。髪型から顔の造形、胸の大きさや身長まで。
服装は何か制服みたいな感じだけど初期衣装かな……。
いくつか用意されてるみたい。
地雷ファッション……。
ロリータファッション……。
etc……。
これ作ったの誰かの趣味?
ともかくアバターを作ろう。
髪は銀髪。白って憧れるよね。長さはロング。髪型はストレートかな……。
目の色も決めれる。翡翠もいいけど、深紅もかっこいいな……。
白に赤って似合う……これにしよう。
身長はちょっとだけ高くする。感情移入したいから自分に寄せよう……。
胸は……ちょっとだけ盛る……。ゲームだから理想でいいのだ……。
服装は……制服でいいかな。
『このアバターでよろしいですか?』
はい……。
いや、待て。
もう勝負は始まっているのではないか?
この画面にバグはないと言い切れるのか?
……。
試さないとダメだよね。うわー、いきなりめんどー。
※数時間経過※
『このアバターでよろしいですか?』
いいえ……。
ありとあらゆる組み合わせを試して確認画面に進んでは戻るを繰り返してる。
だんだんこのAI音声がキレてる気がしてきた。
『このアバターでよろしいですか?(怒)』
って聞こえる。
ていうかさ、この組み合わせって何万通りもあるしこんなの1人でやってたら軽く1ヵ月以上かかりそう。そこそこにして始めようかな。このAIさんも怒ってるし。
よし、銀髪お姉さまを呼ぶぞ。
……。
よくよく考えたらこれって他にもプレイヤーいるんだよね。だったらあんまり目立つ見た目は避けた方がいいのかな。一応私運営側だし、全ての権限使えるし。
あんまり目立ってチーターと疑われても面倒くさいな……。
仕方ない。ここは地味目に黒茶色の髪にしておこう。長さもセミロングよりに修正。
目の色は深紅。ささやかに抵抗する。
服は制服でいいや。
『このアバターでよろしいですか?(怒)』
まだ怒ってる……。
うん、これで始めるよ。
はいっと。
『あなたの名前を教えてください♪』
喜んだ?
お前、感情あったのか。
名前は……ミゥでいいかな。
『その名前でゲームを始めますか?』
これもはい。
いや、待て。
この名前の項目も……。
……。
うん、なんか面倒くさいから始めよ。
はいっと。
これで何かあっても私のせいじゃない。
きっとそう。
『新たなアカウント情報を取得中……ログイン完了!』
すると画面が真っ白になって次の瞬間には西洋の街並みみたいな所に飛ばされた。
大きめな広場っぽくて他のプレイヤーもログインしてるらしくポツポツ現れてる。
とりあえず動こう。
グラは……いいね。CG制作班が虚無った顔してたけど大分頑張ってくれたらしい。
街を歩いてみる。
建物の多くは西洋っぽい。街道も道路じゃなくてタイル。
でもちらほらと和風チックな所もある。昔ながらの団子屋、雰囲気のある旅館、通りに咲いてる桜などなど。和洋折衷、いい景観です。
「そういえばこれって何が目的なのでしょう?」
メニュー画面みたいのを開くとホログラムチックなのが出現。運営用のデータにアクセス。
……。
一応はMMOという括りらしいです。
でもそれならジョブとかあるんじゃないですかね。最初のログイン画面は見た目と名前しか入力項目はありませんでしたけど。
私自身ゲームなんてそこまでしないのでよく分かりません。
「地図がありますね」
街から出るとフィールドになってるようです。
ステータス画面もあります。
ふむ。レベルや能力もあるそうですね。ただプレイヤーを視認しても名前しか見えない仕様らしいです。私の能力は全て9の数字が羅列していました。スキルやら魔法も全部習得済みらしいです。これがチートか。
「とにかく仕事しよ」
どこから手をつけよう。建物に魔法ぶっぱ?
よし、このお店を破壊してやるか。我が魔力の前にひれ伏せ。
……。
魔法が使えません。
どうやら街の中では禁止されてるようです。嫌がらせとかそういう対策も含めてるのでしょうか。それはそれで私の仕事が減るので助かります。
魔法が使えないなら街を出ましょうか。
大きな門があったのでフィールドへ出ます。一面黄緑の大草原。
その中に何やら丸くて青い軟体生物が沢山います。
データチェック……。
スライムらしいです。正直リアル過ぎて分かりませんでした。
妙に光沢あるし体も微妙に透けてるし。
でもよく見たら可愛いかもしれない。
さて、どうやって料理してやろうか。
まずは周囲確認。誰も人がいません。
???
それもそれでおかしくないですか。一応ここは序盤のフィールドですよね。レベル上げとかそういうのでスライム倒すのでは?
まぁ、いいでしょう。とりあえず魔法を使ってみます。さすがに街の外なので使用可能。
まずは初級魔法のマジックアローを使います。
光の矢が飛んで貫通。
99999999
チート怖い。無論スライムは消滅。
おそらく普通に魔法を使ってもバグは起きないでしょうね。こういうのって普通ではないことをしないといけません。
たとえばマジックアローには魔力というステータスが1必要らしいです。初期値は魔力が1なので普通では問題ありません。でも運営権限で0にできます。
……。
よし、これでマジックアローを……。
当然の不発。
まぁこんな所でバグが起きたら話になりませんけど。
でも全部の魔法を試さないとダメですかね。やっぱり。
……やろっか。
※数時間経過※
全部ダメでした。
隕石やら落雷やら竜巻やら津波やら起こしましたけど無意味。派手にぶっぱしましたけど地形も変わらず無傷。おまけにスライムは即座に復活する親切設計。
「他にできることは……」
メニュー画面のガイド項目をパラパラと見ます。すると気になる項目が。
それはテイムというスキルらしく、成功するとエネミーを仲間にできるようです。
そういえばこのゲームの特徴の1つにテイムがあった気がします。ボスを除いたほぼ全ての敵を捕獲できるのだとか。最初は1体しか連れられませんがレベルをあげたり、特殊なアイテムを手に入れると同行数を増やせるらしい。テイムしたモンスターは戦いにも使えるそうですが、このゲームに関してはどちらかというとペット的な意味合いが強そうです。
ともあれテイムしてみましょうか。確か敵のHPを減らしてスキルのテイムをする、と。
まずはマジックアローでHPを……。
99999999
ミス。魔力調整しないと。
50
よし、HPが少し減ったからここでテイム!
おぉ! 何か魔法陣みたいな演出が出た。そしてなんとなんと。
『テイムに成功しました』
AIちゃんの声と共に仲間になったようです。
でも何か特段変わった気がしないような。
そもそもスライムは攻撃してきませんし、テイムする意味がないのでは?
なんとなく離れてみる。そしたら健気について来るではありませんか。
でもおそっ。なにあのイモムシみたいな速度は。
いや、待てよ。こんなに遅いなら遠く離れて撒けるのでは?
「君の忠誠心を試してあげよう。私について来れるか?」
スキルの『ハイランナー』を使って爆走。はやーい。
草原には小動物系のエネミーが多いみたいで、猫や犬、兎など可愛らしいのに加え、大きな狼もいる。 モフモフさんじゃないか~。
そんな感じで草原を走ってたけど違和感がすごい。
「プレイヤーいないんだけど」
こんなに駆け回ってるのに誰も遭遇しないっておかしくない?
サ終前のゲームでももう少し人いるでしょ。課長が嘘言ったのか?
そんなはずはないと思うけど。
メニュー画面を開いて運営権限で全体のプレイヤーがどこにいるのかざっくり表示させる。
するとどうでしょう。プレイヤーの8割近くは街にいるよ。残りの2割くらいがまばらに攻略してる感じ。
「ほとんど街から出ていないのですが」
大きい街だから仕方ない? うーん。嫌な予感がしてきました。
街に戻って一旦プレイヤーの動向を探ります。
丁度数人の女性プレイヤーが楽しそうにお喋りしながら歩いていました。
フレンド機能もあるので一緒にプレイする人も多いみたいですね。こっそりと後をつけます。
その女子グループはカフェっぽいお店へと入りました。私も続きます。
中には人が沢山入ってて辛うじてカウンター席が空いてました。画面が表示されたのでとりあえずポーション(コーヒー味)を頼みます。
「でさー。今度の休みはあそこ行きたいんだよねー」
「いいねー」
「あの教師さー、本当ダルくない?」
「分かる。一々うるさいよね」
「え~、これかわいいー」
「でしょ~?」
あちこちで会話してるのが聞こえます。もしかしてこのゲーム遊ぶ目的ではなくお喋り目的で使ってるプレイヤーが多いのでは?
何せ男性がログインできないのですから男に聞かれたくない会話だってできますし、それにお店もリアルなので実際の店にいるような感覚を味わえます。つまり『Girls Online』はSNSの延長だった……?
ウケる。
いやウケてる場合じゃない。これちゃんと報告しないと次のイベント大滑りしますよ。これで万が一にも初イベントで『ダンジョンのモンスターを倒すとレアアイテムが!』みたいなのをしようものなら誰もやらずにコケますよ。
もしやるなら……『期間限定で新メニュー登場!』『アイテムを買うと特別サービス!』『新衣装セールス開始!』
……。
ゲームじゃなくてよくない?
一応課長には報告しておきましょう。どの道男しかいないあの会社だとゲームの内部事情まで把握できてないでしょうし。
ん。このポーション美味しい。本当に飲んでる気がする。
やはり新メニューか。
とりあえずお店を出た。んー、時間も遅いなぁ。そろそろログアウトしよっかなー。
画面を開こうとしたら目の前に青い軟体生物がいた。ごめん、すごい忘れてた。
しかもなんかめっちゃ黒いオーラ出てる気がする。よくも置いていったなお前って睨まれてる気がする。今にもゴゴゴゴゴゴゴって効果音が流れそう。
うん。すまん。