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ミゥ視点 エピローグ②

 4月



 今日はとても大切な日。あの子とリアルで会う約束をしたから。

 おかげでいつも以上に朝早く目が覚めてしまった。有給を使って1日休みとはいえ、昼まで時間があります。どうしたものか。


 とりあえず身だしなみをきちんとしないと。髪は普段から黒茶髪っぽい感じなのでこれでいいでしょうか。問題は服装。あの子はどんな格好なのでしょうか? 大学生なら私服が普通ですが……。

 おまけに私達ってリアルで会ったことないから声以外の情報がないんですよね。


 一応待ち合わせ場所を指定してあるとはいえ、あまりに変な恰好だと「どちら様?」ってなって感動の再会に水を差してしまいます。


 特にあの子の第一印象を最悪にしたくないので、なんとかいい感じにコーデします。


 クローゼットを漁る。見事にダサTばかり。いや! 女Tシャツを愛用してたから、この変な絵文字プリントのシャツでもあの子なら気付くはず……!

 いやいや、ゲームはともかくリアルでそれはないでしょ。


 くっ、こんなことならアマゾンで女Tシャツをポチるべきでしたか……。

 いやでも、仮にリアルでこれを着てあの子はどう思うでしょうか。やっぱりダサいって思うでしょうか。少なくとも私の知り合い全員の感想はダサいらしい。


 うーん、困った。それで不意にスーツに手が伸びる。やはりこれが無難でしょうか。

 たまに男装してたのでパンツスーツならきっと問題ないはず……。


 なんか地味というか、パッと見で気付かれないような感覚しか……。

 時間はまだある。とにかくいい感じなのを模索しましょう。



 ※時間経過※



 まずいまずい。時間使い過ぎました。早く電車に乗らないと遅刻します。

 結局スーツコーデに落ち着いて急いで出かけます。


 外は春先で温かい陽気と穏やかな風が吹いてます。雲もなくいい天気!

 最高の一日にしましょう。軽く深呼吸して、ってそんなのしてる暇ないから!

 急げ急げ。パタパタと駅へと向かいます。



 電車の中は混んでいなくて落ち着いたものでした。いつもの通勤もこれくらいならいいんですけどね。スマホを確認すると特に通知はありません。あの子は今頃入学式に参加してる所でしょうか。


 それから乗り換えもして駅を出ました。その先に見える街並みがどこか懐かしく感じます。あの子の大学へ行こう。何も見る必要ない。道のりは全部覚えてる。だって、私の母校だから。


 まさか私の通っていた大学を第一志望にするとは驚きでしたが、それだけあの子にとってもやりたい何かが見つかったのでしょうね。少しだけ嬉しい気持ちになる。ただ大卒という資格の為だけに通ったようなものだったけど、案外それだけじゃないのかも。


 そして大学前までやって来た。何年か振りだけど全然変わってない。さすがに中に入るのはまずいと思うのでここで待っていましょう。念のために通知も入れておきます。


 大学のキャンパスを遠くから覗くと桜の花びらがヒラヒラと舞っている。やっぱり桜って綺麗ですね。ガールズオンラインでも始まりの街で咲いてたのを思い出す。

 今、あのゲームがどうなってるかはよく知らない。アプデを繰り返して色んなマップが増えてるのか、PVP要素が追加されたのか知る由もない。それでも思い出のゲームであるのに変わりありません。


 ふと、校門に視線を送る。その先には何やら息を切らした……。


「……え?」


 一瞬思考が止まった。だって、目の前にいるのは制服姿で、何より髪の色が……銀色に輝いていた。間違いない、あの子だ。まさか現実でも銀髪……?

 それとも私が銀髪好きだったから現実でも染めてくれた……?


 色んな思考が巡る中、その子と目が合う。時が止まったようだった。

 息をするのも忘れるくらいその子に見惚れてしまっていた。日本ではありえないくらい際立っていて、なにより美しくて。


 その子は私の方に駆けつけて来ました。


「ミゥっ!!!」


「フユユさん!」


 私達は抱きしめ合った。柔らかい感触が服の上からでも感じられる。どこか甘い香りもして、心がふわっとして、頭の中で一杯になっていく……。


「ミゥ、ミゥ……!」


 涙声になって何度も名前を呼んでくれるのが何よりも愛おしくて。


「やっと、会えましたね」


「……うん。やっと、会えた。ミゥに!」


 フユユさんが胸に飛び込んできます。優しく背中を撫でてあげました。


「私の為にそこまでしてくれるなんて」


「うん。ミゥが喜ぶかなって。どう?」


「とても、似合ってますよ」


「えへへ。なら、良かった」


 ゲームより、リアルの方がとっても素敵です、なんて恥ずかしくて言えない。それくらいフユユさんは輝いて見えました。


「行きましょうか」


「うん」


 周りの視線なんて気にせず手を繋ぐ。思ったより小さな手だったけど、でもすごく温かくて優しい感じがして、何より懐かしかった。歩道を歩いたけど、ちょっぴり恥ずかしくもある。ゲームの中であんなに手を繋いでいたのに、やはり本物の人の視線に慣れるには時間がかかりそう。


「どこかで食事でもしますか?」


「ミゥと一緒ならどこへだって行くよ」


 まるで私の心を覗いたみたいに優しく言ってくれます。私も、あなたが居てくれるならどこへだって行ける。もう、怖い物なんて何もない。少しだけ強く手を握り直した。


「そうだ。ミゥ、最後手を抜いたでしょ?」


「な、なんのことですか?」


 あれから何も言われなかったので気付かれてないと思ってたんですが、今になって……?

 フユユさんが私に顔を近づけて来ます。


「ミゥには罰がいる。だから、今からキスして」


 ああ……。そんな意地悪な顔して、やっぱりあなたはフユユさんだ。だから何も言って来なかったんだ。そして、私はそんなあなたを好きになった。


 もう、言葉はいらない。フユユさんの息遣いを感じられる。それだけで紅潮してしまいそうになるくらい、気持ちがふわふわして。


 もう、我慢ができない。そう思って唇を重ねる。


 ──っ!


 想像以上に柔らかくて思わず顔を離してしまいます。フユユさんと目が合う。

 情けない大人って思われた……? いや、この子も顔が真っ赤だ。


 ゲームであんなに沢山したのに、リアルだとこんなにもドキドキするんだ……。

 心臓の鼓動がすごく早くなってる。この子に聞かれてないか、恥ずかしくなって、また顔が赤くなる。


「フユユ、さん……ごめ、なさ……」


「いい、よ……ミゥ……感じ、て……」


 お互いぎこちない言葉が出る。あんなにずっと一緒にいたはずなのに、まるで恋人になりたてのカップルみたいで……。


 VRで慣れたと思ったけど、やっぱりリアルとは完全に別物だった。

 周囲に大学生も増えてきたから、これ以上は無理そう……。


 フユユさんの手を取って歩く。せめて、指だけは絡めて、少しでも多く熱を感じたいと思った……。


 あてもなくフラフラとただ歩く。それだけなのにすごく心の中が幸せの気持ちで一杯でした。こんなのを知ったらもう前の日常にはきっと戻れない。


「ねぇ、ミゥ。前にした、約束覚えてる……?」


「どれでしょう……?」


 ゲームの中で一杯約束したのでどれか1つというのはすぐに出せません。


「一緒に、暮らすって……」


 フユユさんが視線を外すように呟きます。銀色の髪だけがヒラヒラと揺れてそれがまた綺麗で……。


「私はそのつもりですよ」


 口にするものの、心臓の高鳴りだけは抑えきれない。ゲームの中以上に平静を保つのが難しい。ずっとドキドキしてる。このまま死んじゃうのかなって思うくらい。


「ありがと……」


 ボソッと呟くその言葉が何より尊くて。


 いつか、この子の両親にも顔を合わせないといけない気がする。だって、もうこの子のいない世界なんて考えられなくなった。


 今日、会って確信した。私にはフユユさんが必要だ。この先の未来も、一生。

 でも、それを今すぐ伝えるのはまだ難しい。


 まだまだ色々考えることもある。この先の不安だって。


 でもきっと暗い道ばかりじゃない。フユユさんの方を見たら視線が合う。まるで息を合わせたみたいに。


 ジッと見つめ合う。このままずっと時間が止まって欲しいって思った。


 でも止まったら先はない。だから歩く。私達はこの先も歩み続ける。


 何があっても、ずっと──

Thank you for reading!

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