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143.ラストバトル!

「最終決戦、と言いたいところですが最後に相応しい戦いにしたいので少し特殊ルールを設けます」


 街の広場で構えてたフユユさんの手が緩む。


「フユユさんは全てのテイムモンスターを扱えます。戦闘中でもテイムモンスターの入れ替えも可能。同時に出せるのは2匹まで。因みに私はボス扱いなのでテイムモンスターを使いません。その代わりHPはボス基準になります」


「それだと私が有利に思えるけど?」


「そうですね。ただその代わり戦闘中に私が何をしても文句は言わないでください」


「……分かった。チートじゃなかったら文句はないよ」


 勿論そんな興覚めするような真似はしません。


 さて、今度こそ決戦の時間。街の広場でお互い距離を置く。

 フユユさんにPVPの申請を送りました。少ししてから許可される。


 カウントダウンの数字が表示される。鼓動が早くなる。でも落ち着いてる。

 不思議な気分です。きっと、あなたと戦うのはこれが最初で最後でしょう。


 だから絶対に手は抜かない。


 カウント──ゼロ


 先に動いたのはフユユさんでした。素早い動作で手を突き出して初級魔法『マジックアロー』を連射してきます。足を止めずに様々な角度から無数の矢が襲って来る。


「……えっ?」


 フユユさんは驚いた声をあげていました。私が無数のマジックアローを全て避けたからでしょうか。それも殆ど派手な動作をせずに歩くように避けました。


 フユユさんは追撃するように、時には誘導するように『マジックアロー』を使いますが全て当たりません。魔法の矢が止んだ。


 なぜ私がボスになったのか?


 その一番の理由はあなたを熟知しているから。確かに私達は普通の恋人より日数は短いかもしれない。でもゲームの中での時間ならきっと誰よりも長い。ずっと、毎日、ほぼ一日中あなたのそばにいたのだから。


 だからフユユさんの動きは手に取るように分かる。何をしようとしてるのか、何をしたいのか、次に何をするか。この世であなたにとって最大の味方であり、天敵となれる。


「驚いた……」


「ラスボスに相応しいでしょう? さぁ私の番です」


 私は魔法を素直に唱えません。なぜなら私があなたを熟知してるように、きっとあなたも私を熟知してる。だから魔法の打ち合いには意味がない。


 行きますよ。


 デバッグ権限発動──重力反転


 地上に足が着いていた私達でしたが、空に吸い込まれるように上空へと飛ばされていきます。


「にゃあぁぁぁ!?」


 猫みたいな叫びをあげてますが容赦はしません。あなたが苦手なものは全部利用させてもらいます。さらに天候魔法『嵐の祈祷』


 暴風域を発生させて一瞬で晴れた空は嵐へと変わる。超広範囲攻撃ゆえにいくらPSの高いフユユさんでも回避は不可能でしょう。


「こんなのっ、聞いてないっ……!」


「私は開発者です。どんな手も使いますよ」


 これでフユユさんもこの戦いの意味を理解したはず。さぁどうしますか?

 このままですとHPがじわじわと削られますよ。


 フユユさんがメニュー画面を操作してテイムモンスターを呼びました。大型飛行恐竜プテラノドン。足に掴まって、さらに嵐に流されるように遠くへ移動します。

 なるほど、重力反転と嵐から逃げるにはいい策です。


 けれど、逃げてるだけでは勝てない。


 闇魔法『彷徨う魂』


 怨霊を使役し、それらはゆっくりと相手へ追尾するように向かっていく。


 光上級魔法『レインアロー』


 空から無数の光の雨が降り注ぐ。無数の魔法を回避し続けられますか?

 重力反転の状態ではプテラノドンの操作もままならないでしょう。


 事実、フユユさんは魔法から逃げるので精一杯の様子。少し、やりすぎたでしょうか。


 ──!?


 一瞬背筋が凍った。反射的に動いたけれど遅かった。背後に影らしき実体なき存在が私に襲い掛かっていた。モノクロワールドに存在するシェイドという陰のモンスター。


 逃げているだけと思っていましたが毒を仕込んでいましたか……。すぐにシェイドは消えてしまう。テイムモンスターの入れ替えをしましたか。


 さらに嵐から雨に切り替わる。おまけに重力反転も戻って地上に落ちていきます。


「なにが起きて……?」


 デバッグ権限の力を上書きするなど……。いや、そういうことか。


 フユユさんはいつの間にかプテラノドンも入れ替えて秩序の世界の黒マントの仮面モンスター、監視者を連れています。内部コマンドに干渉してくるので重力反転も突破しましたか。


 思わず口元が緩む。どうやらあなたに手加減なんて無用らしい。


 だったらこっちも全力で応える。


 雨が降ってるから雷魔法を使えば感電を狙える。でもそれはフユユさんだって承知のはず。


 初級氷魔法『フリーズ』


 氷柱を足元に落として、雨を凍らせて足場を作る。落下のタイミングをずらす……。

 どうやらフユユさんも同じ考えらしく、足場を凍らせています。


 だったらその足場を潰しましょう。


 炎上級魔法『エクスプロード』


 前方を大爆発を起こして硝煙が舞い上がる。視界が悪くなった。

 あの子の性格なら攻めて来る……。


 けど、ここまで来たらあらゆる攻撃方法は想定してるでしょう。なら想定を上回るしかない。


 デバッグ権限発動──不死鳥創造


 天高くに舞う炎を纏った紅蓮の鳳凰が姿を見せて急降下してきます。ホットアイス山脈のボスの第二形態の鳳凰。その背中に乗りました。


 けれど背後からマジックアローが放たれてダメージを受ける。鳳凰の尾にフユユさんが掴まっていた。インビジブルを使って接近されていましたか。


「さすがにここまで来ると何でもありかなー」


「降参しますか?」


「まさか……!」


 フユユさんは鳳凰から下りてサラマンダーを呼び出しその背中に乗りました。


 火竜と鳳凰、格は圧倒的にこちらが上ですが強さだけで言うと実はそこまで違いはありません。さすがにそのままのボスの強さで呼ぶのは反則行為なのでHPもテイムモンスターより少し高い程度。事実、雨の影響で鳳凰の炎は徐々に弱っています。


 何でもありとはいえ、正解がなければ意味がない。理不尽を押し付けるだけのゲームなど、そんなのゲームだと私は認めません。理不尽の中でも可能性があるからゲームと呼べる。


 鳳凰を急降下させてフユユさんを狙います。サラマンダーが必死に逃げますがスピードはこちらが上。そのまま街の地上に激突。


 ハイジャンプで脱出。同じくフユユさんもジャンプしていた。お互い空中で魔法を唱え合う。


 具現化魔法『プリズンソード』


 大剣を頭上から突き落として街の建物を崩壊させた。けれど命中せず……。そして私の胸が漆黒の鎌で切り裂かれていました。


「やはり、強いですね」


 あの手この手と使ったものの、既に対応されつつある。私のHPもすでに半分は減ってます。

 フユユさんは恵みの雨の影響でHPが回復し、ほぼ全開。SPがなくなったのか雨は止んだ。


「ミゥ、第二形態来る?」


 そんなファンタジー系のラスボスみたいに言われても。


 とはいえこのまま小手先勝負では勝てない。なら最後は私らしく勝負しましょうか。


 デバッグ権限発動──スライム創造


 手元に一匹のスライムを呼び出します。何の変哲もない青くて透明な軟体生物。


 フユユさんが構える。どうやら見た目に惑わされないようで安心しました。


 ──行きます


 全力投球でスライムを投げる。剛速球とも呼べるスライムは風すら置き去りにして音速の速度で一直線に飛ぶ。フユユさんに命中して貫通したスライムは街の建物に穴を空けていった。


 新しいのを手元に呼びます。この程度であの子は倒れないでしょう。

 事実、フユユさんは立ちあがる。足元にはバケバケの目がバッテンになって消滅していました。あの一瞬でテイムモンスターを入れ替えましたか。


「とんでもない威力……」


「これで終わりませんよ?」


「っ……!」


 スライムを呼び出しては勢いよく投げます。私にとってこれこそが一番の武器。何十時間、いいえ何百時間と投げ続けていたのですから。


 暴走するスライムによって始まりの街は一瞬で瓦礫の山となり果ててしまいました。けれどあの子は今なお立っている。どうやら私の手元を見てギリギリで予測して回避してるようです。


 なら、こういうのはどうでしょう。


 光魔法『スターライト』


 本来ならば光の輝きで攻撃する魔法。けれど目の前に設置すれば目眩ましになって手元が見えないはず。スライムよ、行け……!


 音速スライムが飛んで行く。なにか、ガラスが割れるような音がした。光が消えるとリザードマンがダウンしていました。なるほど、クイックガードでダメージを減らしましたか。けれど、完全に防ぎきれなかったようでフユユさんのHPは赤くなって残りわずか。


 でもあの子の目は死んでいない。この程度で諦めるような子じゃない。最後まで油断せず本気で戦う。


 すると今度はフユユさんが光魔法『スターライト』を目の前に唱える。


 目眩まし……? けれどそっちが唱えるなら好都合。スライムを投げて……。


 手が、止まった。脳の思考が止まった。


 目の前に、黄金色に輝く、8本脚の……巨大な……蜘蛛……。


「ひっ……!」


 蜘蛛は無理っ! 迂闊だった。私がフユユさんの弱点を知ってるように、あの子も私の弱点を知ってる。手元が狂ったせいでスライムが空に飛んで行く。


 直後に無数の青い銃弾が飛んでくる。マジックバレット、避けなきゃ……!


 頭で分かってるのに足が動かない……。こうなったら先に蜘蛛を始末する。スライム、来て!


 蜘蛛の頭上にスライムを落として消滅。けれど今の攻防でフユユさんの魔法を大量に受けてしまった。私のHPも残り少ない……。


 ここまで来るともう実力勝負。先に一撃入れた方が勝つ。


 フユユさんが時計回りに動きながら魔法弾を撃ってくる。こっちもそれにならうように動いた。魔法は相殺されずお互いの頬をかすりそうになるもギリギリ命中しない。


 スライムを手に取った。フユユさんが警戒する。でも思考させる前に投げつける。でも狙いはあなたじゃない。後ろの壁! そこを倒壊させたら否応でもなく対応するしかない。


 フユユさんがこっちに走ってきた。予定通り、さっき手元が狂って投げたスライムが今落下してきてる。落下地点はすぐそこ。


 するとフユユさんの足が急に止まった。読まれてる……!


 スライムが広場に落下して、避けられた。そしてフユユさんのメニュー画面を開いたままだった。すでに手の中に額に宝石のあるウサギのモンスターがいた。


 宝石が輝きフラッシュする──









 ……。


 ごめんね、フユユさん。実はそれ、読んでました。


 きっとあなたなら、最後に相棒でもある宝石獣を使うだろうなって。だからマジックアローを構えていました。あなたが最後に宝石獣を出すその瞬間を待っていました。


 なのに、どうして私は。


 ゲームというのは正解がなくてはならない。私があなたに勝ってはそれでは意味がない。それに私の心はもう満たされてしまった。


 ──だから


 マジックアローを撃つタイミングが遅くなった。すでに私の胸にはフユユさんのマジックアローが刺さっている。HPはゼロになっていて、同時に光の粒子に包まれている。


 フユユさんを見たら息を切らしたみたいに肩を震わせていました。


 これでいい。そして、最後に。


「フユユさん。ゲームクリア、おめでとうございます」


 私は私の敗北を持ってこのゲームを完成させられました。


 ありがとう

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