14.知らない女がミゥと話してた
図書館のデバッグが終わって街をぶらぶら。そしたら道のど真ん中で何やら見覚えのある銀髪制服少女が倒れてる。人違いと思って近づく。名前は、フユユ。
「ゲーム楽しいですか」
「すごく、楽しい……」
何事もなく返してくるスタンス。
「ミゥ、聞いて」
倒れたまま喋るのか。
「私は宣言したらやる人間。ちゃんと街を出た」
ここでずっと倒れてたわけではなかったようです。
「1歩踏み出した。そしたら太陽の眩しさが私のHPを奪った。2歩進んだ。雑草が足に絡んでSPを奪った。恐ろしいマップだった」
「そんなマップはなかったはずですが」
仮にあってもこんな序盤の街からそんな理不尽満載なフィールドへは行けないでしょう。
「私を見て。やられた……」
「いつもの禁断症状ですか」
「そうかも……」
もうこの子ダメだ。
「まぁ好きにしてください。私は仕事があるので」
「ミゥが冷たい……生き返る……」
生き返るのか……。
放置して通り過ぎたら起きた。
「ミゥも来てー。調整があるでしょー」
背中から抱き付くなー。
「それはこの前に終わりました」
「このままだと皆に置いていかれちゃう。宝石獣もいないんだよ?」
それはあなたが勝手にしたんでしょう。
「あの時は手伝ってくれたのに」
「次からは1人でって言ったじゃないですか」
「孤独死しろと言うのか……」
なぜそうなる。
「それにプレイヤーが集まってると想定外のバグが起きるかも。皆が宝石を乱獲したらバグる。絶対バグる」
「じゃあフユユさんが確かめて来てくださいよ。何かあったら連絡してください」
そんな可能性に賭けて一々出向いていては仕事が一生終わりません。
「分かった。行ってくる」
やけに素直ですね。
……本当に行った。
※数分後※
♪♪♪
『バグってる』
フユユさんから連絡が入りました。いくらなんでも早すぎる気もします。
『すごいバグが起きてる』
『これは急がないと大変』
『バグが……』
『やばいよ。ミゥ急いで』
メール送り過ぎでは? しかも肝心の具体的な内容が一切書かれてないという。
なんかもう予感はしてましたけど。
「行こうか……」
5秒で終わらせよう……。
フィールドに出て一番近くのジュエルツリーの所を目指します。大草原のど真ん中に巨大な樹木があります。そこにはプレイヤーが集まって宝石を採ってる姿がありました。
離れて様子を見るも特に問題はなさそうかな?
けれど数人の女子プレイヤーが何やら首を傾げながら話し合ってます。
「あれー。おかしくない?」
「バグ?」
そんな会話をしてたので近付きます。
「お困りですか?」
「うん。なんか宝石取っても増えなくて」
女子が宝石を手にするもアイテム一覧では増加してません。
「ツリーは1つにつき取得数の上限があるんです。マップで確認すると分かりますよ」
マップを開いてもらうとこのツリーの宝石数は残0となっています。
「本当だ!」
「別の所に行けばまたゲットできますよ」
「そうなんだー。お姉さんありがとー」
「いえいえ」
女子達は手を振りながらその場を去っていきます。こういうのはお知らせにきっちり書いてありますが読まないプレイヤーが圧倒的に多い。バグでなければいいでしょう。
「ミゥ、あの子達誰?」
背後から黒い声が。どうやって私がここにいるって知った?
「お困りだったようなのでアドバイスしただけです」
「親しそうに手を振ってた……」
「ただの礼でしょう」
「ミゥを取られちゃう……」
他のプレイヤーと話すことも許されないのですか。
「それよりもせっかく来たならフユユさんも取ったらどうですか」
「それより? 私にはあの女の方が問題」
あの女呼びは礼節がない……。
「私は運営です。全てのプレイヤーに平等に接する義務があります」
「そんな平等いらない……どうせ世の中は不平等なんだから……」
それはそうだけど。こういう時だけ倫理を語るのもどうかと。
「あれだけフユユさんに贔屓してるのにまだ満足できないんですか」
「満足って、それは、その……快楽的な……?」
もうこの子やだぁ。
「私は仕事なので先に失礼します」
「ミゥって都合悪くなったらすぐ仕事って言って逃げるよね」
「じゃあ都合のいい女がいいんですか。ここで押し倒してあげましょうか?」
「ミゥって外でプレイするのが好きなの?」
そっちが振った話題に真顔で返すな。
「私は帰ります。もう勝手にしてください」
「宝石取って帰ろ……」
バグを探すより気力が奪われた気がする……。




