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138.奇跡だ……

 ※ディープシー・深海の主戦※



 数百メートルはある巨大深海魚との戦闘。雑魚のモササウルスは全滅したのでボスにだけ集中できる。深海の主は不気味な瞳を覗かせてゆっくりと接近してくる。

 タンポポシードの綿毛のおかげで前に遭遇した時よりも格段に動きが遅い。これなら丸のみも簡単に避けられる。


 まずはフユユさんに支援魔法『ブレイブハート』

 フユユさんも同じく私にバフをかけます。


 続けて雷上級魔法『レクイエム』


 水中の中でも雷鳴は轟き、神の雷は落ちる──


 深海の主の頭上に黄色い閃光が走った。遅れて雷が落ちた音が響く。

 水棲モンスターなので雷魔法に弱いはず……事実、HPもかなり削れてます。ただ問題は、海の中なので感電がこちらにも届いてダメージを受けてしまいます。


「骨を切らせて肉を断つだっけ?」


「フユユさん、それ逆です」


「ありゃ?」


 骨を切られたら動けなくなりますよ。こんな状況でも呑気にボケられるのもこの子だからでしょう。でも少しだけ肩の力が抜けた。


「じゃ、私はDPS重視で攻めるから。ミゥもさっきみたいにしてくれていいよ。私のHPは気にしなくていいから。どうせボスの攻撃は一撃だし、死ななきゃ問題なし」


 私が謝るより先に動いてしまいました。そしてボスの間近でマジックバレットを連射してます。随分と危険な動きを……。でも、あの子の心配する必要はない。気にしなくていいって言ったのだから、それを信頼するだけ。


 深海の主は真っすぐ泳いでいきますが、過ぎ去った箇所に渦潮を発生させていきます。まるで竜巻のように動いてこちらにもやって来る。


 天候魔法『嵐の祈祷』


 水中内で暴風を発生。水流の如し勢いは止まらず、自分達も流される。けれど渦潮も相殺できて消えた。深海の主も水流に飲まれてるのか、タンポポシードの綿毛と相まってさらに動きが鈍っている。


 隙を逃さない。炎上級魔法『溶岩の海』


 水の中だからマグマは発生できない。でもマグマの熱は起こせるはず。海水の温度が上がったらいくら深海の主とはいえひとたまりもないはず。HPが勢いよく減少していく。


 深海の主が旋回したので魔法キャンセルで嵐を消す。


 そのまま接近してくると思いましたが動きがピタリと止まっています。

 同時に全身が青白く点滅するように発光しています。


 何か来る。そう直感したのでフユユさんにマジックガードをかけた。フユユさんも私のHPを回復してくれました。


 直後、深海の主が唸り声をあげて放電を始めた。まるで水中を泳ぐ海蛇の如く電撃がこちらに迫っている。回避しないと、そう思ったけど無駄でした。ここは水中マップ。雷は水を伝って感電する。


 まずい……!


 そう思いましたが遅かった。リオプレウロドンが体をよろめきながら沈んでいきます。


 フユユさんの方もバタフライドルフィンがビリビリと痙攣して沈んでしまってます。

 おまけにタンポポシードもHPが低いため感電によって花が枯れてしまい消滅……。


 辛うじて宝石獣だけが生き残りましたが状況は絶望的。水中適応モンスターがいなくなったので泳いで戦わないといけません。


 ボスは第二形態へ移行。絶体絶命ですね。


「あんな大技を使ってくるんだから、ここからこの状態でも勝てるって裏返しだよね」


 そしてこんな状況でも勝機を見失わない。やはりあなたには敵いませんね。


 ともかくフユユさんをヒールします。


「作戦はありますか?」


「それがないんだよね」


 でも諦めない。それがフユユさん。


 深海の主はこちらの都合などお構いなしに接近して来ます。タンポポシードがいなくなった今、本来のスピードに戻っています。このまま泳いでも食べられるだけ。

 するとフユユさんが手を突き出しました。


 前方に伸びるように海水が瞬時に氷漬けとなっていきます。

 これは氷上級魔法『アブソリュート・ゼロ』


 まさかボスを氷漬けにしようと?


 事実接近していた深海の主は氷に飲まれて動きが鈍っています。


「ミゥ、今の内に……!」


 そう叫ぶフユユさんの体も凍結していってる。水中で使ったので自身にも影響が出てる……。


 しかしこのまま私だけが逃げた所で何の意味もない。ボスも動きが鈍ってるだけで完全に停止したわけでもない。どうする?


 考えろ。フユユさんがこの状況を打開しようとしてるんです。私だけが投げやりになってはいけない。最善を尽くせ!


 動きが鈍った深海の主は体を青白く点滅させて発光させてます。まずい、また放電する気だ。こんな近くで放電されたら今度こそ終わる。


 深海の主は半分は凍結してるけど動きは……。

 いや、待て。まだ手はある。


 急いで泳いだ。まだ希望はある……!


 深海の主の体を沿うように側面へと移動した。ここで放電なんかされたら即死は免れない。でもこの距離なら……。


 氷上級魔法『アブソリュート・ゼロ』!


 私もフユユさんと同じように敵の凍結を狙う。深海の主は残り半分の体を尾ひれまで凍らせた。動きは完全に止まる。


 同時に私も凍結の影響で足が凍り始めた。これでもう身動きはできない。ダメージを与えられないけれど、でもそうじゃない。


 深海の主は体内で発電している。だったら凍結した今はどうなるか?

 溜まった電気は外に放出できずに体内で暴発する……!


 目の前の巨大深海魚は何度も体を黄色く光らせて感電状態になっていた。これでどうにか……。


 もうすでに手まで凍り付いてる。魔法を詠唱するのも無理そうです。しかし、深海の主は無慈悲にも氷を打ち破って動き始めた。


 ああ、終わりか。でも最善は尽くした。だったら悔いはない、と思う。

 いや、ほんの少し悔しい。だって、ボスのHPがあと少しで倒せそうなのに……。


 ──閃光


 まるで深海を照らす一筋の光だった。一瞬何が起きたか分からなかった。その光は巨大深海魚の体を貫いて闇の底まで走って行く。


 フユユさんは凍って動けない。一体何が……


 ……あ。そういえばまだいた。生き残りが。


 深海の主の体力がなくなりその巨体を海の底へと沈ませていった。凍結が消えたと同時に振り返る。そこにはフユユさんと、そして小さなウサギ、宝石獣が泳いでるのでした。


 テイムモンスターの奇跡の討伐。フユユさんと目が合うもどういう顔をしていいか分からず、宝石獣だけが額の宝石を手で拭いているのが何とも滑稽でした。

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