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134.それ反則……

 休みが過ぎて平日が来る。今日もデバッグだ。広場にログインすると出待ちしてるプレイヤーはいなくなっていた。バズってからもう1週間近くは経つので皆次の流行に流れたのでしょう。流行り廃りとはこんなものですね。


 そしてベンチにはいつものように銀髪少女が座っていました。今まで通り手を挙げて挨拶します。フユユさんも小さく手をあげてくれました。


「今日は空中植物庭園だったよね」


「はい」


「行こ」


 黙って頷いて転送します。



 ※空中植物庭園・空島エリア※



 植物の蔦や葉が足場となってる不安定なエリア。足を踏み外せば即落下死となる難しいマップです。フユユさんは何も言わず、すぐに仕事に取り掛かりテクスチャチェックや魔法、スキルの確認をしています。レベルも十分にあがったので、私が回らなくてもほぼほぼ大丈夫でしょう。


 こちらもこちらで別の所をチェックしていきます。


 黙々と作業を続ける中、魔法の効果音やモンスターの鳴き声、髪を揺らす風の音だけが響く。。いつもならフユユさんと他愛ない話をしてますが、今日は特にない。別に嫌いになったとか、話す内容がないとかではなく、ただそういう気分。きっとフユユさんも同じ。


 フユユさんが次の場所へ移動しようと動きます。一瞬こちらを見たと思ったらニコッと笑ってピースしてきたので親指を立てて返しておきます。


 余計な詮索も思惑も必要ない。これだけで十分。


 私も移動しよう。葉っぱの足場を踏んで軽快に跳ぶ。以前なら慌ただしかったものも、今ならステップを踏むように越えられる。サボテンのような壁があったのでそこにスライムを投げつけた。すると微妙に角度がズレたみたいで変な明後日の方向に飛んでいってしまいます。ちょうどその方向にフユユさんがいたものだから、ハイジャンプでキャッチして、こちらへ投げ返してくれた。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


 目が合って自然と笑みが零れる。


 そしてまた作業を始める。こんなに心地よく仕事ができるのは初めてかもしれません。



 ※空中植物庭園・静寂の湖※



 2人で作業をしてるというのもあってデバッグは順調すぎるくらいに進んでます。そして大きな湖がある緑豊かな庭園へとやってきました。ベンチが置かれた横には、苗木の精霊がちょこんと立っています。


「……おー、おかえり。ふたり、いつも、いっしょ?」


 その言葉に思わずフユユさんと一緒にクスッと笑ってしまう。そのまま休憩でベンチに座りました。フユユさんが、静かに隣に腰を下ろします。


 キラキラと輝く湖をぼーっと眺めます。何か話そうかなって思いつつも、まぁいいやって思ったり。


「そういえば、前にここでミゥが花くれたでしょ?」


 そんなこともありましたね。フユユさんがブルースターの花をくれたので、お返しに胡蝶蘭をプレゼントしましたね。


「実はあれから気になって花言葉を調べたんだよね」


「そうでしたか」


「うん」


 特に何かを言及するわけでもなく、いつもの空気が流れます。以前なら頬を赤くするような甘い言葉も今は優しい風のように心を撫でてくれる。それが何よりも心地いい。


 それからとくに会話もせず時間を過ごしてまたデバッグ作業に戻る。淡々と黙々と。

 異動が決まって、一緒にいられる時間が減るのだから、今のうちにもっとたくさん話しておいた方がいいのかもしれない。


 でも、そんなことで信頼が崩れるってお互い思ってない。もう疑心も疑念もない。未来へ進むって決めたから。


 ♪♪♪


 メールが来た。相手はフユユさん。離れて作業してるので何か急用でしょうか。


『テクスチャ崩壊してて湖の向こうへ行けそう。1人だと厳しいから誰かに協力してくれたら行けるかも?』


 とのこと。顔を上げたらフユユさんが静寂の湖の向こう側でサラマンダーに乗って頑張っています。


 メッセージを閉じようと思ったけど、妙に改行が多い。気になったので下までチェック。


『ミゥ好きだよ』


 思わず口元がニヤけてしまいます。言葉がなくとも言ってくれるのは素直に嬉しい。だから返信ついでに私も同じように真似してみよう。


 暫くして何やら遠くで誰かが湖に落ちた気がしますが気のせいでしょう。

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