132.青春か……
※バグワールド※
再び攻略に戻って来ました。相変わらず異質な現代都市。
フユユさんと一緒に歩いてると宙に浮いた看板の前に来ます。
【おすすめコンビニ】
【今日のバナナはコンビニです!この先500km先!】
前と同じように文脈が間違ったメッセージが表示されている。矢印もクルクル回ったまま。
フユユさんはそのメッセージを読んだり、色々試してます。そして矢印に手を触れた。すると矢印がピタッと停止する。
「この先かな……?」
きっとそう。
真っすぐ歩いてるだけじゃ気付けない。時には立ち止まって、考えて、そして答えが見つかる。まるで今の私達のように。
商店街の通りにやって来る。通りのショーケースに並べられた無数のテレビ。雑音を流すだけで真っ黒な画面のまま。フユユさんはまた立ち止まって試行錯誤する。
雷魔法を使った時、画面がついた。
【ロック解除完了】
メッセージが表示される。その次に道路にあるUFOキャッチャー。フユユさんはそれを触った。どうやら動くらしい。そして小さなカプセルをゲットして排出される。カプセルの中身は鍵だった。
【秘密の鍵を入手しました】
ギミックは着実に進んでる。そして、歩道を進んでいるとNPCとすれ違った。
『この先一方通行だよ』
それだけ言って壁に歩いて宙へ行く。フユユさんはその様子を眺めてNPCの後を追う。
私も続いた。ハイジャンプを使って壁を飛び越えると何もない宙に着地する。宙を歩いてると思ったNPCはちゃんと足場を歩いていたらしい。
そのまま真っすぐ歩いてると視界が暗転する。
キーンコーンカーンコーン
不意に学校のチャイムが鳴り響いて耳にまとわりつく。どうやら正解を引いたみたいですね。目の前は学校の廊下のようで、窓の外を眺めるとグラウンドや校庭が見えます。
廊下は長く、【1-1】などの教室が奥まで続いています。
バグワールドには敵がいないので中間ポイントが存在しない。そして学校がダンジョンそのもの。
フユユさんが廊下を歩いて行く。コッコッと靴の音が鳴り響く。
「学校か……」
この子にとっては良い思い出ではない場所かもしれない。そっと手を握り締めてあげた。
「私がいます」
フユユさんは少し笑いながら私の方を見ました。
「ねぇ、ミゥ。少しだけ付き合ってくれない?」
尋ねる前にフユユさんは私の手を引っ張って廊下を走って行きます。途中階段があったので駆け上がって行く。3階の廊下に付いて【3-1】と描かれた教室のドアを開けて中に入った。誰もいない静かな教室。整然と並べられた机と椅子。教卓には日誌らしきものが置かれて、黒板は新品同様に何も描かれていない。
フユユさんは窓際の後ろの席まで歩いて行くと、私の手を離してそこに座りました。
「ここが私の席」
リアルでの話でしょうか。
そして感傷に浸るみたいにぼんやりと外を眺めてます。夕焼け空になっている外はどこか儚くも美しい情景だった。
「唯一の心残りは青春を謳歌できなかったって所かな……」
「フユユさん……」
「体育祭とか文化祭とか、部活とか、修学旅行とか。何気ない休憩時間に知らない人と話したりとか。私にはそういう経験が一切できなかった。この先、色んな人と出会っても、学生時代の話はできないんだろうね」
淡々と語るその言葉にどれだけの感情を込められているのか。前の私だったらそれを理解しようとした。でも今は理解なんかよりも、そっと感情に寄り添いたいと思う。
だから制服姿に衣装を変えて、フユユさんの席の隣に座ってみる。
「でもあなたは誰にも真似できない経験を得られた。それを大切にしてください」
自分にも言い聞かせる。ここはまだ未来への通過点に過ぎない。でもその気持ちもきっと大事だろうから。
「ミゥと同級生かー。もし同年代だったらどんな風に過ごしてたんだろうね」
「フユユさんに新作のゲームをあれこれ勧められてる気がします」
「あははー。いやー、だって私にはそれしか取り柄がないからねー」
「それで私が否応なく付き合わされて攻略を手伝うわけですね」
「今となにも変わってないなー」
静かな教室に笑い声が響いた。きっとこういう談笑もまた、青春の一部だったのでしょう。
「今からでも青春を謳歌できると思いますよ?」
今のフユユさんなら学校へ復帰もできそうです。
「今更半端な青春をするつもりはないよ。それに夢を追うためにも、過去より未来を見たいし」
その言葉には強い意志を感じられた。
「フユユさん。いいえ、ちしろちゃんならきっと出来ますよ」
「ちょっ、今それ言うのは反則……!」
顔を真っ赤にさせて視線を外してかわいい。どうせここには私達しかいないので、名前で呼んでも関係ありません。
「雨宮先輩の馬鹿……」
ぽつりと呟くその言葉に鼓動が揺れる。先輩か……。そんな風に呼ばれたことはなかったな。
「同級生だったのでは?」
「そういう気分」
それもまた良きですか。ここには私達を縛るものは何もない。
彼女の視線の先を追うように私も窓の外を眺める。
もしリアルだったら私達は恋人になれていたのでしょうか。そんな淡く切ない気持ちに思考が奪われた。




