13.
イベント当日。
ジュエルツリーのイベントが始まって各地でフィールドに出向いてるプレイヤーが増えました。さらに同時に衣装改善のアプデも入って、寧ろそちらが本命と思ってるプレイヤーも多いようです。ともかく少しずつ賑わいが出て私としても嬉しい限りです。
なお、ここでベンチで死んでる女がいますけど。
しかも制服崩して体たらくが加速してる……。
「今日からイベントですが」
「知ってる……」
亡者ってこんな声なんでしょうか。干からびてる……。
「お金はあって困らないと思いますよ」
いつか攻略するなら資金は溜めておくに越したことはない。
先へ進めば進むほど色んなアイテムが必要になるでしょう。
「疲れた……」
まだ今日始まったばかりですよ……。
人のこと言えませんけど……。
「ミゥと一緒に見たから私の中では完走した……」
気持ちは分からなくもない。私はデバッグし続けてるから新イベントとか言われても全然盛り上がらないですし。やはり帰すべきだったか……。
「そんなにやる気ないのにゲームにはログインするんですね」
そこまで疲れてるなら無理せず休めばいいでしょうに。
「ログインしないとミゥを拝めない……」
こんな死人同然の顔で言われても説得力ない……。
ともかく私にイベントは関係ないので今日もデバッグ。人が出払ってるので前のイベントと同じく普段とは違う所へ行きますかね。
「置いてかないでー」
死者が立ち上がったようだ……。
図書館へやって来ました。
ここではスキルを習得するアイテムを買える。スキルは戦闘で役立つ特技で移動速度が速くなったり、大ジャンプできるようになったり、敵に見つかりにくくなったりと色々ある。SPという体力とは別の数値を消耗するけどその分効果は強力。それもあってか値段は結構高め。攻略勢はこの機会に買い揃えるでしょう。
「図書館はじめて来た」
施設的には地味な見た目をしてますからね。
「わ。漫画置いてある」
その通り。この図書館ではリアルでの漫画が読める。ただ、その殆どは古い物ばかりで新しいのは置いてない。
とはいえ漫画が無料で読めるのでスキル目当てではなくそっち目当てで来る人の方が多いと思う。そりゃ街から出て行かないよ。
「今度から図書館に来ようかなー」
「どう遊ぶかはフユユさんの自由です」
とりあえずスライムをぶん投げる迷惑客になる。
「ミゥと漫画は比べるまでもない……」
愛が重い……。
「フユユさんならスキルも使いこなせるんじゃないですか?」
「お金がない……」
切実……。
私もリアルで欲しいよ……。
するとフユユさんがカウンター奥にいらっしゃるNPCのお姉さまに近付いた。
「お姉ちゃん、値段安くして♪」
上目遣いですごいぶりっこしてる……。
『いらっしゃいませ! こちらではスキルの書を購入できます』
しかも会話になってない。或いは相手するのが面倒で営業モードになったか。
「ミゥー、この人酷いー」
NPC相手に交渉する人はじめて見ました……。
「そんなに欲しいならイベント行ったらいいじゃないですか」
「それは疲れる……」
だから空気重くしないのー。
「ねーミゥー」
「なんですか」
こっちも忙しいんですけど。
「バグ調査でスキルの書全部買うんでしょ? ミゥが持ってても意味ないから私がもらってあげるよ」
何を言ってるのか理解できません。
「あげません」
「分かった。じゃあ1個で許してあげるから」
何で私が悪い事したみたいになってるの?
「ダメです」
「そんなの言うんだ? じゃあ運営からマフラーもらったってSNSで拡散しようかなー」
「垢バン」
「全部冗談だったのだ……」
この子の相手をしているとこっちが疲れます。
それにしてもここの漫画は本当によくできてます。ちゃんとグラフィック再現できてますし、制作班の努力が伺えますね。
「あー。仕事中なのに漫画読んでるー。いけないんだー」
本当うるさいですね……。
「会社にクレームいれよっかなー。どうしよっかなー」
「お好きにどうぞ」
「いいんだ? 本当にするよ? 今ならスキルの書1つで手を打つよ?」
画面を開いて脅し態勢。小学生ですか。
「クビになればこの苦行からも解放されて晴れて自由の身です。フユユさんもこれから攻略でもがんばってください」
「やっぱやめよ……」
変わり身はやい。
私もサボる気はないので仕事を続けます。スライムを投げろー。
「あーあー。都合よく私のアカウントにお金入らないかなー」
チラチラこっちを見ないの。
「はぁ。チート使ってる人はいいよね。こんな苦労もないんだから」
なぜ私に言う。
「よし決めた。イベント頑張る」
「そう言って1分で帰ってくるんじゃないですか?」
「今回はガチでやる。まぁ見てて」
そう言ってフユユさんは図書館を後にしました。
これは本気なのか?