125.ミゥがいれば他はどうでもいい
※平日・早朝・電車内※
眠い……。今日も満員とはいかなくても満席状態。仕方ないから吊り革につかまる。
「ねー、昨日のナツキの配信見たー?」
「見た見たー。すごかったよねー」
ドア付近で集まっている学生さんが何やら盛り上がっています。
「ミゥとフユユ推しになっちゃう~」
「えー、私はミネ様がメロい~」
「君達、ナツキさんが泣くぞー」
一瞬噴出しそうになりました。まさかのガールズオンラインの話?
そういえばナツキさんが配信していましたね。気になるから少しだけ調べてみましょう。
……なんだこれは。切り抜きやらショート動画が拡散されていて、しかも再生数がえぐい……。昨日の今日で100万とか普通行く? ていうか吊り橋落下ハグとか、洞窟の悲鳴とか、ボス戦の手繋ぎシーンが全部アップされてます……。
『夏樹サン@昼夜逆転中』
SNSで調べて見た所、ナツキさんのアカウントを発見。うわ、フォロワー数すご。あの子、こんなにも人気あったんだ。そういえばPVPに勝った時もバズったのを思い出します。
夏樹サン@昼夜逆転中『ここだけの話、ミゥとフユユは付き合ってる』
ちょっと。なんてこと呟いてるんですか。
『知ってた』
『ミゥ様フユユ様てぇてぇ』
『昨日の攻略見たらむしろ付き合ってない方が不思議』
『結婚はまだ?』
『俺も女になってガルオンしたい』
『次のコラボはいつですか?』
そしてコメント数もとんでもないことになってます。なんか胃が痛くなってきた……。
これは出社したらまた呼び出しくらうのでは……? 気分が一気に憂鬱に。
※会社※
「はよぅございまー」
意気消沈しすぎてまともに声が出ません。こんな死んだ声でも同僚は挨拶を返してくれます。しかし、それ以上に社内が少しだけ騒がしい気もします。とりあえず仕事場の席へ行きます。
相変わらず隣の田中君はすでに出社してプログラムと睨めっこしてます。
「おはようございます。雨宮さん」
「おはようございます。今日は珍しく騒がしいですね。何かあったんですか?」
「ガルオンで騒がれてるプレイヤーいるそうなんですよ。そのプレイヤーが問題視されてたみたいですけど、SNSで人気になってるからどうすべきかみたいな話し合いがあったそうですよ」
思わず鞄を床に転がしそうになりました。また私の話題ですかー。もう本当勘弁してくださいよー。
「雨宮さんはガルオンにずっとログインしてるそうですが、そのプレイヤーについて知りませんか?」
「いやー、デバッグで忙しいから知りませんねー」
本当の事は絶対言えません。
すると課長が私の所にやってきます。
「赤神課長、おはようございます」
「おはよう。前に話した件だが今は様子見という判断になった。これだけ話題になってるからここで下手をするより広告塔にした方が理になるということだろう。とはいえ油断はできないから動向には気を付けておいてくれ」
「分かりました」
赤神課長が手を挙げて去っていきます。一先ず私とフユユさんの件は安泰、ということでしょうか。しかしここまで騒がれるようになるなんて思ってもいませんでした。
とりあえず、ログインしよ……。
※ガールズオンライン・ログイン広場※
いつも通り広場にやってきます。しかし何だかいつもと雰囲気が違うような……。
プレイヤーが妙に多く感じます。見渡すとベンチの方でフユユさんが座ってますが無数のプレイヤーに囲まれてる状態。何事……。いや、これは……。
「ミゥ様だ!」
「ミゥさまー」
すると私の方に大量にプレイヤーがやってきました。
「昨日の配信見てファンになりました!」
「ミゥ様ってSNSやってないんですか?」
「フユユとはどうなんですか?」
わーい。影響はSNSだけじゃなくてゲーム内にまで起きてます。
これはダメだ。ともかくフユユさんの所へ駆けつけて人混みを掻き分けて手を掴みます。
「フユユさん、行きますよ」
「ミゥ……!」
街を走り出す私達の後ろではやはりプレイヤーさん達がキャーキャー騒いでます。
もう何をやっても無駄なのかもしれない……。
「デバッグに行きましょう。ジュラシックです」
「おけ」
街から転送してワープします。
※ジュラシックワールド・部落の村※
原始的な部族の村にやってきて一先ず安堵します。さすがにここにはプレイヤーはいないようで、騒がれる心配はないでしょう。デバッグをきっちりしていてよかった。ジュラシックが終われば隠しマップなので仕事中に妨害される心配はないはず。
「なんだか大変なことになったね……」
フユユさんもSNSを見たようで少し落ち込んでいました。
「そう悪い事ばかりでもないですよ。今日課長から聞いたのですが、私達については一旦保留扱いみたいです。ここまで知名度が上がっては下手を打たない方がいいという判断でしょう」
「つまり……キス解禁……?」
それは早合点というものです。
「ナツキさんには感謝しないといけませんね。これならある程度は容認されるでしょう」
泥の上から泥を塗っていくのがいかにもSNSの流れらしいです。
「むー。でもナツキのせいでログインしたらプレイヤーに絡まれるようになった。ミゥを待つ楽しみが奪われた」
それは否めません。
「それじゃあ仕事です。行きましょうか」
「うんっ……!」
フユユさんが腕に絡んできて一緒に歩きます。やっとあなたと触れ合えるのなら、この程度の犠牲は安いと私は思います。
肩を寄せてゆっくりとジャングルの奥地へと向かいました。