123.誰にだって怖い物はある
※竜の渓谷・安置エリア・中層竜の巣※
壊れた吊り橋に沿って断崖絶壁から下って雲を抜けた先に大きな洞窟があります。その中は藁や小さな卵が集められた如何にも巨大な何かが住んでいた雰囲気があります。洞窟の中央には焚火がパチパチと燃え上がっており、その近くにミネとナツキさんが並んで正座してます。
「さて、弁明を伺いましょうか?」
吊り橋が崩れると知っていて私とフユユさんを嵌めたのは事実です。言い逃れは許されません。
「い、いや~。2人ともたまってると思っていい雰囲気になるだろうなーって。コメントでも大盛り上がりしてたぞ」
「なるほど……私とフユユさんは配信のネタに過ぎない、と」
「申し訳ございませんしたぁ!」
ナツキさんの最速土下座。私の顔がよほど引きつっていたのかもしれません。或いはキス禁止のフラストレーションがそのまま顔に表れてたのでしょうか。
「ミネ、あなたも知ってましたね?」
「姉さんそうイライラしないでよ。フユユが泣くよ?」
「ではあなたの処罰をフユユさんに任せましょう」
視線の泳いでたミネの顔が一気に青ざめてます。フユユさんをダシにした罪は重い。
「ミゥもういいんじゃない? 私は別に怒ってないよ」
「さっすがフユユ様だぜ。寛大な心の持ち主ー」
「フユユは話が分かる子だね」
ナツキさんとミネがへらへらするので睨んでやったら肩を震わせます。
確かにフユユさんと密着できて少し嬉しかったのは確かですが……。
はぁ、これ以上問い詰めては攻略が進みませんね。
「ダンジョンからは真面目にお願いしますよ」
「ミゥ様なら分かってくれると思ったよ」
「姉さん本当は優しいからね」
ニコニコ言う彼女達に何を言っても無駄な気がしてきました。
竜の巣を先に進むと更に下層へ進む階段があります。暗くて奥が見えないので準備は入念にした方がいいでしょう。
「さすがにダンジョンはテイムモンスターを連れていきましょうか」
それで各々がテイムモンスターを呼び出します。パーティが多いとテイムモンスターの同行数も制限が入るので1匹まで。
フユユさんが宝石獣、ミネがカラフルブルーム、ナツキさんがサラマンダー、そして私がリザードマンを呼びました。
バランスはまぁまぁでしょうか。宝石獣はフラッシュでスタン持ち、カラフルブルームはバフで味方を強化出来て、サラマンダーは飛行能力と火力、リザードマンのガードスキルによるタンク。ヒーラーがいないのが懸念点ですがこのパーティなら寧ろ不要ですか。
「ミゥ、スライムじゃないの?」
フユユさんに詰め寄られます。
「さすがにダンジョンで連れて行きませんよ」
2人攻略ならともかくミネとナツキさんがいる中でスライムなんか連れたらボスで負けた時確実に責任を受ける。
特に不満もなさそうなので出発します。
※竜の渓谷・ダンジョン・捨てられた竜の奈落※
階段を下りた先は巨大な奈落の底が見えてきます。奈落は暗く闇に支配され地面が見えない。落ちたら当然即死でしょう。狭い壁の道を沿ってらせん状に下りて行く一本道のダンジョン。モンスターの気配がなく、時々奈落の底から不気味な悲鳴が漂っています。
明かりがないので妙に暗いせいである意味ホラー感が漂っています。灰色の壁と荒んだ道しか見えないのがいかにもな雰囲気ですが所詮はゲーム。
本当に静かで歩いても自分の足音しか聞こえない。
……ん? 自分の足音だけ?
振り返ったら遥か後方で3人とテイムモンスター達がのそのそと歩いてます。
明らかに挙動不審に見えますが怖いのが苦手なのでしょうか。
「ミネさん、宝石獣返して……」
「お、落ちたら危ないし?」
ミネがフユユさんの宝石獣を抱きかかえて歩いてます。そういえばこの子……。
すると急に壁から白い亡霊さんがこんにちはしていました。
「きゃああぁぁぁぁ! でたぁぁぁぁぁ!!!」
ミネが洞窟内全域に響かせるほどの絶叫をあげてます。昔から怖いの苦手でしたね……。
そのくせホラゲをして自ら追い詰めて夜中にトイレに行けなくなってたのを思い出します。
亡霊さんなので光魔法が弱点。『スターライト』
なんなく撃破します。
「ミネさん怖いの苦手とか配信映えするわー。って、なんか後ろから、いやあぁぁぁぁ! 爬虫類ぃぃぃぃぃ!」
ナツキさんが全速力でこっちにダッシュしてきます。しかもその原因は私の相棒のリザードマンです。皆さんがノロノロ歩いてたので後ろで詰まってたようです。
「はぁ。もう頼れるのはミゥだけだね……」
フユユさんが私に寄りついて袖を掴んできます。
「あの……」
「べ、別に怖いとかじゃないし……? 倒せる幽霊なんて余裕だし……?」
手がすごく震えてますよ。それで歩いていると小石が跳ねて奈落へと落ちます。同時に不気味な叫びが残響してフユユさんがびくっとしてます。
更に目の前にさっきの亡霊さんが急に出現。でも悲鳴はあげてないから平気……?
と、思ったのですがいつものPSで回避も魔法もしません。代わりに倒してあげました。
「はっ。夢を見てた……」
そういえば絶叫系も苦手でしたし、こういうのダメなんでしょうか。
「ミゥはすごいね……。落ち着いてる」
「たかがゲームでしょう?」
これなら残業の方がよほど怖いです。
「よし、ミゥ様に引っ付いて全方位カバーだ」
「姉さんをお守りにしよう!」
ミネとナツキさんも引っ付いてきます。あの、そんなに抱き付かれたら歩きにくいのですが。
「ナツキ、ミネさん、私のミゥを取らないで」
「攻略では全員平等だ。我らがミゥ様がいないと攻略が成り立たない」
「そうそう。姉さんは最強だから前に出て戦ってもらわないと」
フユユさんが不服そうに頬を膨らませてます。かわいい……。
そうして先へ進んでいくと目の前に何かが降ってきます。黄金色に輝き、足が8本あり、目が4つ、這いつくばる巨大な虫が目の前に……。
「なんだあれ。蜘蛛?」
「ポップでかわいいかも」
これがかわいいだと? 回れ右します。そして全力ダッシュ。
「ミゥ!?」
蜘蛛は無理なのぉぉぉぉぉ!
そしたら背後からも巨大蜘蛛が落下してきたぁぁぁぁ!
「いやあぁぁぁぁ! 近寄るなっ!」
もう無理ぃぃぃぃ!
炎上級魔法『エクスプロード』
『エクスプロード』
『エクスプロード』
『エクスプロード』!
「ミゥ落ち着いて! もう消滅してるから!」
はぁはぁ。やつはもういないの……?
周囲を確認するのすら恐ろしい……。
「そういえば姉さん昔から蜘蛛とかゴキ苦手だったね」
地面を這いつくばる奴らは何であんなに嫌悪感を抱くビジュアルをしてるのでしょうか。
人類と共存する気がないでしょう。
「ミゥ安心して。蜘蛛が出ても私が倒すから……」
「本当ですか……?」
「うん……でもお化けは無理だからお願い……」
お互いの苦手を補う。これこそが人類です。これなら勝てる、と思います。