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122/126

122.PSが高い人ほど余裕ある

 断崖絶壁の道を進んでいると空を飛び回っていたサラマンダーの群れがこちらに気付いて滑空してきます。口から火を吹いてきて非常に厄介ですが……。


 フユユさんは相変わらず機敏な動きで回避。ミネはサラマンダーの死角に移動してそもそも攻撃を受けないように立ちまわっています。ナツキさんに至っては火の攻撃を水魔法で相殺して正面から突破するという如何にも配信向きな演出をしてます。


 いずれにせよ、全員のPSが高いので苦戦する様子がまるでありません。私はバフでもかけていましょう。


 サラマンダー軍団呆気なく敗北。それぞれが何事もなかったように攻略を再開しています。

 鬼に金棒というべきか。ものすごく頼もしい。


「あれはなんだろう?」


 フユユさんが向かいの崖を指さした方には壁に紫色の大きな竜が張り付いています。翼は爪のようになっていて、尻尾の先も刃のように鋭い。ワイバーンと呼ばれる敵ですね。

 今はまだ気づいてないようで息を潜めています。


 が、ミネがマジックアローを放ってワイバーンに攻撃しました。すると怒ったワイバーンが飛翔し、さらに吠えて崖下から仲間を呼びました。


「ミネ、何やってるんですか!」


「ごめん。手が滑った」


 明らかに故意で狙ってたじゃないですか。本来なら横切る時に気付いて各個撃破できるのに……。おかげでワイバーンの群れに包囲。おまけにサラマンダーも襲ってきます。

 まさに阿鼻叫喚……。なのに私以外誰も意に介してなさそうなんですが。


「敵は全部経験値」


「ナツキさんの見せ場キター!」


 どうやらここには脳筋しかいないようです。頭が痛くなってきた。


 ワイバーンが飛びながら大きな尻尾を振り回してきます。屈んで回避。しかもあちこちから襲ってくるせいで回避で精一杯。誰か助けてー。


 なのにミネやナツキさんが傍観してます。なんで戦わないの?


「フユユ。ミゥがピンチだよ。助けてあげないと」


「嫁のピンチに行かなくて何が彼女だ!」


 この2人絶対今の状況楽しんでるでしょ。フユユさんは無言で駆けつけてくれてワイバーンの注意を引いてくれます。おかげで魔法を使う隙は生まれた。


「姉さんがんばー」


「コメでも応援されてるぞー。抱き合えー、キスしろーだってさー」


 完全に野次馬じゃないですか。フユユさんに目配せします。頷いてくれたので同時に『ハイランナー』を使って2人の元へ移動。敵の注意を無理矢理惹き付けさせます。


「ではあとよろしくお願いします」


「お先ー」


 顔面蒼白の2人を無視して先へ走っていきます。


 なんとか敵も振りまいて逃げて来れました。遠くでは騒がしく魔法で輝いてます。


「災難ばかりですね」


「でもちょっと楽しい」


 それには少し同感かもしれない。今まではずっと2人で攻略してましたからね。摩天楼都市で協力したとはいえ、あの時は色々複雑な事情もありましたし。


 道なりに進んで行くと大きな灰色の竜が道を塞いでいます。翼は退化してボロボロですが、素通りさせないと言わんばかりに地面に垂れさせています。中ボス扱いの灰竜。


 灰竜さんは起き上がるとこちらに空気砲を放ってきます。一度受ければ崖外に押し出されて即死。幸い予備動作もはっきりしてるので動きをしっかり見ていれば回避は容易。


 さらに回転して尻尾を振り回してきます。同時に大きな翼もこちらに向く。急いで距離を置く。動きは全体的に緩慢なのでこれらも動きを見極めて対処。


 この敵の厄介なのはダメージではなく場外送りにされること。図体が大きいせいで少し動いただけでプレイヤーが押し出されてしまう。振り向いただけで大きな翼に押し出されることもある。なのでなるべく距離を置いて遠くから魔法を放つ。ただ魔法硬直が長い魔法は空気砲を受けて即死なので中級魔法くらいがいい。


 それでもフユユさんは足元付近で戦って余裕の様子。私も見習って接近しよう。それなら上級魔法も使える。


 フユユさんに合図を送って同時に魔法を発動。


 雷上級魔法『レクイエム』!


 二重奏となった巨大な雷が灰竜の頭に落ちる。おかげで地面に倒れて大きく怯みます。

 フユユさんに火力支援魔法『ブレイブハート』をかける。フユユさんも私にかけてくれた。


 具現化魔法『マジックバレット』で手数で押し切る!


 灰竜撃破!


 フユユさんとハイタッチ!


「……あ」


「……今のはノーカン」


 無意識に触れてしまっていた。で、でもハイタッチくらい普通ですよね……?


「おー。さすがは婦妻。息ぴったりだな。そのままちゅーしろよ」


「姉さんのキスってどんな風にするか興味ある」


 いつの間に戻って来たんですか。相手するのも疲れるので無視して先に行きます。


 その先は木の板でできたボロボロの吊り橋があります。非常に長く、普通ではあり得ない距離に感じます。下を覗けば雲となっていて落ちれば当然落下死。なにか嫌なギミックを予感させます。絶対なにかあったはずですがちょっと思い出せない……。


「ここ前に来たけど橋渡ってるとここからドラゴン来て吊り橋壊して来るんだよな」


 さすがはナツキさん。攻略してただけあって情報もあるようです。


「じゃあ私とナツキが残るから、姉さんとフユユが先に行って。その方が安全だと思う」


「だなー。レディファーストってやつだ」


 あなた達も女性では? それに何か引っかかるような……。

 ともかく考えても仕方ないのでフユユさんと行きましょう。


 吊り橋は想像以上に不安定でグラグラします。風も吹いてるせいで右へ左へと大きく揺れていました。


「フユユさん、手を繋ぎますか?」


「え、でも……」


「これくらいならきっと大丈夫ですよ」


 落ちないように配慮してるだけであって、別にやましい心なんてありません。


 フユユさんがそっと手を差し出してくれます。その手を握ったらふわふわで柔らかくて、何だか心地よくて……。


 ……やましい心ではありませんから。だって手を絡めてないです。ただ握ってるだけです。


 吊り橋の半分くらい渡った所でしょうか。急に空から大きな咆哮が聞こえたと思うと同時に黒くて巨大な竜が目の前の吊り橋に乗りかかって破壊してしまいます。

 吊り橋が千切れて落下……。


 はい?


 遠くからミネとナツキさんが爆笑してる声が……。

 思い出した。ここの吊り橋は絶対壊される仕様で垂れた吊り橋を使って崖から下へ降りて行くんだった。やっぱり嵌められた……。


 フユユさんと仲良く落ちていきます。手だけは絶対に離さない。離れないように抱き寄せます。こんな状況で残された手は……。


 ……あった。


 フユユさんを見たら同じ考えのようで小さく頷いてます。


 雲の上を飛び回ってるサラマンダーに狙いを定めてマジックアローを放つ。何度も。

 敵が気付いてこちらに迫ってきます。同時にフユユさんの手から魔法陣が放たれる。


『テイムに成功しました』


 接近していたサラマンダーは敵意をなくしてそのまま滑空状態に。私とフユユさんは仲良くその背中へと着地。


「あっ……咄嗟に抱き付いてしまって……すみません……」


「ううん……私も、嬉しかった……」


 これくらいなら許されます、よね……?

 少しだけ気持ちが和らいだ気がします。

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