121.持つべきは友……?
キスがしたい。
ハグでもいい。いや、やっぱりキスがいい。違う、ハグしながらキスだ。
こう、手を絡めながら、もう片方の手でフユユさんの背中を支えて、それで……。
はっ、また私は……。
だめだ、最近フラストレーションが溜まり続けてる。キス禁止条例のせいでフユユさんと距離を置いてるから最近まともに絡めてない。そもそもキスなんて今までも頻繁にしてなかったから我慢できるはず……。でもするなって言われるとしたくなるのが人の性……。
キスしたいキスしたい、キスキスキス……。
ダメだぁ! これは本当まずい。今日は休日とはいえこんな調子で大丈夫なんでしょうか。
ログインしたら広場でベンチに座ってるフユユさんと目が合います。気まずそうに視線を外してる。近くに行きます。
「フユユさん、私もう限界です」
「ミゥ……ダメだよ」
「だって、こんな……」
大好きなのに、触れることすら許されないなんて、一体どんな罰でしょうか……。もう何もかも忘れて堕ちてしまいましょうか。ああ、私はもう、理性が……。
するとフユユさんがぬるりと腕の隙間から抜けて避けてしまいます。
「もう少しだから我慢しよ……。それにするにしてもここは危ないよ……」
はっと我に返る。周囲から熱いプレイヤーの視線が。
また私はやらかしそうになっていました。これは本当に危険信号かもしれない。
「ミゥ、攻略に行こう! そうしたら気も紛れるよ!」
本当にそうでしょうか……。正直自信がない……。顔に出てたのか、或いはフユユさん自身も不安なのか言葉に詰まってます。
「……そうだ! ミネさんとナツキ呼ぶのはどう?」
まさかの意外な提案。けれどそれは良い考えかもしれない。私達だけだとどこかでリミッターが外れてしまうかもしれませんが、ミネやナツキさんの前ならある程度自制できるかもしれない。
「いい考えです。ミネに連絡します」
「じゃあナツキ誘ってみる」
※少し時間経過※
「姉さんの誘いと聞いてやってきたよ」
「ふわぁ。こんな朝からナツキさんを呼び出すなんてなんだー?」
どちらも休日ということで来てくれたようです。よし、少しだけ気持ちが落ち着いてきた……かもしれない。
「今日はお二人と高難易度エリアを攻略しようと思って誘いました」
「へぇ。どこか詰まってるの?」
「そういうわけではないのですが……」
さすがにキス禁止されてるから手伝って欲しいなんて言えない……。
ミネは少し考えてる様子でしたが、ナツキさんが手を叩きました。
「分かった。あれだろ、最近トレンドになってるガルオン婦妻事件だろ。キスしまくってるだの、影でやりまくってるだの噂になってるやつ」
他にプレイヤーがいる中で大きな声で言わないでください。恥ずかしくて顔が赤くなる……。
「あー、なるほどねー。姉さんの立場を考えたら確かにそれはまずいかもね」
「……そういうわけですから協力して欲しいんです」
説明する気はなかったのに結局バレてしまいました。
「いいよ。キスくらい私がもみ消してあげるよ」
「っしゃ。これは今日の配信伸びるぞー」
なんだか不安しかないのですが。フユユさんも同じ気持ちなのか暗い表情をしてました。
※竜の渓谷・頂きの道※
ジュラシックワールドの荒地エリアに天へ続く岩壁があります。赤褐色の階段が何段も続き雲の向こうにすら伸びている。その先こそ隠しマップの竜の渓谷。魔界、ディープシーに続く隠しマップの中でも特に難易度の高いマップです。
私とフユユさんはなるべく距離を置いて階段を上ってます。少し物足りないですけど、今は我慢……。
「テイムモンスターはどうする?」
「私、ここちょっと攻略したけどなしの方がいいと思うぞ。実力者が集ってるし火力面は問題ないな」
そういえばナツキさんは以前PVPした時にサラマンダーを連れていましたね。あの時点ですでにここまで来ていたのはさすがと言いたい所です。
「私は異論ないよ。姉さんとフユユは?」
「「ない(です)」」
見事に被った……。一瞬フユユさんと目が合うけど照れくさくなって視線を外す。だめだ、意識したらいけない。煩悩に支配される……。
そんな様子をミネとナツキさんがニヤニヤ見てます。
階段を上って雲を抜けた先には断崖絶壁の道となっている。風が吹き荒れていて、崖から落ちたら当然即死。とはいえ道幅はかなり広いのでよほど危ないプレイをしなければ落下はしないでしょう。
空は快晴で無数の赤き竜、サラマンダーが飛び回っています。プテラノドンに続いて飛行能力のあるモンスターなのでぜひともテイムしたいですね。
「おはなっつー。ナツキさんの配信はじまるぞー。お前ら喜べ。今日はスペシャルゲストに今話題のミゥ&フユユ婦妻がいるぞ。さらにPS神のミネさんも一緒だ。おー、コメ伸びはっや」
ナツキさんが早速配信開始してます。これは益々キスなんて迂闊な真似はできませんね。ある意味抑止力と思って受け入れましょう。
「姉さんとフユユさ。離れすぎじゃない? もう少し近くの方がいいよ。ここ難しいから」
ミネがフユユさんの手を引っ張って無理矢理距離を縮めてきます。
「ミネ。話を聞いていましたよね?」
「それと攻略は別問題だけど?」
ぐぬぬ。一見正論にも聞こえるせいで反論できません。
「ミネさん。ミゥを困らせないでください。それに離れた方が敵の注意も分散できるから一概に正しいとは言えない」
フユユさんナイス発言です! ミネは若干不服そうな顔をしてましたが手を離してました。
「おおっと! いきなり修羅場か!? おまえら見たか? あれがフユユのミゥ愛だぞ」
ナツキさんはナツキさんで勝手に盛り上がってます。
今、物すごく帰りたくなってきました。この攻略絶対一筋縄ではいきませんね……。