12.ハグまでされたら、もう無理……
※20時。ガールズオンライン※
なぜ私はここにいるのだ……。
もう家に帰ったのだ……。
お酒飲みながらネトフリでアニメ見ようと思ってたのだ……。
「ミゥ、めずらしいねー」
こんな時間でもフユユさんはログインしてるらしい。本当に1日してるんだ。私には真似できない。
「大丈夫?」
「残業……」
「あー……」
次のイベントの調整の為らしい。家でするのを許可してくれたのが救い……。
「お疲れ様。頭撫でる?」
「撫でる……」
なでなで、なでなで。
あー銀髪美少女癒されるー。私の癒しー。
「ハグする……?」
「する……」
はー、やわらかいー。もうずっとこうしていたい……。
「相当疲れてるね……」
はっ。無意識に体が動いてた。理性を保つのだ、我が体。
イチャイチャはこれくらいにしておこう。本当はもっとしたいけどそうでないと私の残業が増えるばかり。
「あ……終わり……」
そんな顔しないで……。
仕事なんだ……。
「そうそう。フユユさんが提案してくれた服装の案、通りましたよ」
「そうなんだ?」
「はい。ですから次のアップデートには着崩せるようになると思いますよ」
そして全衣装の差分修正の為にグラフィック班が残業地獄を見ているという……。
これは黙っておこう……。
「残業ってスライム投げる?」
「今日は少し違います」
街を出て草原フィールドへと出ます。周囲に人がいないのを確認。よし、誰もいない。
誰もいない……。
1人いるな……。
私のそばに……。
「あの、フユユさん。私はこれから次のイベントの調整がありまして、それで、そのー」
「邪魔なんだ?」
その言い方はすごく語弊があります。
「別にSNSで暴露とかしないよ。私だってその辺は分かってる」
分かってるなら私を放っておいて欲しいのですが。離れるという選択肢がないんですか。
「どうしてもって言うならどこかへ行く……」
その悲しげな表情やめて……。
残業疲れの私に効く……。
「じゃあ内密にお願いします……」
私もこの子に甘いな……。
とりあえずデータアクセス。そして次のイベントで使うオブジェクト設置。
確かこの『ジュエルツリー』だったね。よし。
ポーン。
目の前に宝石が実った木が出てきました。
「これが次のイベント?」
「はい。今度、この木が各地のフィールドやダンジョンに出現するようになります。ジュエルツリーと言って名前の通り宝石が採れる木ですね」
「へー」
あんまり喋るのもよろしくはないのでしょうけど。
「宝石ってことは換金系かな?」
「ですね。この宝石を売ると結構な資金になります。お金不足の解消イベントです」
ゲームをはじめたばかりというのはとにかく金欠。装備を整えたり、アイテム買ったり、衣装買ったり、とにかくお金が必要。普通ならダンジョンを攻略してモンスターがドロップする素材を売れば簡単に溜まりますが誰も攻略してないので……。
「うーん。イベントにしては結構地味なような。私がプレイしてたのはでかいボスを倒すとか、対人イベントとかそういうのが多かったよ?」
「そういう案もありましたけど討伐系はそもそもしないプレイヤーが多いでしょうし、対人に関しても同じです。そもそもこのゲームにPVPはありません」
一応フレンド同士なら戦えるシステムはありますがあくまでおまけ。競争要素は殆どありません。
「それに今回のイベントにもちゃんと理由があります」
「そう?」
「このゲーム、家が買えるんですよね」
自分だけのマイホーム。それは誰もが憧れると思う。でもお高いのが世の常……。
それを少しでも解消させるためのイベントでもあります。
お喋りはこのくらいにしてデバッグを始めましょう。とりあえず宝石を1つ取ります。すると光の粒子になって消えます。アイテム欄には1と増えてます。これくらいなら問題なさそうですね。問題は一気に入手した場合でしょうか。
頑張って一気に採ってみます。特に処理落ちする様子もなさそう。
「これって早い者勝ちだったりするの?」
「いえ。1つの木に対してプレイヤー毎に入手上限が設定されてますね」
せっかくのイベントが早い者勝ちだなんて過疎まっしぐら……。
「そっかー。前に私がしてたのはそういうの多かったよ。先着順とかランキング報酬とか」
ゲームに疲れたって言ってましたけど上位をキープしてたのでしょうか。
「今の所そういうのは実装されないと思いますよ。プレイヤー間に格差が起きないように配慮はしてるつもりです」
「そうは言うけど結局イベントだから出遅れた人とは格差あるんじゃない?」
それはどのゲームに対しても言えると思いますが。
「聞いた噂ですと再来月辺りに新規で始めた方はログインボーナスで宝石獣を貰えるみたいなのは言ってましたね」
序盤さえサクサク進めればある程度はどうにかなるでしょう。
「リリース初期からプレイしてるのについに出遅れ組にも負けるのか、私……」
「前に宝石獣捕まえてたじゃないですか」
わけのわからないことを言ってた気もしますけど、テイムしたモンスターはボックスに保管もできます。それでいつでも入れ替えもできたはず。
「逃がしたのよ……」
「限定モンスターに何してるんですか……」
愚行がすぎる……。