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117.わざと負けるのは絶対嫌

 ボス部屋



 魔王城ダンジョン最奥、玉座の間。人が通るにはあまりに大きな階段と赤い絨毯の道。そして玉座もまた人の物とは思えないほど大きく、巨人用かと思う程のサイズ。


「フユユさん、やってくれたんですね」


「もち。私がミゥを見捨てるなんてありえない」


 残るはボス……なんですがどうにもおかしい。本来であれば玉座に魔王が座っているはずなのに姿がありません。けれど玉座はまるでテクスチャバグが起きたみたいに黒い線が入り乱れています。雑魚敵がバグっていたので、当然ボスもバグが発生していてもおかしくないですか……。


 姿を映し出すも巨大な角、深紅の眼、巨大な剣、黒く歪んだ体がそれぞれ辛うじて見える。それもほとんどが不完全。


「よ……ピィガガガ……我……ギギ……滅……ぴー」


 台詞を発しているもののバグのせいで雑音に全て消されています。しかも本来の音声と違って妙に機械音が混じってもはや不協和音。これはもはや魔王ではない、エラーコードと呼びましょう。


「フユユさん、必ず勝ちましょう」


「いつも通りね」


 魔王エラーコード戦、開始。


 まずは魔法。私は相変わらずマジックアローしか使えません。それでもダメージは入るはず。それに敵の注意を引ける。今の私でもできることはあるはず。


『[INFO] ATTACK_TYPE: MAGIC』

『[ACTION] DEFENSE_MODE: ACTIVATED』

『[SYSTEM] RESPONSE: invincibleMode = true; // 無敵モード許可』


 くっ……こいつもシステム干渉ができるタイプか……。フユユさんも魔法を放ちますがHPゲージすら表示されません。完全無敵状態。魔王は本来、プレイヤーのレベルに応じて強さが変わるボスです。おそらく、私がデバッガーの権限を持っているせいで異常な強さ補正を得てしまったのでしょう。なんてこった……。


 そして当然絨毯の上に謎の衝撃波のエフェクト。一瞬、大剣が見えたので攻撃してきたのでしょうか。モーションも見えないので難易度がおかしすぎる……。


 すぐに後ろへ下がるとフユユさんがヒールをしてくれました。


「これはまずいですね。勝ち目あるのでしょうか……?」


「ある」


 フユユさんが宝石獣を抱えて果敢にも走っていきます。その後ろに監視者がついて行きます。


『[SYSTEM OVERRIDE] invincibility = false; //無敵解除』


 監視者のシステム干渉で魔王の無敵は無効にされる。そして宝石獣のビームとマジックバレットで応戦して、魔王のHPゲージが動いた。けれどHPがじわじわ回復されています。元々魔王はリジェネを持ったボス。長期戦は不利。なのに私のレベルをチェックされて高ステータスで否応なく長期戦。


 ……嘆いても仕方ないですね。私も戦う。マジックアロー!


『[ERROR] ACTION_DENIED: "Magic Arrow" → REJECTED』


 エラーコードばかり! 卑怯だと思わないんですか!

 とにかく愚痴を吐く前に考えなくては。この状況、監視者だけは絶対に失ってはいけない。私がシステムに干渉できない以上、監視者の死は実質の敗北。


『[SYSTEM] EXECUTE: deleteTarget("WATCHER"); //監視者デリート』


 ログが出現したと同時に監視者が一瞬にして消滅……。


 そんなの反則じゃないですか。それはデバッガーの権限ですよ。なぜボスのあなたが使う。


 そして魔王エラーコードは突如周囲を暗くさせ城の天井を崩壊させた。頭上から落雷が発生し、さらに敵の分身が複数。HPを削り切れていないのに第二形態移行……。


『[SYSTEM] OVERRIDE_STATUS: InProgress→ Repairing system integrity... //システム修復』


 終わった……。無敵コードを再付与されたのでしょう。事実、フユユさんの攻撃を受けておらず、リジェネでHPは最大に。そして複数の魔王。もう勝ち目はありません。

 残された希望は死亡してオアシスへ送還されるのを願うだけでしょうか。


 なのに、フユユさんはダメージが通っていないのに戦い続けています。


「何してるんですか。もう詰みましたよ」


「詰んでないよ」


「監視者がいなくなった以上、システム干渉も無理です。どう足掻いても負けです」


「負けじゃない。ミゥがいる」


 私……?


「無理ですよ。デバッグメニューはダンジョンに入った瞬間に凍結されて動かせません」


「でも動くかもしれない」


「そんなの……ほぼ無理ですよ」


「ほぼってことはゼロじゃないんだね。だったらまだ勝てるチャンスはあるよ」


 フユユさんがニコッと笑います。こんな絶望的な状況でもまだ諦めていないんですか。本気で勝てると思っているんですか。


 ……いいや、いつだってこの子はゲームに対して本気だった。私はまた勝手に諦めようとしてた。勝てないって投げ出そうとしてた。子供の頃プレイしてたRPGのように。


 目を覚ませ、雨宮海羽! あの子が戦ってるのに恋人の私が先に諦めてどうする!

 負けるなら全力を尽くして負けろ!


「私はメニューを操作し続けます。フユユさんは敵の注意を!」


「まかせてっ!」


 ありがとう、フユユさん。私はまたゲームの熱を忘れる所でした。


 さぁ、やるぞ。とはいっても相変わらず画面は反応がない。けれどダンジョンに入った時、凍結処理が行われた。この場合、再び動く可能性はゼロじゃない。本当にまずいのはデリートや上書き、FALSEの反応を起こされた時。だったら一瞬でも動けばこのボスを処理できるはず……。


 いつ動くのか、数分後、数時間先か、それすらも分からない。分からなくてもあの子が戦うなら諦めてはいけない。


 フユユさんを見たら魔王エラーコードに完全に包囲されてます。おまけに空からの落雷。

 早く動いて……!


 魔王が大剣を掲げたモーションが見えた。だめ……!


 その瞬間、前方がピカッと光った。何が起こったのかはすぐ分かった。宝石獣のフラッシュ! エラーコードとはいえスタンにはなるようで数秒停止。


 今の内にって言いたいのにまだ動かない……。早く、早く……!


「焦らなくていいよ。私は負けない」


 フユユさんが手を掲げます。あれは光上級魔法『ジャッジメント』

 光の支柱を無数に呼び出して攻撃する広範囲魔法。光弱点の魔王には弱点となりますが無敵で……いや、弱点による怯みでエラーコードがさらに動きが鈍っている。


 デバッグメニューはまだ動かないの!


 まずい、フユユさんが魔法硬直で動けなくなってる。


「早く動けって言ってんだよ!」


『[SYSTEM] FREEZE_STATE: LIFTED;

 Triggered by: time Elapsed Condition = true; //凍結一時解除』


 動いた……! 魔王が大剣を構えてる。急げ、急げ! コード入力した方が早い!


『[FINAL_COMMAND] enemy.allDelete();』


 無機質な音声と共に特に派手な演出もなく、エラーコードは全て消滅します。最後に魔王は不気味な声を発していましたが、あれもまたバグの弊害なのでしょうか。


 ともあれ……。


「ミゥ!」


 フユユさんが駆け寄って来ました。そして胸に飛び込んできます。


「やったね」


「はい。フユユさんのおかげです」


「そんなことないよ。ミゥがいたから勝てた」


「いいえ。あの時、私は本気で諦めようとしていました。けれどフユユさんがいたから、再び戦う気力が戻ったんです」


「ミゥ……」


「あなたに追いついたと思いましたけど、私はやっぱりまだまだです。あなたは私にとって憧れですから」


「そっか……そっかぁ」


 フユユさんが安堵するように声を漏らしています。一朝一夕であなたに追いつくなんて土台、無理な話だったんです。


 だから。


「この勝利はフユユさんが引き寄せたものです。おめでとう、私の勇者様」


 そう言ったらフユユさんは恥ずかしそうに顔を赤くさせたのでした。

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