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116.ミゥはバグじゃない!

 ※魔界・安置エリア・砂漠のオアシス※



 砂漠地帯を抜けた先に小さな湖とヤシの木が生えた少しだけ緑のあるオアシスがある。魔界という荒んだ中に与えられる文字通りの天国。スライムを抱えて座りながら眺める水面は美しい。そう、綺麗です。綺麗だ……。


「ミゥー、機嫌直してー」


 だってスライム全部倒されたんだもん。ぐすん……。


「あれは事故っていうか、悪気はなかったというか」


「スライムは経験値……」


「あれは敵だった……! 倒さないと毒の霧撒かれたかも……!」


「ムーちゃんはそんなことしない……」


「ミゥが拗ねちゃった……。本当ごめん……。キスでも何でもするから機嫌直してー」


「魔界に咲く花は綺麗ですね……」


「花なんて咲いてないよ。ミゥがバグった……」


 私には見える。遠い砂漠の向こうに一輪の花が咲いています。多分……。


「仕方ない。こうなったら強制連行する」


 ちょっと、襟を掴まないで。引きずられるー。



 ※魔界・魔王城前※



 禍々しい巨大なお城。木製の大きな扉が軋みをあげて開きます。ここからは魔界のダンジョンとなる。難易度は格段にあがるでしょう。


 まずはテイムモンスターの編成。フユユさんは宝石獣は固定のようで、更に秩序の世界でテイムした仮面の黒マントの人型モンスター、監視者を同行させてます。


 私はどうしようか。さすがにここでスライムは厳しいでしょうし、リザードマンとチョコレートドラゴンにしましょう。防御と回復で堅実な活躍が見込めるはずです。


「ガチパかな?」


 さすがに魔界ダンジョンは遊べる余裕はないでしょう。宝石獣以外は禍々しい面子ですが、フユユさんがいるので実質均衡。


 さて。扉をくぐってお城内部へ。


 城の中は灰色の石造りで出来た壁で覆われ、紫色の火が灯った蝋燭が壁にかけられ、天井には鉄の扉があって……宙に階段が浮いてて……、んん?


「わお。さすがはダンジョンだね。不思議な構造」


 魔界ダンジョンはAIによる自動生成が行われ、入る度に若干構造が変わる作りになっています。けれど、それでも天井に扉があったり、階段が浮いたりなんて無茶な構造にはならないはず。そういえば、前にミネがダンジョンに入る扉が開かないとバグがあると報告してきましたね。でもあれからは何も言って来なかった。おかしい。


「フユユさん、少々お待ちを。確認します」


 デバッグメニューを開いて……。


『ERROR 0xDEADBEEF』

『ACCESS DENIED』

『ERROR SOUND NOT FOUND』

『ERROR Tamed Monster NOT FOUND』


 何が起こってる? エラーメッセージばかり表示されます。しかも急に無音になった?

 さらに私のテイムモンスターだけが急に消失します。


「あれ、ミゥ?」


「おかしいです。バグが発生してます」


 でも調べようにもエラーログばかり出て何もできない。


『*ACCESS_ROOT→!DENIED //凍結処理発動中…』


 画面がタップしても反応しない……。もしかして私が開発者だから生成AIが異常検知してる? 事実、フユユさんのテイムモンスターは何の被害もなさそうです。やばい、画面が動かないからログアウトもできません。さらに追い打ちするように入り口の扉も勢いよく閉まってしまいます。


「フユユさん、大変です。どうやら私が来たことでダンジョンそのものにバグが起きてます。画面も反応しません」


「えぇ? それってここから出られないってこと?」


「どうでしょうか。アバターは動かせるのでボスを倒せば脱出できるかもしれませんが……」


 死亡した場合もどうなるか分かりませんが、異常検知されている以上下手に試すわけにはいかない。それにフユユさんもこのまま出られなくなる可能性がある。


「どうやら本気で攻略しないとまずそうです」


「デスゲームの始まりってわけだ。面白くなってきたじゃん」


 この状況を楽しめるってあなたがいてくれて本当によかった。正直、今も不安しかない。でも進むしかない。


 城内部は迷路のような構造になっているようです。しかし、やはりバグ塗れで変な所に蝋燭が浮かんでいたり、壁からヤシの木が生えてたりと見た目がめちゃくちゃです。


 そして角からモンスターが歩いて来て……。なんですかあれは……。

 グラフィックがめちゃくちゃで上半身は半透明になって、モデリングの線だけが残って、しかも手足がくっついておらず変な所で動いています。正直気持ち悪い……。


「バグだバグー! 楽しいー!」


 頭が痛くなってる私とは裏腹にフユユさんのテンションが上がってます。まぁ初見でこんなバグと遭遇したら一部の人は喜ぶのでしょうか……。


 体が半透明になってるせいで敵の動きが読みづらい。ここは先手必勝。魔法を……。


 ダメだ、またエラーが表示されて発動できない。適当に試していく。


『ERROR MAGIC NOT FOUND』

『ERROR MAGIC NOT FOUND』

『ERROR MAGIC NOT FOUND』

『ERROR MAGIC NOT FOUND』


『マジックアロー』


 どうやらマジックアローは初期魔法なので使えるようです。ここまで制限されるなんてひどい話ですよ。


 でもフユユさんは宝石獣と監視者と連携して敵を撃破してます。どちらも光線で遠距離対応できるので今となっては良い選択です。


 角を過ぎると宙に浮かぶ扉があります。他に道がないのでここを開ける必要があるのでしょう。フユユさんがジャンプして開けてくれました。


 その中は牢屋みたいな所に繋がっていました。どうして地下牢の中に繋がるかはよく分かりませんが進むほかなさそうです。フユユさんが牢屋から出ると急に鉄格子の扉がバタンと閉まる。


 そして天井がどんどん下がって来ています。いやいや、どれだけ私を排除したいんですか。


「ミゥ!」


 鉄の扉を揺らすもびくともしない……。このままでは死ぬ……。

 するとフユユさんの隣に立っていた監視者の仮面の目が赤く光ります。


『doorAccess(‘rock’) = UNDEFINED //強制解除』


 すると扉が軽くなって開きます。フユユさんの手に引っ張られてギリギリ脱出成功しました。そうか、監視者もまたシステム干渉のモンスターだから解除できるんだ……。本当に助かった……。


 けれど安堵してる暇もなく、今度は床のテクスチャが広がっていきます。フユユさんの手が離されてしまう。自動生成で無理矢理離す算段!? どこまで私を、いいえ私達を拒絶するんですか……!


 スキル『ハイランナー』!


『ERROR SKILL NOT FOUND』


 ダメか。スキルも当たり前のように封印されてる。


「ミゥッ……!」


 フユユさんが走って戻って来る。


「ダメです。これは罠です……!」


「ミゥを置いていけない……!」


 もし、私が逆の立場でもきっとそう言う。けれど今必要なのは可能性。このままだとお互い破滅してしまう。


「フユユさん。ボス部屋の魔法陣を見つけてください。あなたがそこに入れば、私も転送されるはずです」


 私はあくまでパーティの一員。だったらいち早くそれを見つけてくれたらこの状況を脱出できるはず。


 フユユさんが黙って私を見つめて来る。ここで私を置いて行くという選択は酷かもしれない。私だってきっとできない。それでも……。


「行ってください。あなたを、信じます」


 するとフユユさんは何も言わず背中を向けて走り出します。


 それでいい。


 さて。空間がどんどん広がっています。最早歩くだけ無意味でしょう。

 画面は相変わらず応答なし。このダンジョン、新マップとして実装されて昔デバッグしたはずなのにあの時もっとちゃんとデバッグしていればな……。


 あの時バグが起きなかったのはAIの精度か、それとも私が1人だったからか。どちらにせよ、今はあの子に託そう。


 1分も経過すれば石の床が広がるだけの空間になっていた。前を歩くも歩いた感覚がない。完全に封鎖された。


 それから少しして私の体が光り輝く。


「やはりあなたに追いつくのはまだまだ先のようですね」


 このまま難なくボスを撃破できればいいですが……。

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