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115.私の存在意義……

 ──魔界



 一面が砂漠化していてリアルに虚無感を漂わせてきます。しかも地底にあるせいか仄暗く、わずかに吹く風が枯草を転がしている。ここに来ると何より目を引くのが……。


「でかっ……!」


 フユユさんが驚いて声をあげます。遠くで巨大なミミズのようなモンスターが顔を出して、そのまま地中へと潜っています。全長何十メートルとあるその大きさは魔界に来たプレイヤーの心を折りに来てます。マップのギミックのサンドワームがフィールドを徘徊しているのが特徴です。


「行きましょう」


 のんびりしていたらサンドワームに食べられます。そうなれば当然即死。フェンリルを走らせて突撃。砂漠というだけあってフィールドも広く、移動系のテイムモンスターはほぼ必須。徒歩だとサンドワームから逃げるのはほぼ不可能でしょう。


「あいつって倒せるのかな?」


「戦うんですか?」


「HP次第」


 丁度サンドワームが再び顔を出しています。まだ距離がありますがフユユさんが宝石獣を掲げました。すると額からビームを発射して見事に命中。HPゲージがほんのわずかに動いた気がします。敵も気付いたようで地中に潜ってしまいました。フユユさんは尾を狙ってマジックバレットで攻撃しますがやはり雀の涙。


「ちょっとレベル足りないかなー」


「撤退が賢明ですね」


 地中にも潜るのでまともに相手すれば非常に時間がかかります。サンドワームが近くに接近してきたのか、地響きを轟かせていました。地面も揺れてフェンリルも若干バランスを崩しそうになるので落とされないように毛を掴んでおこう。


 地面がボコボコと砂埃が舞い上がって、敵の顔が飛び出した……!


 フェンリルが辛うじてステップしてくれたので回避。サンドワームは丸のみ攻撃をしようとしてますが、騎乗してるこちらの方が早い。また地中へ潜ってしまいます。


 そしてここで異常気象発生。砂嵐です。


 視界が砂で覆われて風の影響も酷い。フェンリルも足を奪われて動きが鈍っています。ですがこちらの事情などお構いなしに地中からの奇襲が迫ってます。


 フユユさんが狙われてる、まずい……。


「前に跳んで……!」


 フユユさんの指示で彼女のフェンリルはジャンプしますが、一瞬足が砂に奪われたのか反応が鈍った。同時にサンドワームが地面から口を開けて出てきます。


 その時、フェンリルの後ろ脚と尻尾が引っかかってしまう……!


「えっ、嘘……」


 サンドワームの攻撃力がすさまじかったようで一瞬でフェンリルが消滅。フユユさんの体が空中へと投げ出されます。反射的に手を伸ばすが、何も掴めない。このままだとフユユさんが……。


 ふと、スライムを見たら何やらキラキラ光っています。これは?

 よく観察すると砂嵐を吸収しています。まさかのレベル補正の特技……?


 そうか、だから私のフェンリルはそこまで動きが鈍っていないんだ。だったら……。


 風魔法『ウィンドマジック』


 フユユさんの進行方向に向かって放つ。一瞬だけ砂嵐を相殺。そしてスライムを投げる。

 砂嵐を掃除機の如く吸収してます。


「あっちへ!」


 フェンリルが方向転換してステップを踏みます。


「フユユさん、手を!」


 差し出された手を受け取ってフェンリルの背中へ乗せました。スライムはフェンリルが咥えてキャッチしてくれます。よし、これで一先ず安全。


「スライムを連れて来て大正解でしたね」


「……うん」


 そのままサンドワームから逃げるようにフェンリルが走り続けます。砂嵐が酷いですがスライムを掲げていれば相殺可能。こんな使い道があったなんて……。


 フェンリルの速度が落ちなければ逃げるのは容易。そのまま振り切れました。同時に砂嵐も止んで最初の難所を突破したようです。


「ミゥさ、本当にうまくなったよね」


「急になんですか?」


「別に……」


 妙に引っかかる言い方ですがフユユさんは周囲を警戒していて目を合わせてくれません。

 しかし、急にフェンリルの足が止まってしまいます。しかもなんだかごつごつした感触がして、これは石化してる……!


 前方を見るとそこには一見何の変哲もない鶏の群れがウロウロしています。あれはコカトリス。石化付与持ちのモンスターです。本来はもっと化物染みてますが何故かリアル風な鶏にされたようです。テクテクとこちらに接近しています。


 ともかく倒さないと。フェンリルから下りると、フユユさんは敵陣へとジャンプしました。なるほど、空中から魔法で倒す算段ですね。


 ……が、鶏さんが飛び上がったせいでフユユさんの動きが止まってしまいます。石化して地面に落下……。この子がそんなミスするなんて、いやともかく敵を倒さないと。石化は時間経過で解除されます。


 けれど奥には歩くサボテンもやって来てました。石化したフユユさんが攻撃されると終わり……。こうなったら一か八か。


 手元のスライムを鶏さんの群れへと投げます。視線がスライムに集中します。今だ! 魔法を!


 炎上級魔法「エクスプロード」!


 スライムを中心にして大爆発を発生させます。さらに宝石獣が額の宝石をピカッと輝かせてくれます。レベル補正特技のフラッシュ! 周囲の敵を数秒間動きを止めてくれます。


 続けて「エクスプロード」!


 砂埃が舞い上がる中、静寂が訪れます。宝石獣が反応していないあたり……、視界が晴れると敵は全滅していました。スライムも無事。というか石化してませんね。まさか状態耐性まであるんですか? ムーちゃん有能……。


 フユユさんも石化が解けたようでゆっくり起き上がってました。


「らしくないですね」


 いつものフユユさんならこんな失態はしないと思いました。


「……ごめん。ちょっとミゥを試した」


「試す?」


 なぜそのような?


「ここ最近ミゥのPSすごく上がってるでしょ? 最初はホットアイスのダンジョンでもあんなに苦戦してたのに」


 そういえばあの頃から本格的に強くなろうと思いましたね。


「ナツキとのPVPにも勝つし、さっきだって。だからちょっと思ったんだ。もう私がいなくてもいいんじゃないかって」


「何を馬鹿なこと言ってるんですか。一緒に行くって約束でしょう?」


「……分かってる。本当はね、頼られなくなるのがちょっと寂しかった。前までは一杯助けてたのに、最近は助けられることの方が多くて。リアルだって。そんな自分が不甲斐ないなって」


 この子にとってはゲームこそが唯一の取柄だった。その取柄さえも追いついてしまったから、私は無意識に彼女を追い詰めてしまったのでしょうか。私はただあなたに追いつきたくて、隣に立ちたかっただけだったのに。


「ミゥが隣に立ってくれるのは嬉しいって思う反面、ちょっと寂しいなって思っただけ。本当ごめん。もう切り替えるから」


 その言葉がどこか弱弱しく感じた。いつもと違う気がした。

 気付いたらフユユさんを抱きしめてました。


「ごめんなさい。あなたを追い詰めるつもりなんてなかったんです。ただ一緒にいたかった」


「……知ってるよ。ミゥは頑張ってたもんね」


「フユユさんがいたから私は強くなれたんです。あなたがいなければ、私はゲームをやりこもうなんて思いもしませんでした」


「……それは私も同じ。ミゥがいたから勉強も仕事も頑張れた」


 荒廃した砂漠の真ん中で私達は抱きしめ合ってました。

 この先、どちらかが変わっていくのかもしれない。考えだって変わるかもしれない。


 それでもこの気持ちだけは嘘じゃないって信じたい。


 ゆっくりと目を合わせながら体を離します。何か言おうと思いましたが、言葉が出なかった。


「よし。攻略の続き行こ」


「はい」


 フユユさんは気持ちが晴れたみたいで先を歩いて行きます。どんなに寄り添っても心の奥底までは見えない。あなたは今、何を考えているのでしょうか?


 フェンリルと仲良く歩いて先へ進むと紫色の瘴気が漂い始めます。悪天候、呪い。HPとSPが徐々に減る厄介な場所。でも砂嵐を飲み込めるならばスライムで……。


 掲げて見るとスライムが吸引力を発揮して瘴気を吸い込んでます。なんて頼もしい。


「スライム、いいかもしれないですね」


「ミゥと言えばスライムだよね」


 プレイヤーからもスライムのお姉さん呼ばわりされてますからね……。


 そして瘴気を進んでいると出現するのは……紫色のスライム。


「なにあれ?」


「スライムでしょう」


 そういえばこのエリアはテイムモンスターの幻影が出現する仕様だった気がします。他にも宝石獣とフェンリルも出ていますが、なぜかスライムだけが圧倒的に多い。

 当然攻撃手段もないのでふよふよ動いてるだけです。まさかスライムは魔界攻略適正Sランクだった。


「よーし。ミゥばっかり活躍してるし、ここは私の出番かな」


「ま、まってください。スライムも倒すのですか?」


 敵とはいえこんな無抵抗なスライムを倒すなんて……。

 見てください。ぴょこぴょこ跳ねててこんなに愛らしい。


「経験値一杯もらえそう」


 倒す気満々……。


「最近レベル上げ怠ってたからなー」


「黒スライムの時は渋ってたじゃないですか……!」


「私の心も成長したのだ」


 そんな……。


 その後、紫スライム達は無残に焼き払われました。悲しみ……。

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