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112.色々聞かれて困る……

 翌日


 広場に来ると制服姿のフユユさんがベンチに座ってメニュー画面を開きながら待っています。隙間時間にも勉強するほど気合が入ってるのが分かりますね。今回は私も気合を入れて男装スーツに着替えます。


「おはようございます」


「おはおは~」


 フユユさんが画面を閉じてベンチから立ち上がりました。


「今日は貴重なデバッグタイムじゃー。がんばるぞいー」


「やる気満々な所失礼ですが、無理して仕事しなくてもいいですよ? 試験が近いならそちらに注力してくれて構いませんが」


 バイトなんて試験が終わったらいつでもできますが、高認の試験をここで落とすとまた苦労が続いてします。フユユさんは首を振りました。


「仕事も勉強もゲームも全部頑張るって決めてるからそれはないねー。それに勉強ばっかりだとミゥを拝めなくてメンタルが死ぬ」


 最後の発言はともかく、最近はログアウトするのも早いですし効率よく頑張ってるみたいですからこれ以上言うのも野暮でしょうか。だったら彼女を尊重しましょう。


「分かりました。ではお願いします」


「今日はどこ行く感じ? クリスタル迷宮のダンジョンかな?」


「もしかしてお知らせ見てません?」


 教えてあげたらフユユさんが確認します。それで声をあげてました。ゲーム好きの彼女がお知らせを見ていないほどとは、余程勉強を頑張ってるそうです。


「初心者イベじゃん。まさか前の?」


「はい。以前フユユさんにお願いしたダンジョン攻略のお手伝いが想像以上に反響があったものですから、運営側としても正式にイベントにしたいそうです」


 ソロでプレイしてる人も多いので実際のプレイヤーと関われる機会でもあるので、それで楽しいと感じてくれたのでしょうか。ゲリライベント的な扱いなので頻繁にあるわけではありませんけどね。


「あれか。結構大変なんだよね。場所は?」


「水の都のダンジョンです。今回は私も行きますよ」


「え、本当?」


「はい」


 そしたらフユユさんが嬉しそうにガッツポーズをしてました。今回フユユさんが断るかもしれないと思って事前に上に伝えてあったんですよね。



 ※水の都※



 海の上に造られた大都市、水の都。ベージュやオレンジ色の建物が並んで大きな水路がある美しい街。街の奥には高い塔がありそこからダンジョンへと行けます。フユユさんと一緒に街を歩いてそこまで行きます。


 そして到着するとどうでしょうか。塔の下にいる白マンタの近くに多くのプレイヤーが集まって賑わっています。まさか告知を見て待機していた人?

 プレイヤーさんたちは私達に気付くと手を振ってくれました。


「スライムのお姉さんだ~。こんにちは~」

「フユユちゃんもいる~。かわいい~」

「ここも手伝ってもらお~」


 などなどワイワイと盛り上がっています。反響があると聞いていましたがここまでとは。

 しかも既に行列。ここから更に人が増えて来ると考えると素早くさばいていかなければ終わりませんよ。


「フユユさん、作戦変更です。別々で捌いていきましょう」


「えー。ミゥと離れないといけないの……?」


「心苦しいですがそうしなければ終わりません」


「……分かった。でも浮気しないでね」


「しませんよ。私はフユユさん一筋です」


 フユユさんと別れて早速先頭のプレイヤーの所へ行きます。2人いるので友人とのプレイしているのでしょうか。パーティ申請をして許可されると一緒に白マンタに乗りました。

 ふわふわと飛んで移動していきます。


「あ、あのう。聞きたいことあるんですけど、いいですか?」

「だめだよ。失礼だよ」


 何やらプレイヤーさんが声をかけてきました。


「なんでしょうか? 答えられる範囲であれば力になりますよ」


「じゃ、じゃあ遠慮なく……。お2人ってお付き合いしているんですか?」


 質問ってそっち? てっきり攻略関係かと思っていたのですが。


「プ、プライベートの質問は控えさせてください……」


「その反応はやっぱり……。じゃあキスとかしてます……?」


 一瞬むせ返ります。この子達は一体なにを聞こうとしてるんですか。やば、少し顔が赤くなってるかも。視線を外そう……。でもその反応が彼女達を刺激してしまったようで、キャーキャー言われてます。マンタさん、早くダンジョン連れて行って……。


 水の都のダンジョンのレインボーロードに到着します。虹でできた道で、バックには大きな滝も流れている水の都らしい綺麗なダンジョン。


「わー。綺麗―」


「落ちたら即死なので足元には気を付けてくださいね」


 中盤にして即死ギミック搭載のダンジョンなので初心者には少し厄介。しかも雑魚敵の風神は風を操るので飛ばされる危険もあります。雷神も滝の水を使って感電狙いをしてくるので私は2人がやられないようにサポートに徹しましょう。


 そんな感じでダンジョンボスの所までやってきます。虹の道の頂きに滝に囲まれた円形の場所があります。そしてクリスタルバタフライとの戦闘。私は支援魔法に徹します。


 ボスがいきなり私に水色の魔法光線を放って狙ってきました。タイミング悪く魔法硬直で動けません。でもこれくらいの攻撃なら……。


 あれ?


 なぜかHPがゼロに。あ。そういえば昨日に今日のイベントの為にレベルや能力調整したの忘れてました。呆気なく戦場から離脱して水の都へと強制送還……。恥ず……。


 しかし少ししたらさっきのプレイヤーさんも帰還してきました。笑顔を見る限り勝てたのでしょうか。


「スライムのお姉さんありがとー」

「最後わざと死亡したのって、ボスは自分達で倒してって意味だよね?」

「凝ったイベントだよね」

「ばいばい~」


 お礼を言って去ってくれました。明らかに私のミスですが好意的に解釈してくれたようです。


 塔へと向かうとそこに意外な人物がいました。


「ミネ?」


「おっ。姉さんじゃん。頑張ってるね」


 茶髪コートの我が妹が壁にもたれかかって手を挙げて挨拶してきます。


「こんなマップに来るなんて珍しいですね」


「イベント告知見て誰かさんが頑張ってるかなーって思って来てみた」


「見ての通りの状況ですよ。というか今日もゲームしてますけどまた有給ですか?」


「残念ながら今日は遅出です」


 仕事のある日というのに呑気にゲームするあなたの精神を見習いたい。


「どうせ暇だし手伝ってあげよっか?」


「今度は何を企んでいるんですか?」


「ただの姉孝行だよ」


 すごく胡散臭いですが今の状況を私とフユユさんだけで捌くのが難しいのも事実。素直に助けを借りましょうか。


「このお礼は後程します。ミネに1つお願いがあります。順番待ちしてるプレイヤーの相手をお願いできますか?」


「PVPでもしろって言うの?」


 なぜそうなるんですか。


「すぐに順番が来ないので後ろの人は退屈してると思うんですよ。あなたの話術で楽しませてあげてください」


「この借りは大きいよ?」


「変な望みでなければ聞いてあげます」


「了解。交渉成立」


 そう言ってミネが行列へと足を運んでいきます。


「ソロで攻略が難しいと思っている君達に私がアドバイスをしてあげよう。このゲーム、一見難しいように見えてシステムは超単純。フレーム回避とDPS管理さえすれば誰でもボス討伐は余裕。その為には魔法1つ1つのリキャストを意識して……」


「フレームって何? 窓?」

「DPSって英語?」

「リキャ……?」


 ミネ。初心者に専門用語を並べるのは酷ですよ。それらを意識してる人はそもそもこんなイベントに参加しません。プレイヤーたちが首を傾げ続けるのであたふたしてて何だか新鮮な光景。


 後ろから足音が聞こえて振り返るとフユユさんが戻って来ました。誰かと違って最後までお供したようです。


「フユユが戻って来た!」

「次私がいいー」

「私もフユユと行きたいー」

「制服かわいいー」

「私も守って欲しい」


 あちこちからフユユさんの信者らしき声が。私の知らない所で何が起こってるのでしょうか。そして私の背中に隠れてしまいました。


「やっぱりミゥか~」

「照れてて尊い~」

「フユユちゃ~ん」


 なんだかすごくカオスな状況です。


「ミゥ……助けて……」


「ま、まぁ。悪意はなさそうですし大丈夫ですよ」


「攻略中も視線がすごい……。一緒に来て……」


 本当は行きたいですけど、そればかりは難しいんです。


「話は聞かせてもらった。私が手伝ってやろう!」


 無駄に響く大きな声。黒髪ウルフヘアのパーカー女子、ナツキさんが立っていました。

 こちらに無造作に接近してきます。


「暇なんですか?」


「暇なわけないだろ。こんな配信向きなイベ……じゃなくて面白そうなイベを私が見逃すわけないだろ」


 完全に本音が漏れてますね。フユユさんも不服そうな顔をしてます。


 何か言おうと思いましたがナツキさんがフユユさんの手を引っ張って白マンタの方へと走ってしまいました。


「次の人、ご案内しまーす」


 強引というかリーダー気質というか。フユユさんとは真逆な性格ですが、ある意味相性がいいのかもしれません。


 さて、私も立ち止まってないで手伝いましょう。




 それでプレイヤーさんと虹の道を攻略中。順調に進んでいましたが、背後から足音を感じます。振り返るとなぜかナツキさんが立っていました。


「フユユさんの所に行ったのでは?」


「フユユは酷い奴だよ。私を嵌めて盾にしまくるんだ」


 完全にさっきの行動を根に持たれてます。


「てなわけで、ミゥチームの配信いきまーす。この最強プレイヤーはどんな攻略してくれるか見物だなー」


 そして勝手に配信する始末。フユユさんが嵌めた気持ちが分からなくもない。プレイヤーさんもちょっと困惑してますし。


 丁度いいタイミングで風神がやって来ました。風を起こして吹き飛ばそうとしてきます。通常は踏ん張っていれば早々飛ばされません。


「見ておけよ。おまえらの大好きなミゥ様の戦いだぞ」


 映す気満々ですね。だったらこうしてやりましょう。


 風魔法『ウィンドマジック』


 風の衝撃波を飛ばして、風神ではなくナツキさんの方へ。敵が突風を起こしてるのでエフェクト的にも気付きにくい。そして相乗効果で……。


「えっ? なにこれ。ちょっ、落ちるんだけど……。はあぁぁぁぁ!?」


 飛ばされて落下しながら叫んでますが無視。風神を適当に倒します。


「こういう風に油断していると死亡してしまいますので皆さんは気を付けてくださいね」


 プレイヤーさんから無言の拍手。そして攻略に戻ります。



 ※時間が過ぎて行く※



 ようやく人の波が落ち着いてきました。ミネは仕事でログアウトして、ナツキさんも悪ふざけが過ぎて早々に撤退したようです。


 フユユさんが帰ってきました。


「お疲れ様です。ようやく終わりましたね」


「このイベント本当疲れるー」


 フユユさんはぐったりしています。中には一杯話しかけて来るプレイヤーもいますからね。


「休憩したら私はデバッグに戻ります。フユユさんは残った時間もここで待機お願いしますね」


「おっけー。でもミゥ、まだ介護してない人がいるよ」


 そう言われて周囲を見渡すもプレイヤーはいません。首を傾げてしまいますがすぐに答えが分かります。フユユさんに手を引っ張られました。


「私も案内よろしく。せーんせ?」


「手の焼く生徒ですね。全く……」


 白マンタに乗るとふわふわとダンジョンまで案内してくれました。


 敵もボスも相手にはなりません。ほぼ手を繋いで歩いているだけ。でもそれが私にとって何よりの休憩になる。何度も来たはずなのに虹の頂が新鮮に感じられた。


 イベントはいつか終わる。でも私達のイベントはきっといつまでも終わらないのでしょう。

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