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109.秩序なんて知らなーい

 ※秩序の世界・安息の狭間※



 安置エリアまでそこは整然とベンチをいくつも並べられた何とも無機質な場所となっています。左右対称にベンチだけが置かれていて、こんなにも必要ないだろうと思わず考えてしまいます。また、ここは他のマップと違って商人やアイテムを買える場所が存在しません。もはや秩序ではなく無秩序に思えるマップ。


 フユユさんは監視者をボックスに戻して思案しています。


「次はダンジョンだから難しいだろうね。テイムモンスターどうする?」


 気兼ねなく聞いてきます。でもそんなことより、私は……。


「フユユさん……約束……」


 もうこれ以上我慢できそうにない。これだけお預けされては私の理性もいよいよ外れそうです。フユユさんを抱き寄せます。


「ミゥってそれ……好きだよね……」


「ダメですか……?」


「いいよ……」


 目を合わせると頭の中はこの子でいっぱいになる。もう何も考えられない。

 フユユさんの唇を奪う。


「……んん……ミ……ゥ……」


「……は……ふ……ゆゆ……さ……」


 思考ができない。意識ができない。頭の中が真っ白になる。

 ただ、目の前の事実だけを受け入れ続けた。


 フユユさんが微かに肩を強く握ってくる。私も彼女の背中に腕を回した。


 甘く……甘く……甘い……。


 刺激も何もない。味覚だって与えられてない。なのに頭の中がとろけてしまいそうな感覚になる。フユユさんの微かな声を聞くだけで私の中の理性はそれで一杯になる。


 …………。


 どれくらい時間が経ったかも分からない。けれど私にとってはすごく短く感じられた。


 触れた唇をそっと離す。


 フユユさんと目を合わせる。なんとも言えない空気が、この秩序を無秩序にしてしまう。私達の愛は誰にも裁けないし、邪魔はさせない。


「攻略、行きますか……?」


「もう少し、このまま……」


 あなたが望むならいつまでも。



 ※秩序の世界・ダンジョン・感情の裁定※



『秩序コード:感情生命の検知。直ちに審判を決行。プログラミングコード変更。

 HP→ソウルゲージへ変更。精神こそが秩序の証。

 感情パラメータの追加→不安定な魂は秩序には不要。

 ──汝、秩序を受け入れよ』


 無機質な白い箱庭へと来るとメニュー画面が勝手に開きます。同時に連れようと思っていたテイムモンスターも強制送還されます。ダンジョンもさっきまでと同様にソロとパーティで難易度が異なりますが、仕様は同じです。


 ソウルゲージは名前の通り、精神を意味しておりダメージを受けたりすると減ってゼロになると死亡扱いになります。HPとの違いは戦闘以外でも変動し、不安や恐怖を感じると減ってしまいます。


 感情パラメータは【好意】【不安】【安心】【恐怖】【正気】と表示されています。ソロなら自分の分が表示されますが、パーティだとどうやら別の人が表示されるようです。

 私の画面にフユユさんの感情パラメータが……。


 フユユの感情

 【好意99.9%】【不安15.1%】【安心80.5%】【恐怖5.0%】【正気19.8%】


 などと表示されてます。好意が異常値すぎる……。嬉しい……。地味に正気の値が低いのが気になります。今もじわじわ下がっていますが。


 VRとはいえここまで測定できるとは恐れ入りますね。多分、会話ログなどを拾って検出したり、思考検知したりしているのでしょうか。私の感情はどう表示されてるのでしょうか……。気になりますけど恥ずかしいですね、これ……。


 フユユさんをチラッと見ると顔が真っ赤です。


「ミゥ……好意高すぎ……」


「フユユさんだって、すごく高いですよ……」


 なんだこの羞恥プレイは……。秩序の世界恐ろしい……。


 ともかく先へ進みます。


 美しい漆黒の翼を持った天使の女性が宙をふわふわと漂っています。目を瞑っていて手には丸い手鏡を持っています。


『汝よ、汝。好意は偽物。与えられた感情。それらは虚実。本音は不信』


 機械的なノイズが妙に耳に纏わりつきます。同時にフユユさんの不安の数値が上昇しています。これは敵の仕業なので実際の感情とは異なっていたはず。


「ミゥの好意は偽物じゃない……!」


 魔法を唱えるも不発。不安値が高くなると魔法も発動しなくなる仕様です。


『ほら、偽物。不信こそが本心。あなたの心は恐怖』


 煽るように堕天使さんが言葉を重ねます。このダンジョンは物理的な強さではなく精神を試して来る敵が多いんですよね。HPもソウルゲージに変わっているので下手をすれば雑魚すらも強敵です。


 するとフユユさんは堕天使さんに殴りかかってます。ぼこぼこにしてます。撃破。


「魔法が使えないなら、殴ればいい」


 脳筋過ぎる……。


 おかげでフユユさんの感情も安定しました。


「ミゥっ!? 恐怖の数値上昇してる。大丈夫……?」


「大丈夫です」


 堕天使を殴りにいったあなたの行動に恐怖したんです。


 しかもソウルも減っています。なんという無慈悲なシステム。


 先へ進んでいるとメニュー画面が強制的に開きます。


『フユユはあなたに高い好意を示している。一方、心の奥であなたを信じ切れていない。フユユの不安はあなたの心の隠し事を気にしている。正気が低いのはそれが原因である』


 煽りメッセージでしょうか。私にはこんなもの通用しませんよ。だって、何を言われようとフユユさんがいたからミネと和解できたのだから。こんな上っ面だけの煽りに恐れるほど、安い関係ではありません。


「面白いマップだね。ナツキとだったらヤバかったかも……」


 フユユさんは笑いながら話してます。正気も不安も安定しています。

 この子もまた成長した側。こんな見せかけの不安になんの意味もありません。


 フユユさんの手を握りました。


「私はフユユさんを信じてますよ。他人の言葉ではなく、あなたの言葉を信じています」


 フユユさんの安心の値が上限値に達しています。逆に正気がどんどん下がってしまいましたが。


「私も今ここにいられるのミゥのおかげだから、こんな偽物の言葉なんて信じない」


 本来なら難しいダンジョンなのでしょう。理不尽な仕様かもしれない。

 けれど私達にとったら簡単すぎるくらいでしたね。むしろ気持ちを再確認しただけ。


 先へ進もう。

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