104.言葉って届くんだ
どれくらい鉄骨を上ったでしょうか。スカイツリーを軽く超えてもまだ上へと登れる。でもここから見える摩天楼都市の夜景はとても優雅です。小さく映る高層建物がポツポツと光を灯して幻想的。ただゆっくり景色を堪能する時間はなさそうです。
突然、風が荒れ始めました。同時に鉄骨に人型の立体ホログラムの敵が出現します。
フユユさんとナツキさんは開幕一番に魔法を放ちますがそれらは敵をすり抜けて後ろの鉄骨に命中。
「無敵……」
ホログラムは鉄骨を飛び降りて剣を振り回します。こちらの攻撃は命中しませんが当然敵の攻撃は当たる。
「面倒だ。相手してられるか」
ナツキさんがハイジャンプで先行して逃げるも更にホログラムの敵が出現。ボス戦はもう始まっています。
「ギミック系のボスかな」
フユユさんは周囲を見回していますが特段何かあるわけでもありません。ともかく、私も落下しないように気を付けないと。
「くっそ。こんなのどうやって倒すんだよ」
ナツキさんが戻ってきましたが、当然敵も来る。さらに敵は増えて3体目。さすがに分が悪い。
「このまま固まって戦うのは得策じゃない。分散すべきだ」
「私も言おうとしてた」
ナツキさんは上へ移動して敵を惹き付けます。
「ミゥは私と一緒に来る……?」
さっき分散させると言ったのでは?
「フユユさんも先行していいですよ。後で追いつきます」
「ミゥのそばにいないと落ちたら助けられない」
「大丈夫です。今回は本気を出します」
ここで私が足を引っ張れば目的が達成できなくなる。
「分かった。じゃあ行くね?」
「フユユさん。何も心配しなくていいですよ」
「ミゥって本当……。行ってくるね」
フユユさんが笑って先へ行きました。釣られてホログラムの敵も上へ飛びます。
さて、私の目の前にも敵がいます。とはいえ、私は攻略法を知っているので本当に問題ないんですよね。
今回ばかりはPSというよりはギミック理解が大きい。敵が接近してくるのでタイミングを合わせてダッシュ。すると敵をすり抜けて奥へ行けます。魔法が当たらないなら本体にも当たり判定はありません。あくまで攻撃のダメージ判定のみ。
これを繰り返すだけでいい。上で騒がしくしていますがこっちはのんびり戦いましょう。
それからある程度時間が経過します。するとホログラムが突如消失しました。よし、急いで上って合流しましょう。
すると空中に機械の巨大目玉ドローンが浮遊して降りてきました。本体登場、そしてここのボスでもあるビッグAIです。さっきのホログラムもこいつが出していて、時間経過でボスが出現する仕様です。つまりさっきのは実質第一形態というわけです。
本体が登場したことでフユユさんとナツキさんが魔法で攻撃しますが、目玉AIは俊敏な動きで回避します。魔法に対して予測回避するモーションがあります。
更に目が光ると鉄骨の足場を消滅させています。とはいえあの2人は難なく着地してますが。
「名案がある」
「私も思いついた」
何やら2人が言ってます。策があるならお手並み拝見といきましょう。
支援魔法『ブレイブハート』
2人を強化状態にします。即座にナツキさんはマジックアローで攻撃しました。当然回避されますが……。なるほど、回避した後を狙ってフユユさんがシューティングスターで星を落として命中させてます。
何も言わずに連携できるの地味にすごいですね。
目玉AIも諦めていません。さっきの無敵ホログラムを出現させ、さらに浮遊ドローンを呼んで銃撃もしています。
ここは支援を。天候魔法『恵みの雨』
雨を降らせてリジェネ付与。SPが消費し続けるので長くはもちませんが、あの2人ならば。
雨を利用して雷魔法で感電狙い。ドローンと本体を別々に狙って攻撃など見事な連携です。ナツキさんがギルドに戻って欲しいと懇願するのも納得ですね。
「これで終わりだ!」
ナツキさんは雷の上級魔法『サンダーボルト』を唱えました。
フユユさんがマジックアローで誘導し、ディレイ誘発からの落雷直撃。
お見事。
このボスは厄介な動きが多く本体も小さいのでHPが低いんですよね。PSの高い2人の敵ではありませんでしたか。
ただ、問題はあります。
目玉AIは突如頭上のセンサーを赤く光らせて震えています。それが何を意味するのか直感してかフユユさんが飛び降りて来ました。
「あれ、絶対自爆するでしょ」
「ですね」
最後の悪あがきで大爆発してきます。しかもそれで死ぬとやり直しというおまけ付き。フユユさんが気付いたならナツキさんも……。
……おかしいですね。ナツキさん、一歩も動いていません。いや、これは。
「魔法硬直……!」
ナツキさんは先程上級魔法を使いました。そのせいで少しの間動けません。あれでは動けるようになっても爆風に巻き込まれる。
フユユさんは迷わずにハイジャンプで跳んだ。やっぱり、あなたは誰よりも真っすぐな心の持ち主ですよ。
その期待に私も応えます。
支援魔法『スピーダー』
速度アップバフでフユユさんは俊敏に鉄骨を飛び移ってます。そしてナツキさんの手を引っ張って飛び降りましたが既に目玉AIが警告音を鳴らしてまずい状況。
まだ!
天候魔法『嵐の祈祷』!
暴風を発生させて天候を上書きします。本来は敵にダメージを与える魔法ですがこの風は飛んでる人を吹き飛ばす性質があります。こんな高所で使えば落下死の危険はある。
でも、あなたなら問題ないでしょう?
フユユさんは笑って風に身を任せました。直後、ボスが大爆発して黒い煙が風に流されます。何が起きてるか何も見えない。
けれど、煙は一瞬で晴れました。そして、鉄骨の柱を掴んでフユユさんとナツキさんもぎりぎり回避に成功したようです。グッドです。
それから私達は無人モールへと強制転送されました。
ただナツキさんは少し怪訝な顔をしています。
「なんで助けたんだよ」
フユユさんに詰め寄っています。それは喧嘩腰というよりは、攻略としての疑問でしょうか。あの場で助けに行ってもお互い犠牲になるかもしれない。そうなれば、再攻略する人が増える。特にいがみ合ってたからこそ疑問に感じたのでしょう。
「昔を思い出したんだ。ナツキがPKされそうになった時、自然と手が伸びた。あの時は理由が分からなかったけど、今なら分かる。私はナツキとゲームがしたかっただけなんだって」
「あーくそ。おまえには本当敵わねーよ。フユユ、あの時は悪かった。ギルドに居場所がなくなったお前に私は何もできなかった。許してくれ」
「ううん。私も勝手に思い込んでナツキの気持ちを理解しようとしなかった。だから、ごめん」
仲良く頭を下げている様子がなんとも微笑ましいですね。これで一件落着でしょうか。
「もうギルドに戻って来いとは言わねーよ」
「気が向いたら、行くよ」
その言葉にナツキさんが一瞬驚いていましたが、すぐにニッと笑ってます。
「そか。ま、期待せずに待ってる。あんたも、ありがとな」
そう言って手を挙げてログアウトしていきました。言葉が足りずに衝突することもある。でも言葉を重ねて分かり合えることもできる。それが人間性というのでしょう。なんて、らしくないですかね。
フユユさんが私の胸に飛び込んできました。
「ミゥ、ありがとう。私、もうナツキと仲直りできないって思ってた」
「私は何もしてませんよ。フユユさんが向き合ったから気持ちが届いたんだと思います」
「でも、その舞台を作ってくれたのはミゥ。私、ミゥがいてくれて本当によかった」
その表情に曇りはありません。やっぱり、あなたには笑顔の方が似合ってます。