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103.ミゥがいるなら前に進める

 ※摩天楼都市・無人モール※



 自販機や電脳掲示板の光が仄かに空気を照らす静寂の場。ベンチに佇んでいるとコツコツと足音が反響する。視線を向けるとナツキさんが歩いてきました。


「約束通り来たぞ」


 19時の5分前。荒っぽい性格に見えますが根は真面目なのかもしれませんね。

 フユユさんはまだ来ていないようです。


「あいつ、まだ来てないのか?」


「必ず来ます」


 根拠はない。返信もなかった。でもあの子は相手を無碍にするような性格じゃない。だからこの場に絶対に来る。


 ナツキさんは何も言わず腕を組んで自販機の近くにもたれかかっています。何も喋らないので少し違和感があります。


「配信していないのですか?」


「何度も言うけど今荒れてんだよ。こんな状況で配信なんてできるかよ。それに……フユユが来たら嫌がるだろ」


 視線を外してポツリと呟く。彼女もまた繊細なのかもしれない。


 少しすると妙に静かな足音が響いた。振り返ったらそこには銀髪の少女が立っていました。


「フユユさん」


 フユユさんは気まずそうな顔をしてナツキさんに目を向けますがすぐに視線を外します。それはナツキさんも同じでした。お互い沈黙しています。


 ここからは私の仕事ですか。気合入れましょう。


「今回は3人でダンジョンを攻略しましょうか。おそらく罠も多いのでテイムモンスターも連れない方がいいでしょう」


 それっぽい論を提案します。無論、テイムモンスターを連れた方が楽です。ですが今回の目的はあくまで攻略は副産物。目的はフユユさんとナツキさんの和解。だから2人の間にモンスターが居ては邪魔になる。


 私の提案にどちらも黙って頷きます。反論がないのか、或いは喋りたくないのか。どちらにせよ、私が間に入ってどうにかしないと。


「では行きましょう」


 無人モールの先へと進むとダンジョンへと通ずる扉があるのでそこへ入ります。



 ※摩天楼都市・ダンジョン1層・電脳回廊※



 扉を抜けた先は真っ暗闇な通路となっています。奥は全く見えず足元すら見えない。ただしプレイヤーの足元だけが照らされてる仕様です。ただパーティを組んでいるとその内の1人のみが照らされる。今回は私の足元だけが照らされ、フユユさんとナツキさんの足元は真っ暗。


 私自身は支援に徹したかったのですが、これはこれでチャンスかもしれません。2人は何も言わず私の近くに来ていました。


 ゆっくり歩いていると足元の床が動いているのが分かります。床が壁の向こうへと消えては戻って来る。消えた床の下、もちろん落下死扱いとなり最初からです。


 床が戻って来ると進むと奥から敵が出現。犬型のロボット、メカドッグ。白くて可愛らしいボディですが背中にはミサイルのようなのを搭載。そして発射してきます。私はあえて気付いていない振りをして前に進みました。


 するとナツキさんとフユユさんが同時に魔法を放ち、片方はミサイルを片方は本体を攻撃するという見事な連携で撃破してくれました。


「おい。もっと早く進んでくれよ。こんなのんびり攻略は性に合わない」


「だったらナツキが勝手に行けば? 死んでも私はミゥと攻略する」


 フユユさんが私に引っ付いてナツキさんを睨んでます。心では相手を思いやってるのに本人を目の前にすると素直になれないようです。これが子供心、なんて私が言えた口ではありませんね。


 電脳回廊を無事突破し、次は2層のスモッグロード。白い霧に覆われた道路でこれまた視界が悪いです。今度は光すらも飲み込むので慎重に進まなければなりません。


 本来ならば、ね。


 さーて、敵陣に走ってやりますか。私が突如走りだしたのでフユユさんとナツキさんも驚きます。


「おまっ、何やって」


「ミゥ、待って!」


 案の定2人も付いてきます。こんな場を乱す行動は地雷プレイヤー以外ありえませんが、2人を動かすにはこうでもしないと。


 そしてここに潜むはステルスタイガーという霧に紛れてる上に視認もできない虎の敵がいます。敵が動くと一瞬だけ輪郭が見えますが霧のせいで少し離れていたらそれすらも分からない。周囲を囲まれてる可能性。


 それでも私は足を止めません。振り返るとフユユさんとナツキさんの姿が見えません。


 何やら魔法をバチバチと放ってるのだけは分かります。今の内に先へ進みます。道路脇に行くと人の半分くらいの大きさのポットが置いてあって、白い靄を出していました。ミストポットという阻害モンスター。魔法攻撃をして撃破すると霧が晴れました。


 遥か後方では2人も激闘を終えてこっちに来ます。


「急に先行するなよ! 地雷か!」


「ナツキがさっき変なこと言うから悪い」


 また2人がにらみ合ってますが私の期待通りの動きですね。どんなに口では悪く言っても、ゲームとしての腕は嘘を言えない。過去に協力した連携を忘れてはいない。だからこういう困難も即時に対応できる。


 思わず笑みが零れそうになります。


「さぁ次へ行きましょう」


 道路を進んだ先には放置された高層建築があります。鉄筋で骨組された状態で足場は不安定。これを上へと登って行かなければなりません。梯子を使って最初の足場へと到着。


 フユユさんとナツキさんは同時にハイジャンプを使って乗っています。同じ思考になったのが嫌なのかまたにらみ合ってますが。


 最初の内は足場の悪い鉄骨を上るだけですが、進んで行くとどんどん足場は悪くなっていきます。おまけにロープで固定された鉄骨に飛び移ったり、足場がぐらぐらする所があったりと容赦がありません。


 さらに上にはオートマタガールという人型の機械兵器が襲ってきます。不安定な足場をもろともせずに俊敏に飛び移ってブラスターで攻撃してきます。


 そんな敵でもフユユさんとナツキさんはうまく片方が注意を向けて、片方が撃破するという連携で倒してしまいます。やはりお上手。


「また横取り」


「知るか」


 もう2人の関係は大分戻っているのではないでしょうか。ギスギスした感じではなく、軽口を言い合える友人に思えてしまいます。


 さて、私も急ぎましょう。足場が悪いのでハイジャンプで飛び移り……。

 うわ、乗った先の足場がぐらぐらします。わー、落ちる。


 と思ったのですが咄嗟にフユユさんが手を引いてくれたので落ちずに済みました。

 そのまま抱き合う形になってしまいます。


「ミゥ、ありがと……」


 フユユさんが耳元で囁きましたが、すぐに離れました。どうやら私の目的もとっくに察していたようですね。


 残るはボス戦、この調子で突破したい所です。

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