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102.【 ナツキ 】

 昼過ぎ。時間だけが過ぎて行く。フユユさんはログアウトしたけれど、それから戻って来る様子はなかった。今日はログインしないかもしれない。


 賑やかなログイン広場なのに、なぜか寂しく感じてしまう。どうやら私は想像以上にあの子を拠り所にしていたようです。


「さてと。感傷に浸ってる場合ではありません」


 フユユさんは私を救ってくれた。なら今度は私が助ける番。デバッグメニューを開きます。そしてナツキさんの所在地を特定する。


 彼女はログインしたままでした。やはりフユユさんとひと悶着あって気まずくなってログアウトしたんですね。ならば私が行くまで。



 ※水の都・レインボーブリッジ※



 海の上にある長い橋。水の都へと通じる一本道のエリア。道中、巨大深海魚に橋を壊され、その先に隠しエリアのディープシーへと繋がる。ナツキさんはそこを攻略中だった。追わずここで待とう。あのエリアは難しいし、下手に追いかけて声をかけては邪魔をして余計反感を買ってしまう。



 風を感じながら海を眺めていました。攻略中のプレイヤーも時々いてすれ違っていきます。そんな中、私は黒い髪の少女を見つけた。彼女は私を見て驚いていました。


「あなたを待っていました」


 ナツキさんは怪訝な顔をしていましたが私の横を通り過ぎようとしました。


「フユユさんと何かあったのでしょう?」


 彼女の足が止まった。


「はっ。おまえも私を責めに来たのか?」


 自嘲気味に笑う彼女になんて声をかけるべきか。けれど口を開いたというのは心を閉ざしていない証。諦めるな。


「それは違います。私は2人を心配して動いてるだけです」


「笑わせる。お前はあいつの恋人だろ。そんな建前信じられるかよ」


「あの時、あなたはログアウトしましたね。本当なら再生数を考えてそのまま攻略することもできたはず」


 ガールズオンラインのトップ層が集まって攻略なんて早々にない。なら視聴者だってそれを喜ぶ。彼女が真に配信者であるなら、私情なんて封印して攻略を続けたはず。


「あなたはフユユさんを想ってログアウトした。違いますか?」


「ふざけんな。妄想も大概にしろ」


「だったらどうしてこんな所を攻略しているんですか?」


 中間ポイントを解放したなら摩天楼都市のダンジョンへと進める。マップクリアを増やすなら先にそちらを攻略するのがセオリーでしょう。まるでそこへ行くのを避けてるように。


「おまえには関係ない」


「いいえ、あります。フユユさんは今もログインしていない。そしてあなたにひどいことを言い過ぎたと反省しています」


「……フユユが」


「話を聞いてくれませんか?」


 ナツキさんは振り返ってこちらに来てくれました。


 言葉が届いたようです。


「で、何が聞きたい?」


「その前に配信を切って頂けませんか? 個人的な話になりそうなので」


「配信ならとっくに切ってる。今日の攻略配信のせいで荒れてるんだ」


 その言葉に覇気はありませんでした。


「フユユさんとはいつから?」


「前のゲームで知り合った。私がPKされそうなのを助けてくれたんだ。それでフユユが只者じゃないって直感してずっと付いて行ったんだ。あいつは嫌そうな顔してたけど、次第に心開いてくれてさ。けど私が悪いんだ。ギルドなんか作ったからフユユの居場所がなくなったんだ」


 そう言えば昔、フユユさんはギルドの人とは交流せずソロで活動しているのが多いと話してた気がします。まさかあの言葉にそんな意味があったとは思いもしませんでした。


「ギルマスって立場だから管理とか活動方針とか話し合わないといけないだろ? 私は、フユユを孤独へ追い詰めてたんだ」


 ナツキさんもまた、居場所をなくした側だったのでしょうか。


「あいつはギルドに来なくなったから話すのも難しくなった。だから私は……配信をして孤独を埋めた。誰かと話してないと自分の中の罪悪感に押しつぶされそうだったから」


 ただの娯楽目的と思っていましたが彼女なりの逃げ道だったのでしょうか。その瞳はどこか暗く、悲しみに暮れてるようにも思えます。


「私の行動はどうにも裏目に出るらしい。だから……あんたに頼みがある。私の代わりにフユユに謝っておいて欲しい。もうギルドに戻って来なくていいって伝えておいてくれ」


 ナツキさんはいつもの強気な口調とは反対に弱弱しく言います。けれど私にはそれが言葉通りの意味には思えない。


 だって私も同じだったから。ミネとどう接していいか分からず、自分の行動が相手を傷つけるかもしれないって思ったから。


 そんな私でも仲直りできた。そして、何よりフユユさんもナツキさんもお互い反省している。だったらきっかけさえあれば元に戻れるはずです。


「お断りします」


「そうかよ。じゃあいいさ」


「代わりに提案があります」


「なんだよ」


「摩天楼都市のダンジョンを一緒に攻略しましょう。もちろん、フユユさんと一緒に」


 ナツキさんは非常に驚いていました。


「おまえ、何言ってるんだ? 私の話を聞いてなかったのか?」


「聞きました。聞いた上で私の意見を言います。あなた達は自分の気持ちを伝え合うべきです。私が仲介して2人の仲を取り繕うのは可能です。でもそれは仮初の仲にしかなりません。真に想うなら相手に直接言うべきです」


 一度逃げ出した私が言えた口ではない。でもこのまま2人の関係が壊れたままになるのはもっと見たくない。何より、ここで離れてしまえば二度と修復できなくなるでしょう。時間の残酷さは私が一番よく知ってる。


「今日あんなことあったのに攻略って無理だろ。フユユだって来るのか?」


「無理にでも連れて行きます」


「おまえ、それでも彼女か?」


「彼女だからですよ」


 そしたらナツキさんが鼻で笑いました。けれどいつもの軽い表情をしています。


「19時に無人モールで待ってる。来るなら好きにしろ」


 それだけ言ってナツキさんは海へと飛び込みディープシーの深き世界へと姿を消した。


 やはりあなたにも心があった。その誠意に感謝します。

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