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101.どうして分かるの……

 摩天楼都市・無人モール



 攻略を進めてなんとか中間ポイントまで到着しました。廃墟となった薄暗い大型ショッピングモール。中には無数の自動販売機が置いてあってそこでアイテムを補充できます。休憩するためのベンチも相変わらず。天井はガラス張りとなっていて、夜景も堪能できるちょっと贅沢な場所。


 丁度フユユさんとナツキさんも到着したようです。やはり人数が多いと攻略も楽ですね。地上からも見えていましたが敵の半数は空を飛んでいた彼女達を狙っていました。おかげでこっちも楽ができたというものです。


「おかえりなさい。全員無事で何よりです」


「この調子でダンジョンも攻略しようか」


 ミネが言うのですが返事がない。フユユさんとナツキさんが微妙な顔をしてます。


「悪い。私ショート動画の編集するの忘れててさ。ここらで抜けるわ」


 ナツキさんが早口で言うとこちらの返答も待たずにログアウトしてしまいます。声もいつもと違ったような気がしますが……。


 フユユさんは私の方に近づいて来ます。


「仕事なら仕方ないよね。私達で攻略しよー」


 いつもの笑顔に見えた。でも何となく違和感を覚える。愛想笑いのようなどこかぎこちない雰囲気です。


「ナツキさんと何かありましたか?」


「何もないよ。ちょっとアイテム補充してくる」


 フユユさんは早足で自販機へと向かっていきます。遠くから見ても分かる。ボタンを押す手が震えてる。嫌な予感がします。


「ミネ。申し訳ありませんが……」


「分かってる。私もログアウトするよ」


 何も聞かずにミネは光の粒子となってその場から立ち去ってくれました。ありがとう。


 アイテム購入を終えたフユユさんが戻って来ますが驚いた顔をしてます。


「あれ、ミネさんは?」


「急用で仕事が入ったようです」


「そっかー」


 そう遠い距離ではないのに私達の会話が耳に入らないほどですか。


「フユユさん、少しベンチで休みませんか? ミネがハイペースな攻略をするもので疲れてしまって」


「ん。分かった」


「私もアイテムを買ってきます」


 自販機の方へと歩く。静まり返ったモールに、足音だけがコツ、コツと虚しく響く。自販機の種類は多くたこ焼きやラーメンなども取り揃えられています。多くは回復系のアイテムですが自販機というのもあって割高設定。そこまでリアルにしなくてもと思いますが高難易度故の苦しい設定でしょう。


 飲み物の自販機でコーヒーとココアを買います。ガランガランと本物の自販機みたいに缶が出て来るので取り出しました。


「フユユさん、これを」


「ココアだ。ありがと」


 缶を渡して隣に座ります。コーヒーの蓋を開けて一口飲む。ありふれた味ですが、これがいい。フユユさんの方を見ると俯いたままココアを飲んでます。


 何かあったのは知っている。でも無理に問いだしてはこの子が壊れるかもしれない。


 フユユさんのそばによって肩を寄せます。話したくなければそれでいい。でも何があっても私はあなたのそばを離れない。


「ミゥ……」


 とても静か。まるで世界に私達だけ取り残されたみたいに。


 時間だけが過ぎていく。フユユさんは缶を見つめたまま微動だにしない。


「何も、聞かないんだね……」


 この子も私が気付いているのに察しているのでしょう。


「すみません。やはりフユユさんとペアを組むべきでした」


 前にナツキさんがPVPを挑みに来た時、フユユさんに対してギルドに戻って来いと言ってました。フユユさんはナツキさんとそれなりに深い交流があったのでしょう。そして、何も言わずギルドを抜けたことも。


 この2人を一緒にするべきではなかった。ミネと遊べると浮ついてこの子の気持ちを考えてなかった。私は恋人失格です。


「ミゥは悪くない……! 私が、私が馬鹿だったの。ナツキにひどいこと言って。私が勝手に期待して、勝手に裏切られたと思って、それで、それで……!」


「それ以上言わなくていい。フユユさんはがんばりました」


 フユユさんが胸へ顔を預けてきます。彼女は泣いていた。泣きたいほど、後悔があったのでしょう。私とミネみたいに。頭をそっと撫でてあげます。


 静かな空間にフユユさんの泣き声だけが響き渡る。プレイヤーが誰もいなくてよかった。

 この子は優しすぎる故に心がもろい。だから私が守らないと。


 暫くして、フユユさんは私から離れてベンチに座り直します。


「大丈夫ですか?」


「少し、落ち着いた。ありがと、ミゥ……」


 その声は沈んでいます。


「一旦ログアウトしましょう。休んだ方がいいです」


「そうする……。でも、もう少しだけ一緒にいて……」


「あなたが望むなら、いつまでも一緒です」


 言葉を紡がず私達は夜空の夜景を眺め続けていました。

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