100.フユユ視点【 友達 】
「それでは摩天楼都市攻略はじめまーす。同行者はおまえらも知ってるあのフユユだ。今視聴してる奴は運いいぞー。今日は楽しみにしていけよな」
ナツキは配信しながら攻略してるみたい。なんか嫌な予感するなぁ。最悪は1人でも突破できるように考えておこう。
ナツキは近くのタワマンに入ろうとしてる。
「ショトカ?」
「さすがフユユ、勘がいいな。地上はあっちが制圧するだろうし、こっちは上から行こう」
こんな高い建物がいくつもあるなら自然な考えだと思う。高級そうな建物だけどエレベーターを備え付けてくれてないみたい。ご丁寧に奥に四角い螺旋階段があってそこをあがって行くんだと思う。けど上から銃弾の雨が降り注いでる。レンジャー服を着た2足歩行のカエルが銃を構えてた。
さぁ戦闘開始。
まずは水魔法『バブルガン』
泡を撃つ。でも敵を狙わず中央の空間へと飛ばす。するとナツキがすぐに雷魔法で泡を狙った。感電が発生して周囲のカエルさんにダメージ。一気に倒れる。
「横取りはよくない」
「パーティだから関係ないだろ」
すぐに私の意図を理解したあたりナツキは手慣れてるね。階段を駆け上がって敵が出て来るすばやく切り返して倒す。回避は銃を撃つ前に光るから簡単。
「おまえの腕が落ちてなくて安心したわ。コメントもすごい伸びてるぞ」
「この程度で苦戦するなんてナツキこそ腕が落ちたんじゃない?」
「言ってろー」
階段を上がった先に部屋があったから入り込む。中に隠れてたカエルさんを倒すとナツキが窓を攻撃して壊した。それで風魔法を唱えてる。やっぱりそうなるよね。
ナツキが助走を付けてハイジャンプで飛んでいく。私も続いた。
星が輝く夜景とハイライトと煌びやかな摩天楼。気分は逃げ出した怪盗。風魔法のおかげで本当に空を飛んでるみたいで向かいのビルへと近づく。タワマンから敵が狙ってたから『マジックバレット』で先に処理。
ナツキはマジックアローで窓を割って中へと転がって侵入。中の敵は倒してくれた。でも空中に飛び出したせいで周囲に敵に気付かれる。急いで奥へと走る。
それから、敵は出て来たけど大した問題じゃなかった。私1人でも問題ないけどやっぱり慣れた人がいると楽だ。まるで、あの頃のように。
階段を下りようとするナツキが急に足を止める。背中にぶつかったちゃう。
「なにかいる?」
「おまえ、やっぱり強いよな」
急になに?
「フユユ、ギルドに帰って来る気はないか? もうすぐギルド抗争イベントがあるんだ」
このゲームじゃなくて前にしてたゲーム? まだ廃れてなかったんだ。
「おまえが戻ってきてくれたら絶対上位を狙えるんだ。頼むよ」
「長くやってないし力になれないよ」
数ヵ月以上はログインしてない。人気なゲームだとそれだけでランカーさんと大きく離されるし、私が戻った所で中堅クラスだと思う。
「有名な上位勢は何人か引退したのを知ってる。それに今のフユユでも渡り合えると思うんだ」
随分買い被ってくれてるみたい。それは嬉しい。でも……。
「あのゲームはしない。もうやらないって決めてる」
理由は色々ある。けど、一番の理由はミゥがいないから。だったらやる意味なんてない。
「変わったよな、おまえ」
冷たい声だ。
「昔はあんなに仲良くしてくれたのによ。そんなにあいつが気に入ったのか? 私なんかもう眼中にないってか?」
その声を無視して階段を下りようとしたけど、ナツキが先に行った。
胸の奥がモヤモヤしてる。何かが引っかかる。うまく言葉にできないのに、言いたくて仕方ない。
ふと、ナツキと出会った頃を思い出す。
前のゲームで始めたばっかりの頃、ナツキがPKされそうになってたのを助けたのが出会いだった。私は興味なかったけど、ナツキは私に引っ付いて離れなかった。だから自然と一緒に協力してた。
いつからか、ナツキといるのが当たり前になって普通に話すようになってた。それで心を許せる友達にまでなっていた。
──あの日までは。
ある日、ナツキは言った。
『ギルドを設立したんだ。これで一緒にトップを目指そうぜ、フユユ!』
野心家のナツキはいつも上を目指してた。そんなナツキに感化されて私も応えるつもりだった。
最初でこそギルドの中は寂しくて誰もいなかったけど、徐々に人が増えていった。私とナツキも実力をつけてどんどん知名度が増えていった。気付けばギルドの中は沢山の人が溢れてギルマスのナツキの周りにはいつも人で賑わっていた。
胸が、痛かった。
ずっと仲良くしてた人が取られたみたいで心が苦しかった。私にとって唯一の友達は、ナツキにとってはただのギルメンなんだって気付いた。
次第にギルドへ行かなくなってソロプレイをしてた。脱退はしなかったけど、ナツキは心配してた。それでも私は行かなかった。ギルイベには顔を出した。でもメンバーとは殆ど交流をしなかった。もうどうでもよくなってた。
知らない内にナツキは配信もするようになってた。あのゲームでも有名だったから知名度が出るのも当然だと思う。また、私の知らない人達だ。
今だって、私なんかどうでもよくて、リスナーとの話題ばかり気にしてる。ナツキにとって私なんかより再生数の方が大事なんだ。
「嘘つき」
ポロリと零れた。ナツキが驚いて振り返ってる。別に言ったつもりはなかった。でも、こっちを見てる。
「一緒にトップを目指そうって言ったの、ナツキだった」
一緒に。
私にとってそれが大事だった。なのにナツキは約束を破った。だから私もギルドを抜けた。
「おい、なんの話だよ。さっき言ったの怒ってるのか? 悪かったよ、謝るから」
違う。そんなのじゃない。ナツキはいつも私の気持ちに気付いてくれない。
ミゥだったら、すぐに気付いてくれるのに。
「そんなだからミゥにも負けるんだよ。ナツキなんかが一番になれるわけない」
「はぁ? 何だよ、さっきから」
こんなの言うべきじゃない。分かってる。なのに口が閉じてくれない。
「上ばっかり見て、目の前の人がどんな気持ちだったかも知らないくせに……!」
「おまえいい加減にしろよ! おまえがいない間、こっちがどれだけ苦労してたかも知らないだろ!」
「知らない! 全部ナツキが悪い!」
ごめん、ミゥ。こんなはずじゃなかった。
それから攻略は続いたけど、空気は最悪だった。