10.もしかして片思いじゃない……?
最近外へ出かけるプレイヤーが多いように感じます。前までは街にしかいなかった人も攻略の楽しさを知ったのか、或いは欲しい衣装やアクセサリーがあるのか。どちらにせよ、例のイベント効果はそこそこあったようです。おかげで1割くらいは攻略勢が増えました。
ただここにその他大勢に含まれる無気力少女がいますけど。
「ミゥー、聞いてー」
聞かなくても勝手に言うのでしょう。
「私そろそろ攻略しようかなーって思ってね」
「そうですか」
なぜそれを一々私に報告するのか。
「ねぇ、ミゥ」
「なんですか」
スライム投げー。飽きたー。
「私が頑張ろうとしてるのに素気なくない? もっと応援してよ」
「がんばれー」
声に張りが全く出ません。
「今のトップって何レベくらいなの?」
「個人情報なので教えできません」
「20超えてる?」
「知りません」
「18くらい?」
「それを知ってどうするんですか?」
教える気はありませんが興味はあります。
「私って時間だけはあるでしょー。本気出したら追いつけるかなーって」
「それは頑張り次第でしょうけど」
「そう考えたら社会人って不利だよねー。休みくらいしかまとまった時間取れないじゃん?」
「その代わり経験値取得料が増加するアイテムを課金で買えますよ。トップの人達も購入してるんじゃないでしょうか」
時間制限はあるもののサクサクとレベルがあがる。これぞマネーパワー。
「はー。やっぱりやる気なくなったー」
急転直下すぎる。
「所詮世の中お金か。私みたいな人間はどう足掻いても大人には勝てないんだね」
「いや……ですから時間がある人との差を埋める為の措置でして……」
完全にふてくされてしまってる。そもそも運営するのもお金が必要ですからこうした要素はどうしてもある。結局時間とお金がある人が強くなるんです。
「別に一番に拘る必要なくないですか?」
レベルが一番高いからとか、最初に未踏破エリアに入ったからとか、先着一名様のイベントとか、そんな豪華特典は一切ありません。ゲームは自分のペースでするものです。
「どうせやるならトップ狙いたいなーって」
彼女もある意味ゲーマー気質というのでしょうか。私にはそんな気概がないので少しも分かりませんが。
「でも今の聞いて無理そうかなー。諦めるー」
仮初のやる気でしたか……。
「もしもフユユさんがトップになったら私も嬉しいですね。それに今から上に行けたならそれって下剋上って感じがして格好良くないですか?」
「ちょっと本気出してくる」
おぉ! ついにやる気が!
よくやった、私。
※30分後※
「私には無理だった……」
早すぎるお帰りである。
「ボスに負けましたか?」
「ダンジョンにすら行ってない……」
何をしてたんですか……。
「ミゥの声が聞けなくて禁断症状が発症した……」
致命的すぎるデバフ……。
「でもレベルは1あげたー」
「えぇ? すごいじゃないですか」
いくらレベル2からとはいえ半時間で1上げるのは中々難しいと思います。フユユさんの場合は課金アイテムも使ってなさそうですし。
「どんな方法を使ったんですか?」
「マジックアロー貫通するからスライムが直線に並んでる所に撃ってた」
やはり彼女は手慣れてる感じがします。おそらく本気を出したら口先ではない実力を見せてくれたのでしょう。この様子だと当面は無理でしょうけど。
「もう無理……」
なぜ私に近付く。
「ミゥ成分摂取したい」
「仕事中です」
「仕事仕事っていつだったらいいの!」
壊れてしまいましたか。
「いつも見てるだけだったじゃないですか」
「もう見てるだけじゃ満足できなくなったー」
許可なく抱き付かないー。
「そもそもアバターなのに抱き付いて楽しいんですか?」
「甘いよ、ミゥ。私にはこのアバターからミゥの鼓動を感じられる」
声のトーンが本気すぎて怖い。その素質だけはトップですよ。
「とりあえず離れてください」
「無理……」
「仕事ができません」
「やだ……」
「あんまり往生際悪いとキスしますよ」
「え……?」
はい油断した。離します。
「キスしてくれるの……?」
「キスされたいんですか」
フユユさんが顔を真っ赤にしてベンチに走り去ってしまいます。感情まで同期されるんだ。
「さすがにキスは早いよ……!」
両手で顔を覆ってしまいます。この程度で動じるとはまだまだ子供ですね。
大人をからかうとこうなるんです。
でも銀髪少女の赤面とはいいもの見れた……。
疲れた時また試そうかな……。