第7話 いざ、特訓
「勇者サマ。これに出てみませんか」
とある秋の日。例のごとくアナスタシアさんとお弁当を食べていると、彼女が一枚のチラシを俺に手渡してきた。
「こ、これは……!」
「日々修業している勇者サマとなら優勝できるはずデス!」
アナスタシアさんに手渡されたチラシ。
そこには『第1回札幌市民スポーツチャンバラ大会』という文字がデカデカと記載されていた。
「えー、なになに? ソロの部、ペアの部? なるほど二人一組でも出られるみたいですね」
「ハイ!」
俺はルールを読みつつ、チラッとアナスタシアさんを見てみた。
すると……
『うっ……なんという誘ってくださいオーラ』
アナスタシアさんに仮にもふもふのしっぽが付いていたとしたら、ちぎれるんじゃないかというぐらいブンブンと振られている。それぐらい、彼女は大型犬のように全身で喜びを表しにして俺を見ていた。
「で、出ますか……俺たち二人です」
「! ハイ!! ワタシたち、パーティですから!」
こうして、俺たちは『第1回札幌市民スポーツチャンバラ大会』へと出場することになった。
次の土曜日。
「では、特訓を開始しましょう」
「ハイ、勇者サマ!」
俺たちは近くの公園で特訓を行うことにした。
競技で使うものと全く同じ武器……大剣と小太刀を用意した。
大剣は俺、そして小太刀はアナスタシアさんが使う(エルフのサブウェポンと言えばナイフだからだ)。
「ではまず、自分が思うままに構えてください」
俺はそうアナスタシアさんに指示すると、自分も大剣を上段気味に構えた。
実はこういう戦闘系は、修業を積んできた中でもけっこう自信があるのだ。
しかし――
「ん? なんか……けっこう様になってる構えですね」
アナスタシアさんは半身状態で小太刀を前方に突き出すように構え、軸足にはおよそ7割といった具合で体重を乗せている。
「お恥ずかしいデス……実は、父が軍隊格闘技の教官でしたカラ」
えー? 俺いらんやん! と思った。どおりで完璧な構えなわけだ。
その後、俺たちの特訓は夜まで続いた。
なかなかどうしてアナスタシアさんは強く、まさかの10勝10敗で引き分けとなってしまった。
特にナイフ術+システマ(ロシアの軍隊格闘術)を合わせた動きにはだいぶ翻弄された。
同じチームだったからよかったものの、敵だったら苦戦していたこと間違いなしだ。
ていうか、美人で強いだなんて、まさにアニメや小説の主人公みたいだなと思った。俺なんかより圧倒的に異世界転生向きの設定でちょっと悔しいのは秘密だ。