第6話 ハーレムなんて絶対無理!
「ここが、今回の会場です」
アナスタシアさんと一緒に辿りついたのは、札幌市内にある某会議場。
ここは時間制で誰でも借りれる会議場で、よくTRPG仲間と利用する場所だった。
コンコン……
ノックをすると中から「どうぞ」と言う声が帰って来たので、俺はガチャリとドアを開ける。
すると――
「待ってたよ、勇者くん」
「お疲れっすー、勇者殿」
すでに会議室には、TRPG仲間兼異世界転生したい仲間であるすず子さんとミコトさんがいた。
「わっ!? その人がうわさの会社の新人さんっすか? 本当にリアルエルフさんっすね」
ミコトさんは俺の後ろに控えるアナスタシアさんを見て、驚きの声を上げる。
「う、ウラジミール・アナスタシアと言いマス。今日は、よろしくお願いしマス」
そう言ってアナスタシアさんが深々と頭を下げる。
「ずいぶんと日本語が上手だね。この分なら、問題なくゲームも進行できそうだ」
そう言ってすず子さんが微笑む。
俺は内心、アナスタシアさんが馴染めるかどうか心配していたが、杞憂に終わったようだ。
TRPG会は、滞りなく始まった。
「では、まずキャラクターシートを作成してくれたまえ」
そう言って配られたシートに、各々自分がどんなキャラクターなのかを記入していく。
俺は勇者、ゲームマスターも兼任するすず子さんは僧侶、ミコトさんは盗賊、そしてアナスタシアさんは弓使いのエルフに決まった。
「お、さっそく戦闘っすね」
ルール説明がされてからの最初のターン、さっそくアナスタシアさんがゴブリンとの戦闘になった。
するとすかさず、すず子さんがルールを説明してくれる。
「ではアナスタシアさん、ダイスを振ってくれるかな?。TRPGではすべての行動を出た目で決まるんだ。今回の場合、四以上なら攻撃成功。それ以下なら攻撃は失敗だ」
こうしてアナスタシアさんの初TRPGは同姓の割合が多いからなのか、和やかに進んで行くのだった。
しかし、事件は終盤で起きた。
ラスボスに挑む前日。この日はばかりは街を探索するもよし、武器をそろえに行くもよし、とにかく自由に行動していいというターンだった。
俺はそんな中で武器を見に行き、最強とされる剣をダイス判定で獲得していた。
そして、次はアナスタシアさんのターン。
ここは役になり切ってのアドリブ力が試されるが……さぁ、どう出る?
「勇者サマに告白しマス!」
「へあ!?」
思わず変な声が漏れた。
「こ、告白って……全然そんな流れじゃなかったじゃないですか? いきなりどうしたんですか、アナスタシアさん」
慌ててプレイヤー兼ゲームマスターのすず子さんが尋ねた。
彼女の動揺はもっともだ。
なぜならここまでの冒険のなか、アナスタシアさんが勇者(俺)を慕っているなんていうシーンは一度もなかったからだ。
しかしアナスタシアさんは真剣な眼差しで――
「明日には我々はラスボスへと挑みマス。もしかしたら負けて、死んでしまうかもしれまセン。ワタシ、未練を残して死んでいきたくないんデス」
と言い出した。
いやいや、たしかにその場の対応力……つまりアドリブで動く力を養おうという修業ではあったけれどもこの展開はさすがにアドリブが効きじゃないのでしょうか!?
「勇者サマに告白しマス……ダイスロール」
ちょっとゲームマスターのすず子さん。どうにしてくださ――
「だったら、私だって告白させてもらうよ。ダイスロール」
ええ……?
「じゃあ、自分もついでに勇者殿に告白しちゃうっす。ダイスロール!」
ちょっ! 悪ノリしないで!
「結果は!?」
ミコトさんがそう言うと、三人がそれぞれのダイスをのぞき込む。
「このターンはダイスが四以下の場合はすべて失敗だ」
「と、ということハ?」
「五、五、六……全員、成功っすね!」
困ったことに、ダイス判定は全員成功だった。
「さぁ、勇者くん。どうする? キミはこの最後の夜を誰と過ごすんだ?」
すず子さんがズイッとこちらに迫る。
「そ、そんなの決められませんって!」
「ダメっすよ勇者殿。これはダイスで決まったこと……さぁ!」
ミコトさんもグイッとこちらへ迫る。
そして――
「勇者サマ……信じていマス!」
アナスタシアさんが潤んだ瞳で俺の方へと詰め寄る。
「いや、その……えっと……」
俺はどうしていいかわからず悩んだ。
いくらTRPGとは言え、まさかこんなハーレム展開になるなんて誰が予想していた?(ちなみに余談だが、ミコトさんはいわゆる男の娘だ)
いくらダイスで決まったからと言ってこんなシナリオは――
「ハッ! そうか!!」
俺は脳裏に閃光が走ったかのようにひらめき、自分のダイスをガッと手に取った。
そして――
「ダイスロール! 四以上なら俺は仲間たちを危険な目に合わせられないと言って、一人でラスボスに挑みに行くのだった!」
強引な展開だがそう叫び、俺はダイスを振った。
判定は――
「六! 大成功!! なので告白は無効に……」
恐る恐る女性陣の方をチラッと見てみた。
「……最低デス、勇者サマ」
全員が頬を膨らませこちらを睨んでいた。
当然この後、俺は女性陣からの信頼を失い、そのうえラスボスに負けたのは言うまでもなかった(結局、女性陣は仲良くなり一緒に飲みに行ったようだが……それはまた別のお話)。