第5話 お手軽異世界転生=TRPG
「どうしたら、勇者サマのような勇気ある行動がとれマスカ?」
ある日の昼休み。
いつものようにアナスタシアさんとお弁当を食べていると、そう聞かれた。
「ゆ、勇気ある行動ですか?」
「はい。私もこの前の勇者サマみたク、誰かを守れる強さを見に付けたいデス」
「いやいや、あの時はただ必死だっただけで……」
以前一緒に出掛けたキャンプ修業での一幕、ヒグマ相手に対峙した時のことを彼女は言っているのだろう。
俺は、「うーん……あの時は必死だったからなぁ」としか言いようがなかった。
そして――
「アナスタシアさんを守りたい。ただそれだけの想いだっただけです」
と、ありのままを伝えてみた。
すると――
「そ、そうデスカ……」
と言って、アナスタシアさんは耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
しまった。どういう反応なのかはわからないが、もしかして気持ち悪いと思われてしまったのだろうか?
だとしたら、まずい。
せっかく異世界転生仲間が出来たというのに、嫌われてしまうのはどうしても避けたい。
俺はなんと答えれば正解だったのかを慌てて考えてみた。
その結果――
「てぃ、TRPGです!」
「エ?」
「テーブルトークRPGっていうゲームでどんな状況下になってもいいように鍛えてたんで、きっとあの時動けたんだと思います!」
俺は思い当たる節があったのでそう述べてみた。
TRPGとはあるシナリオに従いつつ、プレイヤーが登場自分物になり切ってそのシナリオの世界を冒険する遊びだ。行動はすべて複数のダイスを振ることによって決められるので、運要素がこれまた面白さに拍車をかける。
そして実は先月のTRPG会で、俺は熊に襲われるシチュエーションに遭遇していたのだ。
キャンプ場での行動は、その時の経験が活きたに違いなかった。
俺がそう言うと、アナスタシアさんは……
「TRPG……」
と何やら考え込み始めた。
そして――
「勇者サマ! 私もそのTRPGに参加させてくだサイ!」
と熱望してきた。
それが五日前のこと。
この時は「新しいTRPG仲間が増えるぞ♪」なんてのんきに考えていた。
しかし――
「勇者サマに告白しマス……ダイスロール」
「だったら、私だって告白させてもらうよ。ダイスロール」
「じゃあ、自分もついでに勇者殿に告白しちゃうっす。ダイスロール!」
どうしてこうなったのだろう。
今回のTRPGは、何故か修羅場と化してしまった。