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本編01













   はじめに













本作品は、私の習作です。もともとは短編で終わらせるつもりで、構想も深く練ったものではありません。


自分はもともとはファンタジー志望で、息子を妊娠して無職だった時期に何がなんでも作品を書いて完結させようとしたのが、私の幻の処女作。書き終われずに挫折し、実にそれから10年ほどを得て、一念発起して仕上げたのが 僕の であります。その後、思うところあって半分だけ出来上がっていた作品の後ろをヒイヒイ言いながら補完して、出来上がったのが私の幻の処女作 キサルピーナ で、かなり読みにくい作品になってます。 ( ̄∀ ̄)


これは、あのキサルピーナ系列の作品です。ファンタジーは世界の構想と設定が難しい。ファンタジーは世界観の設定や、魔法をどう描くか等、難点がいろいろありますね。それに自分の苦手なプロットの組み立てがあります。長く書いてはまたいつぞやのキサルピーナのように挫折するので、短く書いて練習をしました。


温かい目で、至らない部分は大目に見てください。 <(_ _)>


2025.01.04

中国の自宅より

汪海妹
















   本編01














   現実には存在しないどこかの国の一つの地方














「どうだ?」

「やはり同じです」

「確かか?」

「はい」


村のはずれ、深い森に分け入り奥へ進む。目で見ればそこはそのまま深い森が続いてゆくのだけれど、ここにはもうずっと目には見えない壁がある。その壁が行く手を阻んで中のものが外へ出ることを許さない。


背が高くがっしりとした男とその男より細く背も低く、髪に白髪の混じった男がその森の縁に沿って歩いている。足元で小枝がパキパキと折れる音がする。初夏の森林の香りが2人を包んでいる。


年配の男がとある地点で手を上げて、その手をそっと前へ伸ばす。壁の方へ。


「気をつけろ。触れるな」

「承知しておりまする」


そっと伸ばす。ゆっくりと。すると突然、空気が大きく揺れた。


「アルベルト」


名を呼ばれるかいなかのところで、アルベルトは手を戻し、後ろに下がった。


「触れたか」

「少し」

「見せてみろ」

「たいしたことはありません」


アルベルトは自らの手を衣の袖に隠し、主人には見せない。


「もう戻ろう」

「いえ、もう少しだけ」


戻ろうとする主人を遮り、アルベルトは村とは反対の方向へ草の茂ったところを足で踏みしめながら奥へとゆく。


「本当に魔力は下がってきているのか」

「たしかです」

「それならばいずれこの壁は消えるのか」

「たぶん」

「それはどれぐらい先のことか」

「それについては今はなんとも」


主人は忌々しげに舌打ちをした。


「ボルグヒルドは一体、何を考えていたんだ。時間が経てば我々の魔力が無効となり、この壁も必要ないと計算していたのか」

「そんなことではありますまい。単純に、これがかの(おんな)の最大だっただけでしょうて」


アルベルトはのんびりとそういうと、パキパキと足元を鳴らしながらどんどんと奥へゆく。歳をとっても確かな足取りで。


その時だった。


先ほどとなどは比べられないほどの大きさで空間が歪み、それに呑まれた2人は思わず頭を抱えて身を屈めた。とても直立に立ってはいられないほどの衝撃だった。森中の木々という木々から、鳥たちが飛び立つ音が聴こえる。


「なんだ今のは」

「さて」

「村の者が誰か壁に向かって行ったのではないか」

「そんなことはないでしょう。そんなことをしては自分が損するだけだということは皆、骨身にしみておりまする」

「どっちだ。どっからだった」

「はて」


主人がアルベルトを追い越して森の奥へと進む。闇雲に探しても見つかりようもあるまいにとアルベルトは思ったが、主人に意見するのはやめておいて大人しく後に従った。しかし、程なく意外にもそれは見つかった。


「なんだ、あれは」

「……」


あまりのことに固唾を飲んでいるアルベルトを尻目に主人はずかずかとそれに近づこうとする。


「ご主人様、そんな無防備に近づかれてはいけません」

「たかが女ではないか。それに大人でもない」


それはうつ伏せに倒れた女だった。真っ白な柔らかそうな衣を纏った女で、体つきを見るとまだ大人になりきってない。主人は近寄り、うつ伏せに寝ている女をひっくり返した。青白い顔をした痩せた若い女が気を失って倒れていた。


「死んでいますか?」

「いや、生きている」


村の者たちなら目を瞑っても一人一人の顔が浮かぶほどに覚えている。これは、外から来た者だった。


しかも、人間だった。


「まずいな」

「まずいですな」

「どうする?」

「ひとまず、皆の目に触れないところまで運びましょう」


アルベルトはそういうと突然自らの上着のボタンを上から外し出す。驚いて主人が言った。


「何をしている」

「何をって」


シャツを脱いで下着姿になると娘を背におい主人に言った。


「そのシャツでこの者の頭を隠してください」

「ああ」

「髪の毛が見えないようにしてくださいよ」


主人がアルベルトの脱ぎ捨てたシャツを拾い軽くはたいて土を落とし背負われた娘の頭に被せると、娘を背負ったままでアルベルトは主人の方を見て言った。


「村の方では騒動になっているでしょう。ご主人様はわたしとは別に村へと出て皆に適当な話をしてください」

「お前はどうするのだ」

「別邸へとゆきまする」


別邸とは邸とは離れたところにある森の中の簡素な小屋で、男の妻はあそこは嫌な気配がすると言って寄りつかない。釣りの好きな主人がたまに静かに過ごしたい時に訪れるところだった。


「誰にも見られずに行けるのか」

「さあて。でもそれしかないでしょう」

「そうだな」


そして、二人は右と左へと分かれた。村へと向かう途中で男は一度後方を見た。彼の従順な執事はゆっくりと、だが、確かな足取りで真っ直ぐ前へと歩いていた。


(あやつも随分老けてしまった)


心の中でそう呟くと、ついため息が出た。


(それでもまだ人間と比べたら、我らの老いは緩やかなのだろうか)


まるで普通の人間の男のように髪が抜け皺が出て腰の曲がってきた執事を思いつつ、自分自身も颯爽とは言えない足取りで村へと向かった。男はゆっくりと歩きながら昔のことを思い出していた。もっと自分に魔力が溢れ出ていた時のことを。あの燃えるような感覚。世界が閉ざされてから皆それぞれに己の魔力を少しずつ失い、緩やかに変化を遂げてきていた。


閉ざされた世界で、我々はなすすべもなく、まるで人間のように暮らしてきた。非常に屈辱的ではあった。魔力を失い、どんどん弱くなってゆく。しかし、死ぬことはなかった。ただ、ゆっくりと、人間に近づいてゆくだけだ。


日々の繰り返しというのは恐ろしいもので、この閉じ込められ、しかし、最低限生きて行けるということに皆、なれてき始めた。きっとこのまま自分たちは魔族であったということを忘れてゆくのだろう。自分たちが人間ではなく誇り高き魔族であったということを。


「領主様」


森を抜けると、村の方から手に鍬やら何やら武器になりそうなものを手に男たちがこちらへとかけてくる。


「何をしている」

「感じませんでしたか?大きな揺れを感じたのですが」

「それは感じた」

「境で何かあったのかと」

「行かんでよい」

「でも、何か」

「動物が……」


動物がと言い始めてしまって、ふと自分を囲んでいる男たちの顔を見る。皆、とろんとした目つきでこちらを見ている。


「動物が引っかかったのであろう」

「本当にそうでしょうか」

「今までにない大きな揺れで」


皆、興奮に目を光らせている。


「どこか包囲が破れたのでは?」

「もしもそうなら外へ出たいか」


その目を見ながら聞いてみた。聞きながら自分がとても疲れているのに気づく。


「それはもうもちろん。当たり前でございます」

「そうか」


目を光らせている一団の男の肩を軽く叩きながら彼らを置いて前へと進む。


「行ってみてもがっかりするだけだぞ。それでも行きたいのなら好きにするが良い」

「領主様は何もないと?」

「今まで何度期待をもってしても、何度も裏切られたであろう。壁は消えないよ」


彼らを後ろに残したままで、前へと進む。


「それでも行きまする」

「好きにしろ」


背中でそういうと村へと向かって進む。男たちの足音がバラバラと森へと向けて遠ざかってゆく。


(あれは……)


男たちと別れてから男は先ほど見た娘の青白い顔を思い浮かべた。


(なんだったのだろう?)


一度邸へと戻り、母屋には入らずに厩で馬の囲いから愛馬を引き出す。優しい目をした白馬が嬉しそうな目でこちらを見て、軽く嘶きトントンと足を踏み鳴らした。その音に反応して、馬小屋を覗くものがいた。


「領主様、どちらへ?」

「ちょっと別邸へと行ってくる」

「こんな時間からですか?」

「ああ」


馬丁は少しキョトンとしたが、気を取り直して馬に鞍をつけてくれた。


「お戻りは?」

「明日か明後日か」

「奥方様には?」

「お前から言っておいてくれ」

「なりません。またそのような勝手を」


小言を言う男をほっといて馬に乗る。気持ちのいい午後だった。愛馬にのって空を眺める。

閉じ込められて、足りないものがたくさんあった。だが、見様見真似で自分たちは、この限られた世界の中でそれでも、生きてきている。多くを望まなければ、そこまで酷い生活でもなかった。


どんなに理不尽なことをされても、怒り続けることはできないのだと知った。怒り続けることはできず、そして、誇りを失うのだろう。


自分たちはどうなるのであろう?


晴れた空。田舎道。どこまでも行けそうな、それはしかし、とある所で阻まれる。一方的に絶大なる力で閉じ込められ、自分たちはいつの間にか人間に飼われているのだ。この我々が。


こんな日が来るなんてかつて想像だにしたことはなかった。

人間に対して優勢を誇ってきた我々が一方的に閉じ込められるようなことなど。


あの壁が力を失い、我々が外へ出る日が来るだろうか。

それとも、自分たちがこのまま年老いて人間のように死んでしまう日の方が早いか。


死を思い浮かべてそこで、重苦しいものが上がってきた。ずっしりとした思い。晴れた美しい午後に地獄にいるような気がする。

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