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大蛇の生贄

作者: 水野とおる

むかしむかし、あるところに大蛇がいました。

大蛇は気の優しい大蛇でしたが近くの村のものからは恐れられていました。

ある時村で干ばつが起きました。

村のものはきっと大蛇が祟ったのだと考えました。

そこで大蛇の生贄としてとある気の弱い女性を差し出したのです。


大蛇は女性を気の毒に思い、話しかけました。

「女よ。実のところ私は贄を欲しいとは思っていない。

村に返してあげよう。

事情を説明して家族のもとに戻りなさい」

女は言いました。

「いえ、その必要はありません。私は天涯孤独の身。

この身を差し出すことで村の者は胸のつかえがおりるのでしょう。

私が可哀想でいることで救われるものが多いはず。

普段から村では私はそういう役目なのです」

そういうと蛇は更に女を不憫に思いました。

「そうか、そんなに居心地の悪い村なら村のものをすべて食べてしまおうか。

きっとお前も復讐したいだろう」

「いいえ。私はこの役目を受け入れてます。

私が可哀想でいることで、皆が鬱憤を発散させているのがよくわかるからいいのです」

蛇は自己犠牲をする女をますます哀しく思いました。

「なら、私と結婚して幸せになろう。

そうすればきっと彼らを見返すことができるはず」

女はまたも首を振りました。

「いいえ。私は結婚はできますが幸せになりたくありません。

幸せになってしまうと一番可哀想と思われなくなってしまうから。

可哀そうと思われると、私は誰よりも優しくされます。

その優しさで私はやっと心が満たされるのです。

だから、私は哀れみを受けたいのです」

大蛇は困りました。

どうやら女の望みは可哀想と思われることにあるみたいです。

大蛇は一生懸命考えて言いました。

「ならお前を食べてやろう。

そうすればお前は一番可哀想と思われる。

私は腹が減っているからちょうどよい。

もう嫌とは言わせまいぞ」

そう言ってぱくりと女を口に含み、ゴクリと飲み込んでしまいました。

女は抵抗もせず、そのまま腹の中に入っていきました。


そして数日後、偶然にも村に雨がふりました。

村のものは犠牲になった女を哀れに思いました。

そこで大蛇が住む池の畔に塚を設けました。

こうして女は永遠に哀れみを受けることができるようになりましたとさ。

めでたしめでたし。


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