第9話 本宅と別宅
「何か聞きたいことがあれば
いつでも子の宅を訪ねてきて下さい。
先生の過去の事件の話なども
聞いてみたいですし」
そして頼朝は湯呑を取ると
ゴクゴクと一気に飲み干した。
どういうわけか
本宅で生活しているのは
姫子、
政子と息子の頼家、
富子と息子の義尚、
菊子と息子の秀頼、
の7人だった。
頼朝には子の宅が
秀吉には乾の宅が
与えられていて、
二人は家族と離れて暮らしていた。
そして3人の使用人。
福には卯の宅が
竹千代には巽の宅が
五代には坤の宅が
それぞれ与えられていた。
つまり。
頼朝と秀吉の扱いは
使用人と同程度ということになる。
「家族と離れて暮らすことに
寂しさは感じないのですか?
それに掃除なども大変でしょう?」
最後にボクは踏み込んだ質問を投げかけた。
「離れているとは言っても、
食事は一緒ですし。
稀に政子の方から訪ねてくることもあります。
それに掃除なら
定期的に使用人の五代がしてくれますので」
頼朝は笑って頭を掻いた。
「・・では。
私は自宅に戻ります」
頼朝が立ち上がった。
「そうそう。
子の宅の裏庭には
珍しい植物が生えていましてね。
その昔、
子の宅に住んでいた祖先の一人が
植物に大変興味のある人物だった
らしいのです。
『常葉萱草』や『定家葛』
『夾竹桃』なんていうモノまで
生えているのですよ。
私も夜霧の人間として
先祖からの贈り物を精一杯
大切にしようと思っています。
最近では暇さえあれば
裏庭の手入れをしています。
はははっ」
そして頼朝は茶の間を出ていった。
しばらく待ってからボクも腰を上げた。
本宅から出たところで、
ボクは一度大きく背伸びをした。
それから紅く染まった空の方へと歩き出した。