真祖は人間の少女と出会う
「ん……うう…ここは…?」
メラヴァルはふかふかのベッドの感触を感じて目を覚ました。
「あっ!目が覚めたんだね!」
メラヴァルが起きたのを感じたのだろう、近くに居た少女が駆け寄ってくる。
その少女は紫のツインテール姿が似合う、可愛らしい少女だった。
「わたくしを…助けてくれたんですの?」
「そうだよ、路地裏で裸同然の格好で倒れてる女の子を助けるのは当然っ!あ、自己紹介が遅れたね、私はパティ!よろしくね」
その少女は元気すぎるというか、距離が近いというかそんな印象を受けた。
「わたくしはメラヴァルと申します、あ…」
しまった失念していた、メラヴァルという名前から自分がメラヴァル=ロードアウトだとバレてしまうんじゃないかと思ったが、次にパティが発した言葉でそれは杞憂だったと察する。
「メラヴァル……?もしかして!魔界の王メラヴァル=ロードアウトと同じ名前じゃん!かっこよくていいなー」
パティはその名前を聞いても眉をひそめたりはしなかった。
「あと聞きたいんですけど、今って魔界歴何年ですの?わたくし、なにぶん記憶喪失なもので…」
とりあえず記憶喪失という設定で今の大陸の現状を聞き出そうとする。
「メラちゃん、記憶喪失なんだ…可哀想……私に分かることなら全部教えてあげちゃうね!まずは…今は魔界歴2350年だよ」
メラヴァルは思わず絶句する、まさか1000年も封印されていたとは、どうりで昔住んでた城も朽ち果て、魔界も滅んでいるわけだ。
「あと、その魔界の王の話を聞きたいですわ…」
「メラヴァル=ロードアウトの話?いーよ!」
パティは快諾してくれて、淡々と話す。
「えーと…魔界の頂点に君臨していた吸血鬼族の真祖で、美しい少女の見た目と圧倒的な戦力を誇る権能を十個保有していた、まさに完全なる魔王と呼んでも差し支えない存在だった。
しかし1000年前の魔界歴1135年に九人のデビルハンターに敗れ、九個の権能を奪われた上で封印された…という話だよ」
やはり権能は奪われてしまったということだ、今のメラヴァルは権能がほとんどないため、下級魔族と同等の戦力しか無かった。
「あ!あとメラヴァルの権能を奪ったデビルハンターの末裔が私の入学する予定の学校、DHアカデミーに在学してるらしいんだよね、その人たちは代々権能を受け継がれていてそれはもうすごい強さなんだって!」
いきなりパティが爆弾発言を投下してきた。
デビルハンターの末裔が在学…?ということは潜入すれば権能を奪い返すことも夢じゃない…?
実は吸血鬼族は他の魔族には無い特徴があった、それは血を吸った人間や魔族の異能と権能を奪うというものだ。
「パティ!どうすればそのDHアカデミーとやらに入学できるんですの?」
メラヴァルの気迫に押されたパティはおどおどしながらも話し出す。
「ええと、入学には試験が必要だよ、戦闘の技能を見る実技試験と座学試験があったね、もしかして!メラちゃんもDHアカデミーに通いたいの!?」
「ええ、わたくしも目的が出来ましたもの…ということで勝手なお願いなのですが…パティさん…勉強を教えていただけないかしら?」
それを聞くとパティはぱあっと目を輝かせた。
「もちろん!私に出来ることならなんでも教えてあげるね!メラちゃんはもう友達だもん、ついでに入学までなら家にいても問題ナシ!」
(本当に優しい子なんですのね、出会ったばかりのわたくしを友達にしてくれるなんて…魔界では人間は悪逆非道の卑怯者と教えられて来ましたけど、人間も案外捨てたもんじゃないですわね)
メラヴァルは目の前の元気いっぱいな少女を眺めながら、そう思うのだった。