最奥のイフリート
第2層は魔獣が殆ど残っていなかった、恐らくヒュドラが一匹残らず殲滅してるのだろう。
そうして第3層に続く階段を降りようと来た時、パティがある異変に気づいた。
「ん……?ねぇメラちゃんなんか焦げ臭くない?」
「確かに…何かが燃えてるような……これはマズイですわね…こんな閉鎖空間で火なんて広がったらかなり危険ですわ、今すぐ引き返しましょう」
咄嗟に引き返そうとするメラヴァルだったがその手をパティががっしり掴んだ。
「待ってメラちゃん、下にはミステリオン先生とヒュドラさんが居るはず…早く助けに行かないと!!」
悲痛な表情を浮かべたパティはなんと3層に降りてしまったのだ。
「ちょ、パティ!待ってくださいまし!しょうがないですわね……メイザーそこに居ますかしら?」
咄嗟にメイザーの名を呼ぶと彼は何処からか姿を現した。
「わたくしはこれから3層に降ります、貴方には上から降りてくる他の生徒達を絶対に3層に近づかせないようにして欲しいんですわ」
そう、この後多数の生徒が遅かれ3層に到達してしまう、そのためメラヴァルはメイザーに足止めをお願いしたのだ。
「仰せのままに我が主メラヴァル様、この階段には一人たりとも通しません」
「任せましたわよ…!」
そしてパティを追いかけ、3層に足を踏み入れた彼女が見た光景はまさに地獄だった。
「うっ…げほっ……なぜこんなに火の手が……あっ…パティ!大丈夫ですの!?」
パティは煙を吸わないように口元を抑えながら歩みを進めていた。
「う、うん何とか平気…でもあそこにミステリオン先生とヒュドラさんが…」
そうして前方に目を向けると、謎の魔獣と交戦しているミステリオンとヒュドラが目に見えた。
「あれはまさかイフリート!?なんで第3層なんかに……普通は最奥の第10層まで降りないと居ないはずなのに…」
そう、第3層には煉獄を司る凶悪な魔獣、イフリートが出現していたのだ。
「ミステリオン先生!ヒュドラさんっ!わたくし達も加勢しますわ!」
メラヴァルは能力を発動、血の細剣を生成し右手で銃を構える。
「メラヴァルにパティ…なんで来たんだ…!?ここは危険だ今すぐ逃げろ…!お前たちじゃ奴には敵わない…」
そう告げるミステリオンだったが体の至る所に火傷を負っていた、このまま無理に戦えば命に関わるだろう。
「先生は離れててください、私たちでなんとかしますからっ!」
パティも、鎖分銅を取り出した。
「ふっ…早速首席と次席が共闘とはな、これは楽しそうだ」
深刻な表情をするメラヴァル達に比べてヒュドラは強敵を前にする獣のような顔を浮かべた。
そしていち早くイフリートに向かって行った。
それを阻むかのようにイフリートが口から業火を吐き出す。
「フゥゥ……ハァッ!!」
彼が深く息を吐いた瞬間、鞘から蒼い刃が顔を覗かせて、なんと炎を斬り裂いたのだ。
そして体を素早く捻り、刀の鋭い突きをイフリートの右目に食らわせた。
片目を潰され、体勢を崩すイフリートをパティは見逃さずに鎖分銅で左目も潰そうとした、のだが奴は体の全体から熱風を吹き出し、近くに居たパティとヒュドラを襲う。
「ぐぉぁ……」
「きゃぁ!」
突然の反撃に2人は対応出来るはずもなく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「そんなっ……一体どうすれば…」
イフリートは1000年前なら簡単に手懐けられたのだが、今のメラヴァルは大半の力を失っているのでそれは不可能だった。
(でもここで諦めたら…わたくしたちはみんな…死ぬ)
「わたくしがやるしかないですわっ!」
メラヴァルはすかさず右手に握られた銃をイフリートに向けて発砲、発射された銀の弾丸が奴の肉体に刺さる。
途端に動きが鈍くなるイフリート、効いているのは間違いないようだ、すかさず血の細剣を構えて奴に向かって踏み込んだ。
「この角度なら…首を撥ねられますわ…!やぁっ!」
しかしその刃がイフリートの肉を食むことはなかった。
奴の皮膚からマグマが噴出され、メラヴァルの左手にまとわりついた、焼け付くような痛みに耐えきれず、メラヴァルは後ろに飛んだ。
「ぐぁっ……あ、熱い…あっ……左腕が…」
(左手は死にましたわね……まさかここまで力を失ってるなんて…やっぱりどう頑張ってもわたくしは没落真祖にすぎないんですわね…)
そしてトドメと言わんばかりに口から業火を、メラヴァル目掛けて吐き出そうとするイフリート、だがその瞬間。
「オラァ!星砕き(アースクラッシュ)!!」
何かとんでもない力が加えられイフリートが吹き飛んだ。
「い、一体何事ですの……!?」
驚愕の表情を浮かべるメラヴァルにある1人の男が歩み寄る。
「おう、大丈夫か1年首席サンよぉ、このNo.9の一人、マグドゥーガル=ハイドが来たからにはもう安心だ」
マグドゥーガルと名乗った男は細身でメガネを掛けた弱気な青年に見えたが、どこか底知れぬ圧を秘めていた。
「は、はい…わたくしは何とか…」
慌ててイフリートの方を見ると絶大な力を加えられて絶命していた。
少しすると階段から多数の人間が降りてきてすばやく怪我人を運び出した、メラヴァルも当然重症だったため運ばれることになった。
人気が無くなったダンジョン内を見渡しながら、残されたミステリオンはマグドゥーガルに話しかける。
「この異常自体は恐らく奴らの仕業か…?」
「はい先生、とうとう動き出したってことですよ、イービル・オーダーの連中が」