【告白】‐Confession‐
【アルバ】本作の主人公。職業:探偵。
【ベルカーラ】アルバの婚約者。職業:剣士。
「隣、いいですか?」
地下施設内の人の出入りが少ない洞窟の先、行き止まりには女神像が置かれいた。
台座に座り、物思いにふけっている俺にベルカーラが話しかける。
小さく頷くと横に座った。
「あの白骨体をどう推理しますか?」
別行動だったノラたちが見つけた今回の事件の発端となった犯人と思われる白骨体。
魔法によって生前の姿が判明した。
仮面で顔を隠した謎の人物は俺と同じ顔をしていた。
「普通に考えれば[人造生命]だ。遺伝子を髪や唾液で手に入れていれば『そっくりさん』を作るくらい造作もない。それに俺の[人造生命]が存在しているのであれば、そいつにはドラゴネス王国の加護はないわけだから手配書が出回っている事にも説明が付く」
「……であれば、黒幕は〝プレラーティ〟」
「少なくとも一枚嚙んでいるだろうな」
「──あの腐れ皇女ッ!」
完全にキレている。
今から城に特攻してプレラーティの首を持ち帰ってきてしまいそうだ。
「しかし動機だ。『そっくりさん』を作って、やったことと言えば田舎町の神父を殺害。あの鍵が敵国のスパイをかくまうための地下施設への物であるなら、反逆者として命を奪うのは理解出来る……が、【ルガルアン帝国】ならば皇女が『処刑』を命じれば速やかに行われる。そんな回りくどい方法を使う必要は」
「アルバをおびき寄せる為ではありませんか?」──なにを複雑に考えているだと首を傾げられてしまった。
「そうだな。謎を用意しておけば、火の中でも飛び込む。再び素材集めだ」
「それよりも私が気になるのは『そっくりさん』を用意しておいて仮面で顔を隠させたことです。あまりにも意味不明。その顔で『アルバート・メティシア・ドラゴネス第三王子』と名乗れば誰もが信じるのに」
「あの『そっくりさん』の装備は魔力耐性強い素材だった。おそらく仮面もそうだったのだろうさ」
「というと?」
「俺と同等の魔力があったのなら、並大抵の肉体じゃ魔法無効の[人造生命]のように破裂する。事件時には見た目もボロボロだったのかもしれない」
しかもあそこまで広範囲の魔法を放ってしまえば身体の限界が来てもおかしくない。
町を消失させ【転移】した先の森で骨を残して破裂した。
「『そっくりさん』が消失したなら、もう脅威はない。と考えて良いのでしょうか」
「いや、そういえばプレラーティに髪の毛を数本持っていかれた」
「は?」
殺気を向けられる。
なんて無自覚で無警戒なんだと。
「だったらまた『そっくりさん』が造られてしまう」──頬をつねられ伸ばされる。
「……そうなんだが。普通なら[人造生命]ってだけじゃそれほどの脅威にはならないんじゃないのか」
「なにを言って──」
「魔力量は成功したとしても〝Cランク〟が限界だと『錬金術師テオプラストスの書』にも書かれている」──[人造生命]の見た目は全て[人間種]。生命の模造品というのならば『[純人間種]の限界はCクラス』という常識からは普通は逸脱しない。
「それはアルバが元になっているからでは」
「魔力耐久要領は他に比べて増えるだろうが、魔力はどうだろうか」──巨大タンクに少量の水。というようなものになるのでは?
「しかし現に、アルバと同等の魔力量を持った[人造生命]が現れたではありませんか」
「お前が奴を復元した瞬間にもその魔力は感じたが? それに〝土地の記憶〟で事件当時の町を再現した時に魔力を流し実体化させ顔を拝んでやろうと思ったのだが同じく動き出した」
一番の問題は[人造生命]ではない。
この事件にはもっと複雑な存在不明ななにかがある。
「信じがたいが、俺の[人造生命]を『分身』として操っている何者かがいる」
そいつが巨大タンクを溢れるくらいに満タンにしたのだ。
俺はベルカーラに視線を向ける。
「もしかしてお前は、そいつの正体を知っているのではないか?」
目を丸めた。
『なんでもお見通しなんですね』と言わんばかりに小さく微笑む。
「……確証はないのですが」
「大丈夫だ。ひとりの証言だけを信じ込むほど俺は真正直な[探偵]ではないからな」
ベルカーラは俺の右手に左手を重ねる。
少しだけ震えていた。
まるで教会で罪を懺悔する前のように、相手が自分に落胆するのではないかと不安がっているような。
「私、実は未来から来たんです」
「そうか」──予想外な回答に一瞬頭が真っ白になる。え、なんて。
それから俺が知らないベルカーラ・ウェストリンド公爵令嬢の話をしてくれた。
その令嬢はベルカーラと違い魔力に恵まれていたそうだ。
魔力量を見込まれてドラゴネス王国の第三王子の妻になった。
「勘違いしないでもらいたいのですがアルバートとはなにもありませんでした。ご安心を」
嫉妬するなというが、そのアルバートと俺は同一人物じゃないのか。
アルバートは最強の[魔法使い]として王国を守り続けたそうだ。
一機で敵国を滅ぼし、王国の英雄だと称えられ、戦争の抑止力としての役割を全うしていた。
王族として生きたアルバートの最後はあっけなかった。
[魔封石龍]の化石を有したルガルアン帝国に攻め入られ、拘束。
【アルバート第三王子の〝妻〟であったから】という罪状でベルカーラも処刑された。
そうして目が覚めるとベルカーラは子供の姿で目を覚ましたそうだ。
魔力を失って。
「〝時間跳躍〟。過去に戻るなんて魔法が存在するこの世界でも難しいが」──彼女のこれまでを思い返して、妙に納得してしまった。──「時間軸の違う他の多元宇宙に飛んだという方が説明が出来るか」──終演間近の映画館から出て、開始直後の別の映画館に移ったような。
気になる話題ではあるのだが問題はそこではない。
〝何故、今になってその話をしたのか〟。
ベルカーラは俺の疑問に気付いているようで。
「白骨体を復元した時に〝アルバート〟の魔力を感じたのです」




