【共同】‐Collaboration‐
【アルバ】本作の主人公。職業:探偵。
【ティファ】探偵の助手。職業:医者。
【ベルカーラ】アルバの婚約者。職業:剣士。
【ユリアス】ドラゴネス第一王子。アルバの腹違いの兄。
職業:剣士。
ベルカーラは[魔封石龍]の化石から作られた大剣で横一線を描く。
しかしユリアスは真後ろからの攻撃であるはずのそれを、涼しい顔して受け流す。
剣を重ね合わせ、押し合う。
[剣士]としてのレベルは同等と言っても良いだろう。
だがユリアスの方が明らかに戦闘慣れしている。それだけでなくあのバカ力。
「ボロボロなのだから休んでいろ。ベルカーラ嬢」
「失礼ながら、お義兄様。先ほどは少し油断していただけ。ウェストリンド公爵家の者として負けるわけにはいかないのですよ。ましてやアルバの前で情けない姿はさらしません」
「良き正義。あっぱれだ!」
「──くっ!?」
鍔迫り合いはユリアスが勝ち、ベルカーラはこちらに向かって吹き飛んだ。
肩を抱いてなんとかキャッチした。
いくつか骨が悲鳴を上げた気がする。
「ありがとうございます。……ついでに聞きたいのですが、そちらが例の?」
俺におんぶされているネグリジェ姿の[半妖精(現在変装で[兎亜人]だが)]に視線を送る。
「は、はじめまして。ボクはティファ。アルバの[探偵助手]だよ」
「ええ、はじめまして。私は〝アルバの婚約者〟のベルカーラです」──瞳が殺気立っているのは気のせいだろうか──「ティファさんはアルバとどれくらい親密なのでしょうか?」
なんだその意味深な質問は。
意図が理解出来ず、ティファは少し不思議そうな顔になった。
「えっと。とても仲良しだと思うよ。探偵事務所で一緒に暮らしているし、日常生活も事件でも傍にいるかな。温泉だって一緒に入ったことあるし」
おかしいな。
熱が徐々に上がっているような気がする。
「まあまあまあ──まあ、それはそれは。随分と可愛らしい方ですね。お話に聞いていた印象と少し違うようですが」
説明しろと無言の圧力。
ベルカーラに伝えてあるのは[半妖精]と〝男〟ということ。
しかし後者は本人を前にしても信用してもらえていない。
「紛れもなくこいつは〝男〟だ」
「ご冗談を。こんな男の願望のようないたいけな少女を捕まえておいて」──口を掴まれてタコみたいな顔にされてしまう
「失礼だな。れっきとした〝男〟──というか〝男の娘〟。……そのはずだ」
「自信なくなっているではありませんか」
「そこまで言うならしょうがない。確かめてやろう。ティファ、人前では恥ずかしいと思うから裏行くぞ」
「え。やだよ」
「正々堂々と浮気宣言するのやめてもらえます?」
ならどうやって証明しろというのだ。
ティファとの付き合いもそれなりに経ったが、未だに【性別:男の娘(?)】状態だ。
もう脱がす以外に方法はないだろ。
「そんなことよりユリアスをどうにかする法が先決だろ」
「『そんなこと』で放り投げる話題ではないんですが」
こんな茶番のような痴話げんかが終わるのを大人しく待っているユリアス。
「俺はこの通り、身動きが取れない」
「ティファさんを下ろせば良いじゃありませんか。もしかしてあれですか。一時も離れたくない的なあれですか?」
「ユリアスとの戦いじゃ最適解だ」
「そんな卑猥な最適解があってたまりますか。だったら私をおんぶして下さい」
「意味がない」
「ありますとも、少なくとも私には意味があります。アルバの背中をすりすりします」
ベルカーラはおんぶされているティファに殺気を送る。
それから逃げるように縮こまった。
「とりあえずベルカーラが前衛。俺が後衛だ。お前ならばユリアスの強化魔法共有の常時発動技能[正々堂々]は意味をなさない。そして鍔迫り合いでもしてくれれば聖剣の力は発動せず、魔法が使える」
「わかりました。ティファさんの件は終わってから話し合うことにしましょう。■■■を■■するかはそれから決めます」
「出来れば■■しない方向で頼む」
試合再開ごとくベルカーラは走り出す。
大振りの一撃、ユリアスは流しながらベルカーラのふところに入り込む。
光の速さの突き。
それを身体をを後ろに沿って避ける。
ベルカーラの赤色の髪が数本斬られたが、避ける勢いを利用して蹴り。
その蹴りはユリアスの顎に直撃した。
後ろに数歩引いてひるむ。
「【探偵を亡き者にした不条理に裁きの鎖を】」
異次元から現れた鎖がユリアスを拘束。
「卑怯すぎるぞアルバート! それでも兄の弟か」
「悪いが[魔法使い]というのは元々後衛職業だ。[剣士]対[魔法使い]自体[正々堂々]ではないのではないか?」
「ぐぬぬ。もっともらしい事を言って兄の思考を乱そうとは」
「しかしアルバはその限りではありません。同ランクの[剣士]対[魔法使い]でしたら前衛職の方が接近戦で圧倒するでしょうが、【神種領域ランク】最強の[魔法使い]にその常識は通じませんよ」
「お前はどちらの味方なんだ」
「少なくとも浮気者の味方ではないのは確かです」
もうティファとの話題に切り替わろうとしている。
「そうか。うむ、[正々堂々]に変わりはない」──ユリアスが力を入れると鎖からギシギシッと音が鳴った。
【探偵を亡き者にした不条理に裁きの鎖を】は魔力を感知するとより硬くなり拘束者を縛り上げる。
しかしユリアスは筋力だけで抜け出そうとしていた。
「大義は兄にあり!!」──おかしな掛け声で聖剣【英傑なる聖処女】を持っている右腕の拘束が外れた。
「……脳筋ゴリラが」
俺に標的を定めたがベルカーラが前に立ち、聖剣を受け止める。
「これ以上、この脳筋と付き合っていても消耗するだけだ。ここは引くぞ」
「わかり──っ」──意識が一瞬ユリアスから離れた所を狙われた。
ベルカーラの大剣が宙を舞う。
それからユリアスは聖剣を俺に向かって投擲。
「避けてください!!」──珍しくベルカーラが血の気が引いたような青い顔をして叫ぶ。
「っ!?」──左腕の肉をえぐる。──「【回復】」
痛みを感じるのは嫌いなため速攻回復魔法詠唱。
瞬間傷を負ったがおかげで聖剣はユリアスから離れた。
魔法完全無効の[魔封石龍]の化石から作られた大剣だってベルカーラの手から離れている。
腕を前に。
意図を察してユリアスは突進してくるが間に合わないだろう。
「しばらく[魔封石龍]の化石は任せたぞ。〝弟からの頼み〟だ。誰にも盗られるなよ」──「【転移】」




