【幕間】‐Wicked Woman,The Fiercer The Love.‐
[女盗賊]ルパナ・ドレクロッコは男に尽くすタイプの人物ではない。
むしろ自分の父親がそうであったように、男は信頼を裏切る者だと思っている。
ルパナの父親はそれなりに名の知れた盗賊団の団長で、一時は盗賊団を止めて家族と暮らすことを選んだが最終的には家族を捨てて悪行仲間を選んだ。
捨て台詞は『騙された方が悪い。他人を信用するな』──だった。
残されたのはルパナと病で寝たきりの母、そして幼い弟達。
元は貴族だった母方の資産だって、父親の賭け事に消えている。
だからルパナは[女盗賊]になった。
皮肉にも盗みの才能が遺伝していたようで技術を自分の物にするのに時間は必要としなかった。
それから小さな悪行を繰り返した。
必要最低限の食料や母のため薬を盗んだ。
街の者達には嫌われたが、捕まったことはない。
これは必要な行いなのだ。家族を守る為ならどんな悪にだってなってやる。
──そんなある日、殺人事件の容疑者になった。
宝石店を営んでいる男性が殺害され、商品も全て盗まれていたのである。
否定しても町の者は聞き入れてくれず、ルパナの犯行だと決めつけたのだ。
大人達に囲まれて罪の告白を強要される。
そこに彼が現れた。
黒い髪をしており、膨大な魔力量でその場の全員を黙らせた少年。
彼は魔法を使うわけでもなく事件現場の物的証拠のみで犯人を言い当て、ルパナの冤罪を晴らした。
その人物がドラゴネス王国のアルバート第三王子であると知ったのは随分と後の事だ。
あの時の恩を返す為、アルバが管理する魔法省に努力して入ったのだが……。
「私にしては随分と尽くした方じゃないかしら? 上司よりも先に一般人に重要情報を伝えて、帝国に潜入するのも手伝ったわけだし」
褐色の肌をしており、髪はやや癖のある長髪で銀色。薄着。下乳が見えるスポーツブラのようなものと短パンジーンズ。
あれから時が経ち、悪女の風格を手にしたルパナはだらける。
さっきまで似合わない敬語を使っていたせいでとても疲れた。
「これで貸しなし。この件からは手を引くわ。そもそも婚約者がいて、王子のくせに金銭に困っているような男を慕い続けるほど楽観的ロマンチストでもないのよね」
だからさっさと王国に帰ってしまおう。
アルバの常識外れの魔力の他に背筋が凍るほどおぞましい魔力を感じてから、自分の出る幕はないと気付いていたわけで。
ルパナは馬車の御者席に移る。
行きは魔法省開発の[魔法人形]に運転させていたが、この人形は魔力を送り続けなければ動かないため魔力量が平凡値の彼女にはこの距離の往復はもたない。
しかも許容量以上の魔力を注ぐとすぐに壊れてしまうため、このように休み休み使わなけれはならない。
「ん? なにあれ」
発進しようとしたら遠くから、こちらに近づくなにか。
──鳥。しかもかなり大きい。
間違いなく、ルパナを標的に飛んでいる。
「きゃあああああああああ! ……え」
衝突する寸前に鳥は紙に姿を変えた。
アルバからの手紙である。
内容は自分の正体が見破られていたこと、感謝の言葉、逃げて欲しいということ(言われなくても)。
それから〝面倒を見てくれ〟と。
………………誰の?
「王国に帰っちゃ困るの!」
「君だってさっきの魔力を感じたろ? 子供の僕達がどうこう出来るとは思えない」
馬車の屋根上、ひょこっと顔を出したのはクセのある長い黒髪の[猫亜人]のロリと、帽子を深くかぶった(一部赤い)白髪の[鳥亜人]……こちらはショタだろうか。
「えっと、誰?」
「ノラ! アルバの[探偵]のお師匠様なの。えへんっ」
「僕はトキ。止めたのだけどノラが着いていくって聞かなくて。飛び乗ったわけさ」
出発時の大きな音はそれか。
アルバが苦笑いしていたわけを理解した。
「おば──お姉ちゃん。アルバ達を追って」
「あら、『おば』ってなにかしら? 猫幼女」
「ふたりはノラがいないとダメダメなの! だから行く!!」
「断るわ。子供が行ってなんの役に立つと言うのよ。それに彼が貴女を置いていったのは国同士のいざこざに巻き込まないためじゃないかしら? その思いやりを無下にするわけ」
「そんな思いやり、アルバの分際で100年早いの」
決意は固いようだ。
ルパナが王国に帰ろうとしたら馬車から飛び降りてふたりを追って帝都に向かうと思われる。
「トキ君は頭良さそうだし、分かってくれるでしょ。友達を説得してくれる?」
「僕は女の子だから。『君』はやめて欲しい」
「え」──凛とした顔つき。服装も少年的。正直美形ショタにしか見えない。──「推せる」
「それにノラは決心したら絶対に曲げない。他が合わせるしかないんだよね」
「めんどくさい友達ね」
「確かに。手を焼いている。でも僕はノラの[探偵助手]だからね。そのわがままを手助けするのが役目さ」
「……友達なら『めんどくさい』を否定して欲しいの」
まるで小さくなったアルバとティファ。
この事件から逃げてたまるかという執念を感じた。
[女盗賊]ルパナ・ドレクロッコは尽くすタイプの人物ではない。
「はあ。仕方ないわね」──けれど頼られたら断れないたちである。
馬車を帝都へと向かわせた。




