【帝都】‐Imperial Capital‐
俺を語る偽物との邂逅。
奴は魔法で再現された自分の姿に魔力を送り込み襲ってきた。
【神種領域ランク】の魔力量の持ち主がそれなりの近さにいたら指輪をはめた状態だって察知出来る。
先ほど感じた、背筋が凍るような魔力は微塵もない。
相当遠くにいる状態でそんな芸当が出来るなんて信じたくはないが。確かに行われたのだ。
「今回の犯人は[探偵]として向き合っていては世界が終わるな。……仕方ない。この事件だけ、[魔法使い]として解決してやろう。しかしいつもながら後手に回っている。相手は俺の事を知り尽くしているような口ぶりだったが、奴は謎そのものだ」
「アルバに執着しているのは確かだね」──下着を着替えたばかりのティファが呟く。
「なり替わるつもりなのか。恨みがあって俺の悪評を広めたいのか。どちらにせよ迷惑極まりないな」
「これからどうする? さっきの偽アルバを追うか。それとも──」
「神父の事件だな。実物に会って感じたが、奴は町の全員の命をあくび混じりに奪えたはずだ。だがそうしなかった。死者は神父のみ。……俺の名を語ったのはこの事件を解いてみろという挑戦状なのかもしれん」
「でも事件現場の保全はおろか、証言者、おろか容疑者もいない。そんな状況でどうやって事件の解決なんてするつもり?」
「ミステリーが成り立っていないのなら、こちらだって様式美を守る必要はない」
指輪に手をかける。
一瞬、奴がまた目の前に現れるのでは? という警戒心を覚えたが器になるものがないのだから心配はない。
そもそもこの事件でだけは魔法無くして解決は見込めないのも事実である。
指輪をはずす。
「【行方調査】」──手前に巨大な地図が現れる。──「〝帝国〟〝青年〟〝孤児〟〝羊亜人〟」──見た目も事細かに。
地図の絵が動き、一点を指し示す。
この場所に神父の遺体から鍵を盗み取った青年がいる。
「R・Dさんは連れて行かないの?」
「ああ、別行動だ。偽物がまた現れたらそう何人も守ってやれない。それに子守りするのもめんどうだからな」
「子守り?」
「だが馬車でずっと待たれたら困るから、置手紙くらいは残してやるか──【伝言】」
──────────────────
R・D──もとい親愛なるルパナ・ドレクロッコへ。
こうして自由に動けるのもお前のおかげだ。感謝する。
先に帝都へ行く。
追いたければ来い。
けれど今回の敵は手強い為、出来れば逃げて欲しい。
それと隠れて着いてきた、うちの弟子とその友人の面倒も見てくれたら助かる。
アルバより。
──────────────────
魔法で作られた用紙は書き終わると鳥の姿に変わり、馬車の方へと飛んでいく。
「【転移】」
景色が変わる。
なにもない平地から、宗教色の強い建築物が並ぶ絶景地。
前世で言うところのローマのような古典主義建築。
ここは帝都──【ルガルアン帝国】の首都である。
この場で一番高い時計塔の屋根に転移した。
「あわわっ」──強風で落ちそうになるティファを抱き留める。
「帝都に来たのは良いが魔力を解放したままじゃすぐ見つかる」
「降りてから! 降りてから指輪はめて!!」
「確かにここじゃ危ないな」──「【時間停止】【飛行】」
気付かれないように時間を止めて、地上に降りる。
それから魔力を消す為、指輪をはめる。
帝都は国民でごった返しになっていた。
消された片田舎の町に住んでいた者達や噂を聞いて帝都に移住してきた者達だろう。
皇帝を守れるように主戦力が集まっている為、他の領地よりも安全なのは言うまでもない。
全てが[獣亜人]。
[人間]はいない。アルバート第三王子を語る襲撃者のせいで居場所が無くなったと考えるべきだろう。
ルパナから【獣亜人化する変装道具】をもらっていなければ今頃石を投げつけられ罵声を浴びていたかもしれない。
「号外、号外。20ルガリ。世界初アルバート第三王子の似顔絵付き! 極悪人の顔だ。買わなきゃ損だよ」
……似顔絵付きだと?
ドラゴネス王族の姿を記録することは罪とされ、しようものなら魔法が発揮され記録者は捕縛される。
「くそ。ルガリ金貨を持っていない。……やむを得ん、盗むか」
「だめだよ。ちょっとならあるから買ってあげるね」
「本当になんでも持っているな」──秘密のリュックサックからこの国の通貨であるルガリ金貨を出した。
「えへへ、アルバと出会う前は国を転々としてたから」
あり得ないことだが本当に顔が知られていると困るから、俺は距離を取る。
代わりにティファに号外を買ってきてもらう。
号外売りはデレデレした顔になった。
無事に買うことが出来たのか小走りでこちらに戻ってくる男の娘[半妖精]──変装の効果で[兎亜人]だが。
「15ルガリまで値引きしてくれた。『ご飯奢らせてくれたら無料でも良い』って言われたんだけど断ったよ」
【妖精のなりそこない】と呼ばれる茶髪の[半妖精]。
腫れ物じゃなくなったら、ただの可愛い少女にしか見えないからなコイツ。
だが男だ。
号外を開きふたりで中身を見る。
ページ大きく描かれた似顔絵。
この世界では珍しい黒い髪。気怠そうな瞳。
絶世の美青年という程ではないが、整った顔立ち。
「アルバだね」
「ああ。間違いなく俺だ」
存在するはずのない正確な似顔絵。
しかも煽り文には【懸賞金60億ルガリ!! 生け捕りならば皇帝から追加報酬あり!! 今こそ団結だ[賞金稼ぎ]!!】。
……なるほど。
ガラの悪い輩が多くいると思えば、全員俺の首目当てか。




