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【変装】‐Disguise‐

 馬車に揺られる事、約8時間。

 身体が凝ってしまい全身痺れている。


「そろそろ帝国領地に付きます。身を潜めるために変装でもいたしましょうか」──カバンから衣服と魔法道具を取り出すR・D。


「【ルガルアン帝国】の正装か」


 軍服にも似ており、国旗と同じく狼のエンブレムが胸に付いている。

 元々は[狼亜人(デミ・ウルフ)]の民族衣装だったものが次第に現代風になったらしい。


 当然のようにティファには女性用のスカート仕様が手渡された。


「えっと、馬車内で着替えるのかな?」


「はい。わざわざ馬車を止めている時間はアルバート第三王子にはございませんので」


「帝国に着いたらその呼び方は止めてくれ」


「なんとお呼びしたらよろしいでしょうか」


「第三王子の肩書は捨てている。ただ、アルバと」


「では、アルバ様と呼ばせていただきます」


 正直『様』もいらないんだが。

 王位継承権を捨ててただの[探偵(ディテクティブ)]として生きている一般人と魔法省の職員。

 どちらかと言ったら彼女の方が身分は上ではないか。


「どうしました、ティファさん?」──そわそわとしているティファが気になったのか声をかけた。


「なんて言うか……密室空間で、見られながら着替えるのは……恥ずかしい、かなぁと」


「ああ、どうぞ気になさらず。アルバ様が魅了されてなにかおっぱじめても見なかった事にしますので。まあ、私も混ざれというのであればやぶさかではございませんが」


 なんで恥ずかしげもなくこんなセリフを言える?


「こいつは〝男〟だ」──勘違いされたままでは困るから早めに伝えておく。


 ぎょっと目を丸めた。

 それからティファの身体をつま先から頭の上まで舐めるように眺めるが、俺の言葉が真実だとは思えなかったようで首を傾げる。


「信じられませんが、だとしたら(おもむき)深い。むしろ推せますね」


 目をキラキラさせてグッドサイン。

 ティファの頭上に『???』が見えた。


「それでも気になるようでしたら、私の魔法で着替えますか? [女盗賊(シーフ)]には自分の所持品と相手の所持品を入れ替えるという魔法がありますので」


「お願い、出来るかな?」


「はい、喜んで」──「我は略奪する者。富を謳歌する輩から、空腹の民へ恵みあれ。──【物々交換(トレード)】」


 R・Dの手元にあった正装とティファの普段着が入れ替わる。


「わあ! ありがとう」


「こちらこそ、家宝にいたします」


「あ、あげないよ!?」


 ティファの服の匂いを嗅ごうとしていたから取り上げる。

 持ち主に返し、リュックサックに入れた。


 俺は別に羞恥心などは無い為、普通に着替える。

 ティファは気を遣ってか窓の外を眺めているが、R・Dは吟味するようにじっと眺めた。


「それからこちらもお付けください。【ルガルアン帝国】は[獣亜人]中心の国として有名ですので、[人間]が事件を嗅ぎまわっていたら目立ちます」


 取り出したのは獣耳のカチューシャ。頭に付けて髪の毛を押さえるヘアバンドである。

 ひとつはウサギ耳。もうひとつは犬耳。


 これは魔法(マジック・)道具(アイテム)である[亜人(デミ・)化具(チェンジャー)]。

 種族能力の変化などはまったくないのだが、見た目だけ[獣亜人]に変化させる道具。

 潜入捜査や、()()()()()()()などに使われる。


「ティファさんはウサギ。アルバ様は犬でお願いします」


 言われるがままカチューシャを装備する。

 獣耳が皮膚に馴染む感覚と臀部(でんぶ)に違和感を覚えた。


「尻尾が生えてる!!」


「はい。帝国の正装には尻尾用にチャックがありますので、調節してください」


 ズボンから柴犬のような、くるんと丸みを帯びた尻尾が飛び出る。

 ティファのスカートからは丸くてほわほわした尻尾が。

 センシティブに見えるのはなぜだろう。


「通常の耳は無くなるんだな」


「無い、と言うよりも魔法で見えなくしているのです」


「ホントだ。触ったら感覚はあるね」


「[半妖精(エルフ)]の耳が無くなると種族のアイデンティティーが損なわれるな」


「仕方ありませんよ。茶髪の[半妖精(エルフ)]こそ違う意味で注目を集めてしまいますから」


 特に使い勝手が良いとは思っていなかった魔法(マジック・)道具(アイテム)だったが、そう聞くと意外にも汎用性が高いのかもしれない。


 獣耳や尻尾の感覚を確かめていると、馬車が止まった。


「着きました。ここが【アルバート第三王子(偽)の襲撃によって消された帝国の領地であり、殺害された神父が領主をしていた片田舎の町】です」


 R・Dが馬車の扉を開く。


 ──……なにもない。

 ただただ平地が広がっていた。


 先日まで町として栄えていた場所には思えない。


「この広範囲を一瞬に消したのか?」


「はい。しかも[飛行魔法(フライ)]を続け、大規模魔法を使用したすぐに[転移魔法(テレポート)]で姿を消したと聞いております」


「余力を残して、この威力か」


「そんなの普通の存在じゃないよ……悪魔か、邪神の類」


 青ざめるふたり。

 こんな光景を目の当たりにしたら仕方がない。


「ましてや標的であろう神父だけを殺害し、他の帝国民は生かした精密度。俺を語るその不届き者は少なくとも魔力量【SSランク】以上。──【神種領域(SSS)ランク】でもおかしくないだろう」


 正体も目的も不明な、俺と同じく魔力量【神種領域(SSS)ランク】。

 ──きっとこの事件も[探偵(ディテクティブ)]のままではいられない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます! いよいよ帝国へ! その前にお着換えっ……って、工エエェェ(´д`)ェェエエ工 ティファの着替えシーンはあえなくカット(; ・`д・´)ぐぬぬ・・・ 普段着は読者…
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